30 / 187
第一部
第三章 SUR級モンスター 女子力の化身、襲来!!④『確認』
しおりを挟む
四
腹の虫は相変わらず不定期に鳴り続けていたが、沢崎直は一人残された室内で着替えに挑戦していた。
とりあえず用意された衣服をベッドの上に広げてじっくりと観察し、まずは構造の理解を図る。
超絶イケメンに用意された衣服は、超絶イケメンが自身で着ていたものとは違い、もう少しゆったりとした感じがするものだった。おそらくかっちりとした外出用というよりは、部屋着のようなくつろぐタイプの物なのだろう。医者を呼ぶと言っていたし、医者に見せなくてはならないような人間に身体を休める用の衣服を用意したとしてもおかしくはない。そう判断して、沢崎直は想像力を働かせながら着替えを始めることにした。
(……多分、服なんだから、私が知ってるモノとそこまで変わらないでしょ。)
とりあえず、今着ている服を脱いでみる。
洞窟や森などで、沢崎直が無茶をしたせいで、服はところどころ破れていた。脱いだ服は簡単にたたみ、近くのソファの上に置いていく。少しずつ露わになる肌には、服が破れているのと同様、あちこちに打撲や擦り傷が出来ていた。
(……借りものなんだから、大事にしなくちゃだめだよね。)
沢崎直が現在間借りしている感じのアルバート氏という身体には、ちゃんとした元の持ち主がいる。見慣れない身体の点検をしながら、沢崎直は改めて実感していた。
(何でこんなことになっちゃってるんだか、全然分かんないけど……。一応、今、この身体の監督責任は私にあるみたいだし……。)
そして、パンツのような下着のような物を一つだけ身に着けた姿になったイケメンの沢崎直は、とりあえず室内にあった鏡の前に立ってみた。
鏡に映っているのは、まぎれもないイケメン。
パンツ一丁の姿でも、イケメンはイケメンであった。
しっかりと引き締まった身体は、元の持ち主が少なくとも何かしらの鍛錬をしていたことを感じさせ、甘く整った美貌は輝きを放つ。
鏡の前で、転生して初めて全身を確認してみたが、なるほどこれならその辺の女性が熱を上げるのも仕方ないと沢崎直は改めて納得した。甘く柔らかく見える整った顔面に、すらりと伸びた手足。引き締まった身体と柔らかい物腰。その上、いいとこのお坊ちゃまとそこまで揃えば、女性にとっては優良物件を超えて、すごくいい餌のようなものだ。
(……私、これから大丈夫かな?)
今後のイケメン人生を考えて、沢崎直は憂鬱になった。
沢崎直が生まれた時から男で、転生してこの身体を手に入れたというのならまた感想は違ったのだろうが、そう上手くはいかないのが現実だ。女性として生きてきた時間が、いい餌を前に群がる血に飢えた女性たちの姿を容易に想像させる。それは、結構壮絶な光景だ。後宮やらハーレムやら、男ってどうしてあんな陰惨なものを作りたがるのか、その気がしれない。
(イケメンも気苦労が多くて大変なのかもしれない……。イケメンとして選ばれてイージーに人生を渡り歩くには、血も涙もないくらいになんなくちゃ無理なのかも……。)
今まであまりにも世界が違い過ぎて、一度も想像したことはなかったが、イケメンや美人などの他人に選ばれながら生きるカースト上位の人たちも、実は大変な思いをしている人もいるのかもしれないな。イケメンになって、沢崎直は見識の幅が広がっていた。
その後もしばらく鏡の前でイケメンを観察していたが、こんなところを誰かに見られては変態だと思われかねないと、ハッとして気づく。
(早く服を着ないと。)
慌てて服が広げられているベッドへ向かい、服を手に取ろうとして、沢崎直はふと手を止めた。
服を着る前に、しなくてはいけないことを思い出したのだ。
今まで、どうしても心のどこかで認めたくなくて、ずっと避けていたのだが、多分これ以上は避けて通れないだろう。
そして、沢崎直は覚悟を決めた。
そーっと、下着の腰の部分を引っ張り、今まで布に隠されていた部分を上から薄目で覗き込む。
(……やっぱり。)
分かってはいたし、ぶら下がっている気も何となくしていたので、驚きはない。
だが、分かってはいても、がっかりする気持ちは止められなかった。それは、沢崎直の心に決定打のように現実として突き刺さる。
沢崎直は思わず天を仰いだ。
「……ついてる。」
見たことがないわけではないが、見慣れないモノがついているという事実は、必要以上に沢崎直の心を打ちのめした。
腹の虫は相変わらず不定期に鳴り続けていたが、沢崎直は一人残された室内で着替えに挑戦していた。
とりあえず用意された衣服をベッドの上に広げてじっくりと観察し、まずは構造の理解を図る。
超絶イケメンに用意された衣服は、超絶イケメンが自身で着ていたものとは違い、もう少しゆったりとした感じがするものだった。おそらくかっちりとした外出用というよりは、部屋着のようなくつろぐタイプの物なのだろう。医者を呼ぶと言っていたし、医者に見せなくてはならないような人間に身体を休める用の衣服を用意したとしてもおかしくはない。そう判断して、沢崎直は想像力を働かせながら着替えを始めることにした。
(……多分、服なんだから、私が知ってるモノとそこまで変わらないでしょ。)
とりあえず、今着ている服を脱いでみる。
洞窟や森などで、沢崎直が無茶をしたせいで、服はところどころ破れていた。脱いだ服は簡単にたたみ、近くのソファの上に置いていく。少しずつ露わになる肌には、服が破れているのと同様、あちこちに打撲や擦り傷が出来ていた。
(……借りものなんだから、大事にしなくちゃだめだよね。)
沢崎直が現在間借りしている感じのアルバート氏という身体には、ちゃんとした元の持ち主がいる。見慣れない身体の点検をしながら、沢崎直は改めて実感していた。
(何でこんなことになっちゃってるんだか、全然分かんないけど……。一応、今、この身体の監督責任は私にあるみたいだし……。)
そして、パンツのような下着のような物を一つだけ身に着けた姿になったイケメンの沢崎直は、とりあえず室内にあった鏡の前に立ってみた。
鏡に映っているのは、まぎれもないイケメン。
パンツ一丁の姿でも、イケメンはイケメンであった。
しっかりと引き締まった身体は、元の持ち主が少なくとも何かしらの鍛錬をしていたことを感じさせ、甘く整った美貌は輝きを放つ。
鏡の前で、転生して初めて全身を確認してみたが、なるほどこれならその辺の女性が熱を上げるのも仕方ないと沢崎直は改めて納得した。甘く柔らかく見える整った顔面に、すらりと伸びた手足。引き締まった身体と柔らかい物腰。その上、いいとこのお坊ちゃまとそこまで揃えば、女性にとっては優良物件を超えて、すごくいい餌のようなものだ。
(……私、これから大丈夫かな?)
今後のイケメン人生を考えて、沢崎直は憂鬱になった。
沢崎直が生まれた時から男で、転生してこの身体を手に入れたというのならまた感想は違ったのだろうが、そう上手くはいかないのが現実だ。女性として生きてきた時間が、いい餌を前に群がる血に飢えた女性たちの姿を容易に想像させる。それは、結構壮絶な光景だ。後宮やらハーレムやら、男ってどうしてあんな陰惨なものを作りたがるのか、その気がしれない。
(イケメンも気苦労が多くて大変なのかもしれない……。イケメンとして選ばれてイージーに人生を渡り歩くには、血も涙もないくらいになんなくちゃ無理なのかも……。)
今まであまりにも世界が違い過ぎて、一度も想像したことはなかったが、イケメンや美人などの他人に選ばれながら生きるカースト上位の人たちも、実は大変な思いをしている人もいるのかもしれないな。イケメンになって、沢崎直は見識の幅が広がっていた。
その後もしばらく鏡の前でイケメンを観察していたが、こんなところを誰かに見られては変態だと思われかねないと、ハッとして気づく。
(早く服を着ないと。)
慌てて服が広げられているベッドへ向かい、服を手に取ろうとして、沢崎直はふと手を止めた。
服を着る前に、しなくてはいけないことを思い出したのだ。
今まで、どうしても心のどこかで認めたくなくて、ずっと避けていたのだが、多分これ以上は避けて通れないだろう。
そして、沢崎直は覚悟を決めた。
そーっと、下着の腰の部分を引っ張り、今まで布に隠されていた部分を上から薄目で覗き込む。
(……やっぱり。)
分かってはいたし、ぶら下がっている気も何となくしていたので、驚きはない。
だが、分かってはいても、がっかりする気持ちは止められなかった。それは、沢崎直の心に決定打のように現実として突き刺さる。
沢崎直は思わず天を仰いだ。
「……ついてる。」
見たことがないわけではないが、見慣れないモノがついているという事実は、必要以上に沢崎直の心を打ちのめした。
22
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!
マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です
病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。
ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。
「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」
異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。
「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」
―――異世界と健康への不安が募りつつ
憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか?
魔法に魔物、お貴族様。
夢と現実の狭間のような日々の中で、
転生者サラが自身の夢を叶えるために
新ニコルとして我が道をつきすすむ!
『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』
※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。
※非現実色強めな内容です。
※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。
せっかく異世界に転生できたんだから、急いで生きる必要なんてないよね?ー明日も俺はスローなライフを謳歌したいー
ジミー凌我
ファンタジー
日夜仕事に追われ続ける日常を毎日毎日繰り返していた。
仕事仕事の毎日、明日も明後日も仕事を積みたくないと生き急いでいた。
そんな俺はいつしか過労で倒れてしまった。
そのまま死んだ俺は、異世界に転生していた。
忙しすぎてうわさでしか聞いたことがないが、これが異世界転生というものなのだろう。
生き急いで死んでしまったんだ。俺はこの世界ではゆっくりと生きていきたいと思った。
ただ、この世界にはモンスターも魔王もいるみたい。
この世界で最初に出会ったクレハという女の子は、細かいことは気にしない自由奔放な可愛らしい子で、俺を助けてくれた。
冒険者としてゆったり生計を立てていこうと思ったら、以外と儲かる仕事だったからこれは楽な人生が始まると思った矢先。
なぜか2日目にして魔王軍の侵略に遭遇し…。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
生まれてすぐ最強……なわけねぇ!
嬉野 巧
ファンタジー
ぽっくりいって異世界に農民として生まれた平。
転生したならチートな優遇が!?と思いきや、いたって平均であった。
そん周りには様々な才能の持ち主たち。
力の差を痛感し実家の農家へ就職を考えるが、出戻りにはまだ早い。
タイラは果たして農家になるのか、それとも。
異世界転生したら何でも出来る天才だった。
桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。
だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。
そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。
===========================
始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる