39 / 187
第一部
第三章 SUR級モンスター 女子力の化身、襲来!!⑬『衝撃の事実』
しおりを挟む
十三
「はい。アルバート様の婚約者であらせられます。」
突然執事のリヒターによって齎された後頭部を殴られたかのような衝撃を伴う情報に、沢崎直の思考は停止していた。
まあイケメン貴公子だから、婚約者くらいいて当然か。
そんなふうには断じて思えない。
何故なら、このまま行くと、その婚約者と結婚するのはアルバート氏であってアルバート氏ではない沢崎直ということになる。
今まで二十五年を女として生きてきて、男になったのは異世界に転生してきたほんの数日前だ。まだ股の間にぶら下がっているモノに慣れることもなく、使い方すら分からないというのに結婚などどうしたらいいのか?荷が重すぎる。
(えっ?この世界って、セックスレスとかって大丈夫なの?)
政略結婚とか清い結婚とか、歴史の授業や時代小説の中でしか見たことのない単語を脳内から引っ張り出し、沢崎直は慌てていた。
トイレやお風呂ですら難儀しているというのに……。神は、沢崎直にどれほどの試練を与えれば気が済むのか……。
(……破談とか婚約破棄とかって、してもいいものなの?お相手に失礼とか、断られたらお相手が尼寺行きとかって、なったりする?クーリングオフ的な制度ってどうなってるの?)
一人で悶々と今後のことを悩み始めた沢崎直には、推しの超絶イケメンが室内にやって来たことすら気づくことはできなかった。
「アルバート様?」
見知らぬ婚約者という事実に打ちのめされたままの沢崎直には、まだ外界の音は届いていない。そのため、入室した超絶イケメンの呼びかけも届いていなかった。
超絶イケメンは主人に再度呼びかけるため、先程よりも少し声量を上げ、視界にしっかりと収まる距離まで近づいた。
「アルバート様。よろしいでしょうか?」
「………。」
眼前に突然現れた推しの涼しげな美貌。
沢崎直は急な刺激で心臓が止まるほどの衝撃を受けた。
「ひぃっ!ひゃい!!」
よく分からない返事を、ひっくり返った裏声で返す。
ようやく返事をした主人の様子を確認して、超絶イケメンは先を続ける。
「お客様がいらしております。」
「おきゃくしゃま?」
まだ動悸が収まらぬ沢崎直がしどろもどろで鸚鵡返しに噛み倒しながら繰り返す。
「はい。」
優秀な従者は、噛み倒した主人の言葉を正確に受け取り頷く。
「先日お会いした騎士団の方です。お通ししてよろしいでしょうか?」
「お願いします。」
沢崎直は心臓を宥めながら、推しの超絶イケメンの言葉に素直に頷いた。
「私はお茶の用意をしてまいりますね。」
執事のリヒターはそう告げると部屋を出ていく。
室内には沢崎直と超絶イケメンが残された。
「至急の用ということでしたので、すぐにお連れします。」
(至急の用?)
既に記憶の中で曖昧になっている騎士団の詰め所にいた責任者の騎士の人の顔を思い出そうとしながら、沢崎直は首を傾げた。
超絶イケメンも騎士を案内するために部屋を出ていこうとする。
沢崎直は慌ててその麗しい背中に声を掛けた。
「あ、あの!ヴィルヘルムさん!!」
その声に振り返る超絶イケメン。こちらをその涼しげな紫の双眸で見つめると、口元に笑みを湛えて口を開いた。
「ヴィルと、そうお呼びください。」
天上の調べのような響きを持つその名前を口の端に乗せる超絶イケメン。
推しの甘美な蜜のような至福ボイスの響きのせいで、沢崎直は今何を言いたかったのか一瞬で全て忘れてしまっていた。記憶が吹っ飛び、忘我の淵に立たされたと言っても過言ではない。
「では、失礼いたします。アルバート様。」
風のように去っていくその姿に、もう沢崎直は胸がいっぱいだった。
婚約者も騎士の人も、本当はどうでもよくないんだけれど、どうでもよくなってしまっていた。
「はい。アルバート様の婚約者であらせられます。」
突然執事のリヒターによって齎された後頭部を殴られたかのような衝撃を伴う情報に、沢崎直の思考は停止していた。
まあイケメン貴公子だから、婚約者くらいいて当然か。
そんなふうには断じて思えない。
何故なら、このまま行くと、その婚約者と結婚するのはアルバート氏であってアルバート氏ではない沢崎直ということになる。
今まで二十五年を女として生きてきて、男になったのは異世界に転生してきたほんの数日前だ。まだ股の間にぶら下がっているモノに慣れることもなく、使い方すら分からないというのに結婚などどうしたらいいのか?荷が重すぎる。
(えっ?この世界って、セックスレスとかって大丈夫なの?)
政略結婚とか清い結婚とか、歴史の授業や時代小説の中でしか見たことのない単語を脳内から引っ張り出し、沢崎直は慌てていた。
トイレやお風呂ですら難儀しているというのに……。神は、沢崎直にどれほどの試練を与えれば気が済むのか……。
(……破談とか婚約破棄とかって、してもいいものなの?お相手に失礼とか、断られたらお相手が尼寺行きとかって、なったりする?クーリングオフ的な制度ってどうなってるの?)
一人で悶々と今後のことを悩み始めた沢崎直には、推しの超絶イケメンが室内にやって来たことすら気づくことはできなかった。
「アルバート様?」
見知らぬ婚約者という事実に打ちのめされたままの沢崎直には、まだ外界の音は届いていない。そのため、入室した超絶イケメンの呼びかけも届いていなかった。
超絶イケメンは主人に再度呼びかけるため、先程よりも少し声量を上げ、視界にしっかりと収まる距離まで近づいた。
「アルバート様。よろしいでしょうか?」
「………。」
眼前に突然現れた推しの涼しげな美貌。
沢崎直は急な刺激で心臓が止まるほどの衝撃を受けた。
「ひぃっ!ひゃい!!」
よく分からない返事を、ひっくり返った裏声で返す。
ようやく返事をした主人の様子を確認して、超絶イケメンは先を続ける。
「お客様がいらしております。」
「おきゃくしゃま?」
まだ動悸が収まらぬ沢崎直がしどろもどろで鸚鵡返しに噛み倒しながら繰り返す。
「はい。」
優秀な従者は、噛み倒した主人の言葉を正確に受け取り頷く。
「先日お会いした騎士団の方です。お通ししてよろしいでしょうか?」
「お願いします。」
沢崎直は心臓を宥めながら、推しの超絶イケメンの言葉に素直に頷いた。
「私はお茶の用意をしてまいりますね。」
執事のリヒターはそう告げると部屋を出ていく。
室内には沢崎直と超絶イケメンが残された。
「至急の用ということでしたので、すぐにお連れします。」
(至急の用?)
既に記憶の中で曖昧になっている騎士団の詰め所にいた責任者の騎士の人の顔を思い出そうとしながら、沢崎直は首を傾げた。
超絶イケメンも騎士を案内するために部屋を出ていこうとする。
沢崎直は慌ててその麗しい背中に声を掛けた。
「あ、あの!ヴィルヘルムさん!!」
その声に振り返る超絶イケメン。こちらをその涼しげな紫の双眸で見つめると、口元に笑みを湛えて口を開いた。
「ヴィルと、そうお呼びください。」
天上の調べのような響きを持つその名前を口の端に乗せる超絶イケメン。
推しの甘美な蜜のような至福ボイスの響きのせいで、沢崎直は今何を言いたかったのか一瞬で全て忘れてしまっていた。記憶が吹っ飛び、忘我の淵に立たされたと言っても過言ではない。
「では、失礼いたします。アルバート様。」
風のように去っていくその姿に、もう沢崎直は胸がいっぱいだった。
婚約者も騎士の人も、本当はどうでもよくないんだけれど、どうでもよくなってしまっていた。
22
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~
黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。
「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう
天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。
侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。
その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。
ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
もう彼女でいいじゃないですか
キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。
常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。
幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。
だからわたしは行動する。
わたしから婚約者を自由にするために。
わたしが自由を手にするために。
残酷な表現はありませんが、
性的なワードが幾つが出てきます。
苦手な方は回れ右をお願いします。
小説家になろうさんの方では
ifストーリーを投稿しております。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる