49 / 187
第一部
第三章 SUR級モンスター 女子力の化身、襲来!!㉓『メイドのシンシアさん、再び』
しおりを挟む
二十三
ヴィルはメイドのシンシアを呼びに行くために立ち去り、室内には沢崎直と新人メイドのエミリーが残された。
「……あの、私、クビじゃないんですか?」
何度か逡巡した後、おずおずと小さな掠れ声で新人メイドのエミリーが尋ねる。
沢崎直は彼女を少しでも安心させたくて穏やかな笑顔と声音で答えた。
「クビになりたかったですか?」
「い、いえ。」
慌てて首を振る新人メイドのエミリー。
「だったら、大丈夫ですね?これからもよろしくお願いします。」
軽く頭を下げる。
エミリーは主人に頭を下げられ、ぱくぱくと口をさせながら更に慌て始めた。
「えっ、えっ、あの。」
事の真偽は分からないが、新人メイドのエミリーの方が沢崎直からすれば好感が持てる。大体、あのきつめの美人のメイドさんは気付いていないようだったが、新人が何度も粗相を繰り返すとしたらそれこそ教育係が責任を取る事態だ。新人の教育が出来ていないのだから、責められるのは新人ではなく対処できていない教育係である。新人は掃いて捨てるほどいるから辞めさせればいいという理屈で考えているのか、それとも自分の意見が通る強力な後ろ盾でもあるのかは知らないが、自分のお気に入りだけで派閥を作って仕事をしてもらっては困る。教育係としては二流三流だ。一流の教育係は、それぞれの持ち味を伸ばすことに長け、どんな人材も生かせるはずだ。
何かしらのスポーツの世界大会で優勝した国の代表を率いていた監督の大きかった背中と穏やかでありながら熱意に溢れた姿勢を思い出し、沢崎直はそう結論付けた。
一人で納得して、新人メイドのエミリーに笑いかける沢崎直。
メイドさんは訳が分からず慌てたままではあったが、室内の空気は当初よりもずいぶん軽くなっていた。
そんな室内に、早速メイドのシンシアを連れたヴィルが帰還を果たす。
「お待たせいたしました。シンシアを連れてまいりました。」
「あ、あのー……。」
突然アルバートの居室に連れてこられたメイドのシンシアは、事態が理解できずに挙動不審で慌てていた。
どうやらヴィルは連れてきただけで道中に事情を説明しなかったようだ。
「わ、私、何かしてしまいましたか?」
ビビっているという表現が相応しい反応を示し、メイドのシンシアはその場できょろきょろとヴィルとアルバートを交互に見比べる。一瞬でも気を抜くと、脱兎のごとく逃げ去りそうだ。
そんな裏表のなさそうで素直なシンシアの反応に、沢崎直はほっとひと息つく。
(やっぱり、落ち着くなぁ……。シンシアさん、この間会った時に思ったけど、いい人そうだし……。何より、見てて和むぅ……。)
シンシアの存在は癒しだ。その上、この調子なら大丈夫だろう。そう確信して、沢崎直は微笑むと、シンシアを安心させるために語りかけた。
「大丈夫です、シンシアさん。何もしてません。私が頼みたいことがあったので、来てもらっただけです。」
「えっ?」
語りかけられて、シンシアは動きを止めると沢崎直の方を見つめた。
「シンシアさんには、こちらの新人のエミリーさんの教育係をお願いしたいんです。引き受けていただけますか?」
シンシアにエミリーを紹介する。
エミリーは頭を下げ、シンシアはエミリーを見つめた。
二人の並んだ姿を見て、何となく相性がよさそうだと沢崎直は思った。
「わ、私でいいんですか?」
「はい。お願いします、シンシアさん。エミリーさんもよろしいですか?」
シンシアを見つめた後、エミリーは少しだけ元気を取り戻したように頷いた。
「はい。」
ようやく事態が一件落着しそうだった。
ヴィルはメイドのシンシアを呼びに行くために立ち去り、室内には沢崎直と新人メイドのエミリーが残された。
「……あの、私、クビじゃないんですか?」
何度か逡巡した後、おずおずと小さな掠れ声で新人メイドのエミリーが尋ねる。
沢崎直は彼女を少しでも安心させたくて穏やかな笑顔と声音で答えた。
「クビになりたかったですか?」
「い、いえ。」
慌てて首を振る新人メイドのエミリー。
「だったら、大丈夫ですね?これからもよろしくお願いします。」
軽く頭を下げる。
エミリーは主人に頭を下げられ、ぱくぱくと口をさせながら更に慌て始めた。
「えっ、えっ、あの。」
事の真偽は分からないが、新人メイドのエミリーの方が沢崎直からすれば好感が持てる。大体、あのきつめの美人のメイドさんは気付いていないようだったが、新人が何度も粗相を繰り返すとしたらそれこそ教育係が責任を取る事態だ。新人の教育が出来ていないのだから、責められるのは新人ではなく対処できていない教育係である。新人は掃いて捨てるほどいるから辞めさせればいいという理屈で考えているのか、それとも自分の意見が通る強力な後ろ盾でもあるのかは知らないが、自分のお気に入りだけで派閥を作って仕事をしてもらっては困る。教育係としては二流三流だ。一流の教育係は、それぞれの持ち味を伸ばすことに長け、どんな人材も生かせるはずだ。
何かしらのスポーツの世界大会で優勝した国の代表を率いていた監督の大きかった背中と穏やかでありながら熱意に溢れた姿勢を思い出し、沢崎直はそう結論付けた。
一人で納得して、新人メイドのエミリーに笑いかける沢崎直。
メイドさんは訳が分からず慌てたままではあったが、室内の空気は当初よりもずいぶん軽くなっていた。
そんな室内に、早速メイドのシンシアを連れたヴィルが帰還を果たす。
「お待たせいたしました。シンシアを連れてまいりました。」
「あ、あのー……。」
突然アルバートの居室に連れてこられたメイドのシンシアは、事態が理解できずに挙動不審で慌てていた。
どうやらヴィルは連れてきただけで道中に事情を説明しなかったようだ。
「わ、私、何かしてしまいましたか?」
ビビっているという表現が相応しい反応を示し、メイドのシンシアはその場できょろきょろとヴィルとアルバートを交互に見比べる。一瞬でも気を抜くと、脱兎のごとく逃げ去りそうだ。
そんな裏表のなさそうで素直なシンシアの反応に、沢崎直はほっとひと息つく。
(やっぱり、落ち着くなぁ……。シンシアさん、この間会った時に思ったけど、いい人そうだし……。何より、見てて和むぅ……。)
シンシアの存在は癒しだ。その上、この調子なら大丈夫だろう。そう確信して、沢崎直は微笑むと、シンシアを安心させるために語りかけた。
「大丈夫です、シンシアさん。何もしてません。私が頼みたいことがあったので、来てもらっただけです。」
「えっ?」
語りかけられて、シンシアは動きを止めると沢崎直の方を見つめた。
「シンシアさんには、こちらの新人のエミリーさんの教育係をお願いしたいんです。引き受けていただけますか?」
シンシアにエミリーを紹介する。
エミリーは頭を下げ、シンシアはエミリーを見つめた。
二人の並んだ姿を見て、何となく相性がよさそうだと沢崎直は思った。
「わ、私でいいんですか?」
「はい。お願いします、シンシアさん。エミリーさんもよろしいですか?」
シンシアを見つめた後、エミリーは少しだけ元気を取り戻したように頷いた。
「はい。」
ようやく事態が一件落着しそうだった。
21
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
菓子つくり令嬢〜誰か忘れちゃいませんかってんだい〜
高穂もか
恋愛
リメリア・ガーネットは、王太子であるアスラン・メルティスに「婚約者の筆頭候補を辞退してほしい」と言われる。
アスランは、平民出身のステラ・クオーツと恋仲で、彼女を王太子妃とするべく、協力を頼んできたのだ。
しかしリメリアは、大いに不服だった。ずっと王太子妃を目指し、十七年間もえっせほっせと努力してきたのだから。
そこで、ステラにお菓子づくりの勝負を申しこむ。
実はリメリアは「転生者」で、前世はお菓子づくりの得意な女子校生だったのだ!
「ステラ嬢より美味しいお菓子をつくって、殿下を振り向かせてみせますわ〜!」
「……そんな上手くいくかあ?」
盲信するリメリアは、従兄のロルフと共に悪だくみをするのだが――
ちょっとおバカな令嬢と、従兄のどたばたラブコメです♡



没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる