65 / 187
第一部
第四章 嵐呼ぶブラコンと推しの危機⑨『忘れてた…』
しおりを挟む
九
(そういえば、三人兄弟の亜佐美も一番下の弟は、特に可愛がっていたな……。)
弟繋がりで親友の亜佐美のことを思い出す沢崎直。ただ、亜佐美の可愛がり方は少々クセがあった。彼女にとっては存分に可愛がっているつもりでいたが、弟がそう受け取っていたかは不明だ。だが、えてして姉とはそういう存在なのかもしれない。
一人っ子の沢崎直が兄弟というものに思いを馳せていたが、そこで何かを思い出しそうになった。
(……何か忘れてるような……。)
だが、何かは上手く思い出せない。
思い出せないことの代わりに親友のことを思い出した沢崎直は、ついでにヴィルに尋ねてみる。
「ヴィルは、甘いモノよりも辛い物が好きですか?」
親友の亜佐美は激辛好きだった。
沢崎直も辛いものが苦手というわけではないので、一緒に辛い物を食べに行ったものだ。
もちろん、激辛へのチャレンジ精神豊富な亜佐美よりも、辛さは控えめのメニューを頼んではいたが……。
「そうですね。どちらかというと、そうかもしれません。」
ヴィルは微笑み、そう答えた。
沢崎直は心のメモ帳にしっかりとその情報を書き込んだ。
それからは、広場に流れる賑やかで穏やかな時間を感じながら、沢崎直はヴィルに買ってもらった飴を味わう。
ヴィルは沢崎直を急かせることはなく、飴を齧る沢崎直の傍らにいる時間を楽しんでいるように見えた。
二人の間に幸せな時間が流れていく。
そして、沢崎直が飴を食べ終わった頃を見計らって、ヴィルが尋ねてきた。
「そろそろロバート様への贈り物を探しに行かれますか?」
「っ!?は、はい!」
(しまったぁぁぁぁ!完全に忘れてたぁぁぁ!)
沢崎直は街に来た当初の目的を完全に失念していた。
「ロ、ロバート兄さんは、甘い物が好きですか?辛い物が好きですか?」
当初の目的を失念していたことを気づかれないように、会話を続ける沢崎直。
ヴィルとの街歩きが楽しすぎて、ロバート兄さんへのお土産を買うという目的を忘れていたことがバレては何だか居た堪れない。
ヴィルは、そこには触れずに沢崎直の質問に真摯に答えてくれる。
「甘い物よりは辛い物の方がお好きかと思われます。」
「……辛い物か……。だったら、お酒とかも好きですか?」
親友の亜佐美は辛党の酒豪だった。辛党の人間は沢崎直の個人的な統計的に酒豪の傾向がある。そう思い、尋ねてみる。
ヴィルは笑顔で頷く。
「はい。よく嗜まれます。」
その言葉で、沢崎直の心は決まる。
酒豪の人間へのお土産は酒に限る。それ以上のものはない。
(……あとは、酒の肴とか……?)
方針を決めてお土産を考え始めた沢崎直に、ヴィルが提案する。
「では、酒屋に参りましょうか?」
「はい、お願いします。」
一行は街の散策からお土産探しに目的を変更して、今度は大きな商店の並ぶ通りへと向かい歩き出した。
街は昼下がりから夕刻へと傾き始めた日差しを浴びて、更に活力を帯び始める。
街中に響く呼び込みや子供たちの笑い声が、この場所の穏やかさと平和さを表しているようだった。
(そういえば、三人兄弟の亜佐美も一番下の弟は、特に可愛がっていたな……。)
弟繋がりで親友の亜佐美のことを思い出す沢崎直。ただ、亜佐美の可愛がり方は少々クセがあった。彼女にとっては存分に可愛がっているつもりでいたが、弟がそう受け取っていたかは不明だ。だが、えてして姉とはそういう存在なのかもしれない。
一人っ子の沢崎直が兄弟というものに思いを馳せていたが、そこで何かを思い出しそうになった。
(……何か忘れてるような……。)
だが、何かは上手く思い出せない。
思い出せないことの代わりに親友のことを思い出した沢崎直は、ついでにヴィルに尋ねてみる。
「ヴィルは、甘いモノよりも辛い物が好きですか?」
親友の亜佐美は激辛好きだった。
沢崎直も辛いものが苦手というわけではないので、一緒に辛い物を食べに行ったものだ。
もちろん、激辛へのチャレンジ精神豊富な亜佐美よりも、辛さは控えめのメニューを頼んではいたが……。
「そうですね。どちらかというと、そうかもしれません。」
ヴィルは微笑み、そう答えた。
沢崎直は心のメモ帳にしっかりとその情報を書き込んだ。
それからは、広場に流れる賑やかで穏やかな時間を感じながら、沢崎直はヴィルに買ってもらった飴を味わう。
ヴィルは沢崎直を急かせることはなく、飴を齧る沢崎直の傍らにいる時間を楽しんでいるように見えた。
二人の間に幸せな時間が流れていく。
そして、沢崎直が飴を食べ終わった頃を見計らって、ヴィルが尋ねてきた。
「そろそろロバート様への贈り物を探しに行かれますか?」
「っ!?は、はい!」
(しまったぁぁぁぁ!完全に忘れてたぁぁぁ!)
沢崎直は街に来た当初の目的を完全に失念していた。
「ロ、ロバート兄さんは、甘い物が好きですか?辛い物が好きですか?」
当初の目的を失念していたことを気づかれないように、会話を続ける沢崎直。
ヴィルとの街歩きが楽しすぎて、ロバート兄さんへのお土産を買うという目的を忘れていたことがバレては何だか居た堪れない。
ヴィルは、そこには触れずに沢崎直の質問に真摯に答えてくれる。
「甘い物よりは辛い物の方がお好きかと思われます。」
「……辛い物か……。だったら、お酒とかも好きですか?」
親友の亜佐美は辛党の酒豪だった。辛党の人間は沢崎直の個人的な統計的に酒豪の傾向がある。そう思い、尋ねてみる。
ヴィルは笑顔で頷く。
「はい。よく嗜まれます。」
その言葉で、沢崎直の心は決まる。
酒豪の人間へのお土産は酒に限る。それ以上のものはない。
(……あとは、酒の肴とか……?)
方針を決めてお土産を考え始めた沢崎直に、ヴィルが提案する。
「では、酒屋に参りましょうか?」
「はい、お願いします。」
一行は街の散策からお土産探しに目的を変更して、今度は大きな商店の並ぶ通りへと向かい歩き出した。
街は昼下がりから夕刻へと傾き始めた日差しを浴びて、更に活力を帯び始める。
街中に響く呼び込みや子供たちの笑い声が、この場所の穏やかさと平和さを表しているようだった。
11
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
妻は異世界人で異世界一位のギルドマスターで世紀末覇王!~けど、ドキドキするのは何故だろう~
udonlevel2
ファンタジー
ブラック会社を辞めて親と一緒に田舎に引っ越して生きたカズマ!
そこには異世界への鏡が納屋の中にあって……異世界に憧れたけど封印することにする!!
しかし、異世界の扉はあちらの世界にもあって!?
突如現れた世紀末王者の風貌の筋肉女子マリリン!!
マリリンの一途な愛情にカズマは――!?
他サイトにも掲載しています。
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。
運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。
憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。
異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。
異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!
マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です
病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。
ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。
「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」
異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。
「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」
―――異世界と健康への不安が募りつつ
憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか?
魔法に魔物、お貴族様。
夢と現実の狭間のような日々の中で、
転生者サラが自身の夢を叶えるために
新ニコルとして我が道をつきすすむ!
『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』
※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。
※非現実色強めな内容です。
※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
せっかく異世界に転生できたんだから、急いで生きる必要なんてないよね?ー明日も俺はスローなライフを謳歌したいー
ジミー凌我
ファンタジー
日夜仕事に追われ続ける日常を毎日毎日繰り返していた。
仕事仕事の毎日、明日も明後日も仕事を積みたくないと生き急いでいた。
そんな俺はいつしか過労で倒れてしまった。
そのまま死んだ俺は、異世界に転生していた。
忙しすぎてうわさでしか聞いたことがないが、これが異世界転生というものなのだろう。
生き急いで死んでしまったんだ。俺はこの世界ではゆっくりと生きていきたいと思った。
ただ、この世界にはモンスターも魔王もいるみたい。
この世界で最初に出会ったクレハという女の子は、細かいことは気にしない自由奔放な可愛らしい子で、俺を助けてくれた。
冒険者としてゆったり生計を立てていこうと思ったら、以外と儲かる仕事だったからこれは楽な人生が始まると思った矢先。
なぜか2日目にして魔王軍の侵略に遭遇し…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる