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第一部
第三章 SUR級モンスター 女子力の化身、襲来!!⑳『アルバートは見た!』
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二十
そんな異世界生活も十日程たったある日、いつものようにメイドさんの話を聞きに行こうとした沢崎直の耳に、何だか不穏な音が聞こえてきた。
「もう!いい加減にしてください。何度言えば理解してくださるの?」
「……すみません。」
どうもメイドさんが叱責されている場面のようだが、思ったよりその声が大きい。
何だか会社員時代の先輩後輩の関係を思い出し、沢崎直は室内をそっと窺った。
扉からドラマのどこかの家政婦のように気配を消して中を覗き見る。
室内にいたのは、複数のメイドさんたちだった。
床には壊れた物の欠片が散らばっている。
(……そういえば、ガシャーンッて聞こえたな、さっき。)
ガシャーンッと音を立てて壊れそうな物の残骸の前で、複数のメイドさんの集団に一人のメイドさんが今まさに叱責されていた。
「せめて仕事を増やすようなことはしないでいただきたいわ!」
一際大きな声で叱責しているメイドさんは、少し性格がきつめな美人タイプ。
その周りに取り巻きのようなメイドさんが複数いる。
「……すみません。」
頭を下げるメイドさんは、どちらかというと可愛い小動物系ほっこりタイプ。
ほっこりタイプのメイドさんは頭を下げて謝罪してはいるが、恐縮しているというよりは不満そうな感じに沢崎直には見えた。
「貴女の教育係としてこれ以上は見過ごせません!上に報告させてもらいます。」
そんなきつめの美人のメイドさんの言葉に、取り巻きのメイドさんたちは同意するように頷いた。
教育係に付いているということは、ほっこりタイプのメイドさんは新人なのだろう。確かに、複数いるメイドさんたちの中で年下に見えるその容貌はまだ幼さを残している。その幼さの残るメイドさんは、視線を下に落として唇を噛んでいた。
その年齢に相応しい不満げな様子が気に障ったらしく、教育係のきつめの美人なメイドさんがすっと怒りに目を細める。
沢崎直は会社の新人教育を思い出していた。
(……怖い先輩、いたよな……。……扱いにくい後輩も……。)
モブ女として板挟みになった過去を思い出し、沢崎直の胃がキュッとした。
「何か言いたいことでもおありなの?」
「……いえ、ありません。」
ほっこり系メイドさんは新人であるが場も分も弁えているのだろう。そこで誘いに乗って不満を口にするような愚を犯さなかった。
そんな新人メイドさんの態度に、沢崎直は好感を持った。
だが、沢崎直とは違い、何も言い返してこないことを教育係の先輩メイドさんは不満に思ったようだ。鼻を鳴らして肩を竦めると、首を振る。
「何もないということは、貴女はご自分の非を認めるということでいいのね?」
追い込むようにして、確認する。まるで獲物を追う蛇のような視線で、新人メイドさんを捉えた。そのメイドさんの様は、そのきつめの美貌と相まって、長い舌を出して舌なめずりをしているかのように沢崎直には見えた。
新人のメイドさんはどう返答していいか分からず黙り込む。この場合、認めようが認めまいが結果は変わらず言質を取られるだけで、何かしら次の追撃の材料にされるだけなのだろう。
「聞こえなかったのかしら?エミリーさん。」
「………。」
エミリーと呼ばれた新人メイドさんは、もう泣き出してしまいそうだった。
(……新人いびりなの、これ?……大声で周りに聞こえるように、それも集団でなんて……、私の基準ではパワハラなんだけど、この封建社会ではそういう感覚ってどうなってんの?)
はらはらそわそわと事の成り行きを見守る沢崎直。
会社ならそろそろ何かしらの助け舟を出した方がいい状況だが、ここは会社じゃなくて異世界だ。どうしたもんかと悩む。
(本当に教育する気なら、まずはミスのカバーが先でしょ?あの床に散らばってるモノが見えないの?)
目の前の状況に言いたいことは山ほどあるが、果たして沢崎直が口を挟むことは許されるのか?
「どうかされましたか?アルバート様。」
「ひゃっ!ひゃっいっ!!」
突然、背中から声を掛けられ、沢崎直の口から残念な声が出る。
その残念な声は緊迫した空気に良く響いた。
足音も立てず、簡単に沢崎直の背後を取った超絶イケメン・ヴィルヘルムの登場である。
二人の存在は、そのやり取りによって一瞬に室内のメイドさん集団にも知れ渡った。
「アルバート様?」
再度重ねて尋ねられた沢崎直は、愛想笑いを浮かべて後ろを振り返る。
「あ、あのー。」
とりあえず、沢崎直には全員の視線を浴びながら口を開くしか選択肢がなかった。
そんな異世界生活も十日程たったある日、いつものようにメイドさんの話を聞きに行こうとした沢崎直の耳に、何だか不穏な音が聞こえてきた。
「もう!いい加減にしてください。何度言えば理解してくださるの?」
「……すみません。」
どうもメイドさんが叱責されている場面のようだが、思ったよりその声が大きい。
何だか会社員時代の先輩後輩の関係を思い出し、沢崎直は室内をそっと窺った。
扉からドラマのどこかの家政婦のように気配を消して中を覗き見る。
室内にいたのは、複数のメイドさんたちだった。
床には壊れた物の欠片が散らばっている。
(……そういえば、ガシャーンッて聞こえたな、さっき。)
ガシャーンッと音を立てて壊れそうな物の残骸の前で、複数のメイドさんの集団に一人のメイドさんが今まさに叱責されていた。
「せめて仕事を増やすようなことはしないでいただきたいわ!」
一際大きな声で叱責しているメイドさんは、少し性格がきつめな美人タイプ。
その周りに取り巻きのようなメイドさんが複数いる。
「……すみません。」
頭を下げるメイドさんは、どちらかというと可愛い小動物系ほっこりタイプ。
ほっこりタイプのメイドさんは頭を下げて謝罪してはいるが、恐縮しているというよりは不満そうな感じに沢崎直には見えた。
「貴女の教育係としてこれ以上は見過ごせません!上に報告させてもらいます。」
そんなきつめの美人のメイドさんの言葉に、取り巻きのメイドさんたちは同意するように頷いた。
教育係に付いているということは、ほっこりタイプのメイドさんは新人なのだろう。確かに、複数いるメイドさんたちの中で年下に見えるその容貌はまだ幼さを残している。その幼さの残るメイドさんは、視線を下に落として唇を噛んでいた。
その年齢に相応しい不満げな様子が気に障ったらしく、教育係のきつめの美人なメイドさんがすっと怒りに目を細める。
沢崎直は会社の新人教育を思い出していた。
(……怖い先輩、いたよな……。……扱いにくい後輩も……。)
モブ女として板挟みになった過去を思い出し、沢崎直の胃がキュッとした。
「何か言いたいことでもおありなの?」
「……いえ、ありません。」
ほっこり系メイドさんは新人であるが場も分も弁えているのだろう。そこで誘いに乗って不満を口にするような愚を犯さなかった。
そんな新人メイドさんの態度に、沢崎直は好感を持った。
だが、沢崎直とは違い、何も言い返してこないことを教育係の先輩メイドさんは不満に思ったようだ。鼻を鳴らして肩を竦めると、首を振る。
「何もないということは、貴女はご自分の非を認めるということでいいのね?」
追い込むようにして、確認する。まるで獲物を追う蛇のような視線で、新人メイドさんを捉えた。そのメイドさんの様は、そのきつめの美貌と相まって、長い舌を出して舌なめずりをしているかのように沢崎直には見えた。
新人のメイドさんはどう返答していいか分からず黙り込む。この場合、認めようが認めまいが結果は変わらず言質を取られるだけで、何かしら次の追撃の材料にされるだけなのだろう。
「聞こえなかったのかしら?エミリーさん。」
「………。」
エミリーと呼ばれた新人メイドさんは、もう泣き出してしまいそうだった。
(……新人いびりなの、これ?……大声で周りに聞こえるように、それも集団でなんて……、私の基準ではパワハラなんだけど、この封建社会ではそういう感覚ってどうなってんの?)
はらはらそわそわと事の成り行きを見守る沢崎直。
会社ならそろそろ何かしらの助け舟を出した方がいい状況だが、ここは会社じゃなくて異世界だ。どうしたもんかと悩む。
(本当に教育する気なら、まずはミスのカバーが先でしょ?あの床に散らばってるモノが見えないの?)
目の前の状況に言いたいことは山ほどあるが、果たして沢崎直が口を挟むことは許されるのか?
「どうかされましたか?アルバート様。」
「ひゃっ!ひゃっいっ!!」
突然、背中から声を掛けられ、沢崎直の口から残念な声が出る。
その残念な声は緊迫した空気に良く響いた。
足音も立てず、簡単に沢崎直の背後を取った超絶イケメン・ヴィルヘルムの登場である。
二人の存在は、そのやり取りによって一瞬に室内のメイドさん集団にも知れ渡った。
「アルバート様?」
再度重ねて尋ねられた沢崎直は、愛想笑いを浮かべて後ろを振り返る。
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