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第一部
第二章 理想の王子様、現る。(しかし、貴方も男)②『破局』
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二
「だからさ、もう別れよう、俺たち。」
男の口から出てきた決定的な言葉。
半ば覚悟をしていた沢崎直は、さしたる驚きもせず、その言葉を受け止めた。ただ、驚きはなくても、怒りや悔しさのような負の感情がないわけではない。むしろ心の中は煮え滾っていた。
「……何で?」
「だから、言ってるだろ?」
「言ってない。女子力の話しかしてない。」
「だから、女子力が理由だって言ってんの。」
スマホの画面から視線を上げずに呆れたように答える男。
努めて冷静であろうとして、沢崎直は大きく鼻から息を吸い込んだ。
心の中では言いたいことが溢れていたが、取り乱したところで何になる?沢崎直は昔から冷静に話を進めたいタイプだ。長年培ってきた空手での精神鍛錬も、こういう時に冷静でいることに手助けとなった。
「……貴方が言う女子力が何かは分からないけど。私は出会った頃からこんな感じだったし、変わっていないつもり。女子力を理由に別れるのは全く納得がいかない。」
「……だから。」
「貴方は全ての責任が私にあると言っている。そこも全く納得できない。」
「そんなこと言ってないだろ?」
「いいえ、言ってる。」
「言ってない。」
もはや水掛け論だ。
荒々しくため息をつき、髪の毛を掻きむしって、男は立ち上がった。
そのまま背中を向けて家を出ていこうとする。ここは、この男の家だというのに。
「……もう無理なんだよ。」
捨て台詞を残し、沢崎直の横をすり抜けると扉へと手をかける。
一度も振り返らず、男は自分の家を出て行った。
大切そうに抱えたスマホと、車のキー。
しばらくして、外から車のエンジンをかける音が聞こえる。
それなりにたくさんの思い出があった恋人としての二年間は、こんなふうに終わりを告げた。
一人ぼっちになった男の家の中で、沢崎直はしばらく男の出て行った扉を見つめていた。
本当は後悔して返ってきて欲しかったが、そんなことはなさそうだった。
(泣いてどうなる?)
冷静なもう一人の自分の声は頭に大きく響き、涙一つ流れなかった。
扉を見つめたままの沢崎直の脳内に溢れていたのは疑問だけだ。
いつから、あの男はあんなふうになってしまったのだろう?
出会った頃は誠実で真面目だったはずだ。少なくとも人と話をする時に相手の目を見ずに話をするようなことはなかった。
優しくて穏やかだった性格はどうなってしまったのか?
あんなふうに人を傷つけて、人に責任転嫁をして平気で捨てていくような真似は、出会った頃のあの男はしなかった。
久しぶりに会った恋人は、まるで別人のようだった。
何度か深呼吸を繰り返し、心を落ち着ける。
どうせここにこれ以上いても何の意味もない。
既に見知らぬ男のような背中にしがみついても、縋りついても、あの男が帰ってこないことだけは痛いほど分かった。
「もう帰ろう。」
沢崎直は荷物を持って立ち上がった。
そして、その夜、沢崎直は泥のように眠った。
夢は全く見なかった。
「だからさ、もう別れよう、俺たち。」
男の口から出てきた決定的な言葉。
半ば覚悟をしていた沢崎直は、さしたる驚きもせず、その言葉を受け止めた。ただ、驚きはなくても、怒りや悔しさのような負の感情がないわけではない。むしろ心の中は煮え滾っていた。
「……何で?」
「だから、言ってるだろ?」
「言ってない。女子力の話しかしてない。」
「だから、女子力が理由だって言ってんの。」
スマホの画面から視線を上げずに呆れたように答える男。
努めて冷静であろうとして、沢崎直は大きく鼻から息を吸い込んだ。
心の中では言いたいことが溢れていたが、取り乱したところで何になる?沢崎直は昔から冷静に話を進めたいタイプだ。長年培ってきた空手での精神鍛錬も、こういう時に冷静でいることに手助けとなった。
「……貴方が言う女子力が何かは分からないけど。私は出会った頃からこんな感じだったし、変わっていないつもり。女子力を理由に別れるのは全く納得がいかない。」
「……だから。」
「貴方は全ての責任が私にあると言っている。そこも全く納得できない。」
「そんなこと言ってないだろ?」
「いいえ、言ってる。」
「言ってない。」
もはや水掛け論だ。
荒々しくため息をつき、髪の毛を掻きむしって、男は立ち上がった。
そのまま背中を向けて家を出ていこうとする。ここは、この男の家だというのに。
「……もう無理なんだよ。」
捨て台詞を残し、沢崎直の横をすり抜けると扉へと手をかける。
一度も振り返らず、男は自分の家を出て行った。
大切そうに抱えたスマホと、車のキー。
しばらくして、外から車のエンジンをかける音が聞こえる。
それなりにたくさんの思い出があった恋人としての二年間は、こんなふうに終わりを告げた。
一人ぼっちになった男の家の中で、沢崎直はしばらく男の出て行った扉を見つめていた。
本当は後悔して返ってきて欲しかったが、そんなことはなさそうだった。
(泣いてどうなる?)
冷静なもう一人の自分の声は頭に大きく響き、涙一つ流れなかった。
扉を見つめたままの沢崎直の脳内に溢れていたのは疑問だけだ。
いつから、あの男はあんなふうになってしまったのだろう?
出会った頃は誠実で真面目だったはずだ。少なくとも人と話をする時に相手の目を見ずに話をするようなことはなかった。
優しくて穏やかだった性格はどうなってしまったのか?
あんなふうに人を傷つけて、人に責任転嫁をして平気で捨てていくような真似は、出会った頃のあの男はしなかった。
久しぶりに会った恋人は、まるで別人のようだった。
何度か深呼吸を繰り返し、心を落ち着ける。
どうせここにこれ以上いても何の意味もない。
既に見知らぬ男のような背中にしがみついても、縋りついても、あの男が帰ってこないことだけは痛いほど分かった。
「もう帰ろう。」
沢崎直は荷物を持って立ち上がった。
そして、その夜、沢崎直は泥のように眠った。
夢は全く見なかった。
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