48 / 187
第一部
第三章 SUR級モンスター 女子力の化身、襲来!!㉒『アルバートのお沙汰』
しおりを挟む
二十二
静々と無言のまま絶望を抱えている新人メイドさんと、涼しい美貌の超絶イケメンを従えて、沢崎直は自室に帰還した。
先程の部屋を出た時、背後で教育係のメイドさんが勝ち誇った顔でほくそ笑んでいたのを背中に感じていたが、その場で沢崎直に出来ることはなかった。
いつの世も、悩みの原因の多くを占めるのは人間関係だが、異世界でもそれは共通事項らしい。新人メイドのエミリーから漂う重苦しい空気を背中で感じながら、会社の新人研修の揉め事を沢崎直は思い出していた。
(……派手な女は、とかく周りと揉めたがる……。まあ、偏見だけど……。)
派手である分、その所業も目立つため、モブ女である沢崎直がそう感じたに過ぎないが、会社員時代の揉め事を起こしていた派手な先輩と後輩の顔を思い出し、心底げんなりしていた。
(……噛みつかれた方には、問題がそれほどないこともあったんだよな……。まあ、問題が大アリで自業自得の事もあったけど……。)
今回の場合はどちらだろう?
あのきつい美人の気に障った原因に正当性があるのかないのか?
室内でヴィルは従者としての定位置である傍らに着いたため、新人メイドのエミリーと、男二人が対峙する形になる。
ただでさえ主人であるアルバートに呼び出されている状態で、その上、彼女自身の落ち度を指摘されている状況だ。まだ年端もいかぬ少女とも呼べる年齢のメイドのエミリーは、明らかに恐縮していた。
せめて威圧感を出さないように、とりあえず長身の自分が見下ろす状況を改善しようとしてエミリーに椅子を勧める沢崎直。
だが、エミリーは座ることはなかった。
(……無理か……。)
自分だけはせめてソファに座り、彼女を見上げる姿勢を取る。
使用人のそれも下っ端である新人メイドの彼女に、ここで椅子に座るような度胸はないだろう。礼儀作法を会社で叩き込まれた沢崎直も同じ立場だったら、絶対そうする。
(……とりあえず、どうしたらいいんだろう?)
あの場からの避難の意味も兼ねて連れてきたのだが、この場合の上手い事態の収拾の仕方がよく分からない。傍らに控えるヴィルを試しに見上げてみたが、特に何か口を出してくれる気配はなかった。
その内、新人メイドのエミリーが沈黙に耐え切れずに口を開く。
「……私はやってません……。」
それは、本当に小さな呟きで、聞き逃してしまうくらいの声量だったが、沢崎直の耳には届いた。
こんな状況でも気丈に振舞おうとしている姿が健気だ。だが、あと一押しでもしたら泣き崩れてしまいそうなほどの危うさも彼女の瞳からは感じられた。
(……いろいろ苦労してそうだな……。)
先程の教育係のメイドさんとの関係も昨日今日の物ではないだろうし、メイドという仕事も大変そうだ。
何をやっていないのか?何が正しいのか?
沢崎直には判断するだけの情報がなかったが、既に追い詰められている彼女にあまり質問を重ねるのも得策ではなさそうだった。
代わりに傍らのヴィルを見上げ質問してみる。
「えーっと、彼女のことって、私が決めても?」
「もちろんでございます。」
他に適任者がいて欲しくて質問してみたのだが、そういうことはヴィルは察してくれなかったようだ。結局、人任せにする選択肢を消されてしまっただけだ。
(荷が重いよぉ~。)
心でぼやいてみても、自分が主人であるアルバート氏であることからは逃げられない。
沢崎直は心の中でだけため息を吐いて、出来得る限り最善の策を講じるために持っている情報を整理し始めた。
そして、一つの提案をする。
「あのー、教育係を変更するって出来ます?」
「可能ですが?」
抵抗なくヴィルは提案を受け入れる。
この異世界に置いても、そこまで変なことは言ってなさそうだと、ヴィルの反応から結論付けると沢崎直は続けた。
「あのー、この屋敷で最初に会ったメイドの、えっとシンシアさんでしたっけ?彼女にお願いしたいんですが……。いいですか?」
「シンシアですか?かしこまりました。呼んで参ります。」
静々と無言のまま絶望を抱えている新人メイドさんと、涼しい美貌の超絶イケメンを従えて、沢崎直は自室に帰還した。
先程の部屋を出た時、背後で教育係のメイドさんが勝ち誇った顔でほくそ笑んでいたのを背中に感じていたが、その場で沢崎直に出来ることはなかった。
いつの世も、悩みの原因の多くを占めるのは人間関係だが、異世界でもそれは共通事項らしい。新人メイドのエミリーから漂う重苦しい空気を背中で感じながら、会社の新人研修の揉め事を沢崎直は思い出していた。
(……派手な女は、とかく周りと揉めたがる……。まあ、偏見だけど……。)
派手である分、その所業も目立つため、モブ女である沢崎直がそう感じたに過ぎないが、会社員時代の揉め事を起こしていた派手な先輩と後輩の顔を思い出し、心底げんなりしていた。
(……噛みつかれた方には、問題がそれほどないこともあったんだよな……。まあ、問題が大アリで自業自得の事もあったけど……。)
今回の場合はどちらだろう?
あのきつい美人の気に障った原因に正当性があるのかないのか?
室内でヴィルは従者としての定位置である傍らに着いたため、新人メイドのエミリーと、男二人が対峙する形になる。
ただでさえ主人であるアルバートに呼び出されている状態で、その上、彼女自身の落ち度を指摘されている状況だ。まだ年端もいかぬ少女とも呼べる年齢のメイドのエミリーは、明らかに恐縮していた。
せめて威圧感を出さないように、とりあえず長身の自分が見下ろす状況を改善しようとしてエミリーに椅子を勧める沢崎直。
だが、エミリーは座ることはなかった。
(……無理か……。)
自分だけはせめてソファに座り、彼女を見上げる姿勢を取る。
使用人のそれも下っ端である新人メイドの彼女に、ここで椅子に座るような度胸はないだろう。礼儀作法を会社で叩き込まれた沢崎直も同じ立場だったら、絶対そうする。
(……とりあえず、どうしたらいいんだろう?)
あの場からの避難の意味も兼ねて連れてきたのだが、この場合の上手い事態の収拾の仕方がよく分からない。傍らに控えるヴィルを試しに見上げてみたが、特に何か口を出してくれる気配はなかった。
その内、新人メイドのエミリーが沈黙に耐え切れずに口を開く。
「……私はやってません……。」
それは、本当に小さな呟きで、聞き逃してしまうくらいの声量だったが、沢崎直の耳には届いた。
こんな状況でも気丈に振舞おうとしている姿が健気だ。だが、あと一押しでもしたら泣き崩れてしまいそうなほどの危うさも彼女の瞳からは感じられた。
(……いろいろ苦労してそうだな……。)
先程の教育係のメイドさんとの関係も昨日今日の物ではないだろうし、メイドという仕事も大変そうだ。
何をやっていないのか?何が正しいのか?
沢崎直には判断するだけの情報がなかったが、既に追い詰められている彼女にあまり質問を重ねるのも得策ではなさそうだった。
代わりに傍らのヴィルを見上げ質問してみる。
「えーっと、彼女のことって、私が決めても?」
「もちろんでございます。」
他に適任者がいて欲しくて質問してみたのだが、そういうことはヴィルは察してくれなかったようだ。結局、人任せにする選択肢を消されてしまっただけだ。
(荷が重いよぉ~。)
心でぼやいてみても、自分が主人であるアルバート氏であることからは逃げられない。
沢崎直は心の中でだけため息を吐いて、出来得る限り最善の策を講じるために持っている情報を整理し始めた。
そして、一つの提案をする。
「あのー、教育係を変更するって出来ます?」
「可能ですが?」
抵抗なくヴィルは提案を受け入れる。
この異世界に置いても、そこまで変なことは言ってなさそうだと、ヴィルの反応から結論付けると沢崎直は続けた。
「あのー、この屋敷で最初に会ったメイドの、えっとシンシアさんでしたっけ?彼女にお願いしたいんですが……。いいですか?」
「シンシアですか?かしこまりました。呼んで参ります。」
21
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説
せっかく異世界に転生できたんだから、急いで生きる必要なんてないよね?ー明日も俺はスローなライフを謳歌したいー
ジミー凌我
ファンタジー
日夜仕事に追われ続ける日常を毎日毎日繰り返していた。
仕事仕事の毎日、明日も明後日も仕事を積みたくないと生き急いでいた。
そんな俺はいつしか過労で倒れてしまった。
そのまま死んだ俺は、異世界に転生していた。
忙しすぎてうわさでしか聞いたことがないが、これが異世界転生というものなのだろう。
生き急いで死んでしまったんだ。俺はこの世界ではゆっくりと生きていきたいと思った。
ただ、この世界にはモンスターも魔王もいるみたい。
この世界で最初に出会ったクレハという女の子は、細かいことは気にしない自由奔放な可愛らしい子で、俺を助けてくれた。
冒険者としてゆったり生計を立てていこうと思ったら、以外と儲かる仕事だったからこれは楽な人生が始まると思った矢先。
なぜか2日目にして魔王軍の侵略に遭遇し…。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!
マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です
病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。
ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。
「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」
異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。
「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」
―――異世界と健康への不安が募りつつ
憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか?
魔法に魔物、お貴族様。
夢と現実の狭間のような日々の中で、
転生者サラが自身の夢を叶えるために
新ニコルとして我が道をつきすすむ!
『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』
※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。
※非現実色強めな内容です。
※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。
髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。
昼寝部
キャラ文芸
天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。
その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。
すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。
「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」
これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。
※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。
異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。
みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~
楠富 つかさ
ファンタジー
地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。
そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。
できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!!
第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる