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第一部
第一章 とりあえず責任者よ出てこい!!!⑦『森からの脱出』
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七
「お嬢様!ご無事でしたか!?」
視界が開けた途端、壮年男性の声が響いた。
「ええ。大丈夫。」
出迎えた壮年男性を安心させるように女性は笑顔で頷く。
あまり存在感を見せずに沢崎直は、女性の後ろに控えた。
二人の再会は邪魔してはいけないし、不審者扱いされるのも御免だ。
二人が再開の挨拶をしている間、森の木のような気持ちでその場に佇みながら、沢崎直は周囲を確認していた。
助けた女性に連れられやって来たその場所は、街道のような場所だった。
その道はしっかりと舗装され開拓され、馬車が走りやすそうだ。壮年の男性の向こうには、お嬢様と呼びかけられたことに相応しいくらいには格式高い馬車が止まっている。ただ馬車は、装飾よりも実用性に重きを置かれて作られたようだった。
女性の後に続いて走った距離がどのくらいかは分からないが、先程の森の中からこの街道までの距離を一人で道も分からない中で到達するのは難しかっただろう。そう考えると、助けたのか助けてもらったのかは分からない。なので、沢崎直は心の中で偶然出会った彼女にものすごく感謝していた。
「森の中でワイルドベアーを確認したの。騎士団に討伐を依頼してちょうだい。」
「でしたら、この場所から一刻も早く離れなくてはなりませんね?御者を急かしてきます。」
「ええ、お願い。」
壮年の男性が馬車に向かって走っていき、女性の会話の矛先がこちらに返ってきた。
「あ、あの。」
「あっ、はい!」
話しかけられ、女性と会話するためにようやく存在感を取り戻す。
「助けていただいたお礼もまだですし、よろしければ街まで我が家の馬車でご一緒いたしませんか?」
むしろここに置いて行かれても困る。彼女の有り難い申し出に、一も二もなく飛びついた。
「はい。お願いします。」
「お嬢様!」
馬車の準備が整ったようで、壮年の男性がこちらに呼びかける声がする。
「こちらです。」
女性に促され、後に続く。
馬車の前まで来ると、壮年の男性が不審そうにこちらを見つめた。
「こちらの方は?」
居住まいを正し、壮年の男性の値踏みするような視線に耐える。
女性は笑顔で紹介してくれた。
「森の中で私を助けてくださった方です。」
「大したことはしていません。」
謙遜を忘れず、身体の前で両手を振ってアピールする。
「お礼をしたいの。いいでしょ?」
「……ですが……。」
多分、壮年の男性はお目付け役で護衛役なのだろう。大切なお嬢様に出所不明の怪しい輩が近づくのを嫌がり渋っている様子だ。
だが、主はお嬢様の方で、彼女が押し切ってしまえば否やは言えない。
「そう決めたの。……それに、こんな危険な場所に恩のある方を置いて行けと言うの?それは、あまりにも人道に悖る行為じゃないかしら?」
「……こちらの方にも目的地が御有りでは無いのですか?」
「それならば、街に着いた後にお送りして差し上げればいいだけでしょ?」
「……かしこまりました。」
目的地などないし、右も左も分からない。そんなことはおくびも出さずに、沢崎直は壮年の男性の痛いほどの視線に耐え続けた。
「さあ、出発よ。」
先に馬車に乗った女性に招かれ、馬車の車内に乗り込む。
(馬車って、初めて乗ったかも!?)
座席に着いて、沢崎直はそんな感想を抱いた。
壮年の男性が馬車の前方に陣取ると、馬車は動き出す。
とりあえず、人のいる街には行けそうだ。緊張しながらも、沢崎直は少しだけ胸を撫で下ろしていた。
「お嬢様!ご無事でしたか!?」
視界が開けた途端、壮年男性の声が響いた。
「ええ。大丈夫。」
出迎えた壮年男性を安心させるように女性は笑顔で頷く。
あまり存在感を見せずに沢崎直は、女性の後ろに控えた。
二人の再会は邪魔してはいけないし、不審者扱いされるのも御免だ。
二人が再開の挨拶をしている間、森の木のような気持ちでその場に佇みながら、沢崎直は周囲を確認していた。
助けた女性に連れられやって来たその場所は、街道のような場所だった。
その道はしっかりと舗装され開拓され、馬車が走りやすそうだ。壮年の男性の向こうには、お嬢様と呼びかけられたことに相応しいくらいには格式高い馬車が止まっている。ただ馬車は、装飾よりも実用性に重きを置かれて作られたようだった。
女性の後に続いて走った距離がどのくらいかは分からないが、先程の森の中からこの街道までの距離を一人で道も分からない中で到達するのは難しかっただろう。そう考えると、助けたのか助けてもらったのかは分からない。なので、沢崎直は心の中で偶然出会った彼女にものすごく感謝していた。
「森の中でワイルドベアーを確認したの。騎士団に討伐を依頼してちょうだい。」
「でしたら、この場所から一刻も早く離れなくてはなりませんね?御者を急かしてきます。」
「ええ、お願い。」
壮年の男性が馬車に向かって走っていき、女性の会話の矛先がこちらに返ってきた。
「あ、あの。」
「あっ、はい!」
話しかけられ、女性と会話するためにようやく存在感を取り戻す。
「助けていただいたお礼もまだですし、よろしければ街まで我が家の馬車でご一緒いたしませんか?」
むしろここに置いて行かれても困る。彼女の有り難い申し出に、一も二もなく飛びついた。
「はい。お願いします。」
「お嬢様!」
馬車の準備が整ったようで、壮年の男性がこちらに呼びかける声がする。
「こちらです。」
女性に促され、後に続く。
馬車の前まで来ると、壮年の男性が不審そうにこちらを見つめた。
「こちらの方は?」
居住まいを正し、壮年の男性の値踏みするような視線に耐える。
女性は笑顔で紹介してくれた。
「森の中で私を助けてくださった方です。」
「大したことはしていません。」
謙遜を忘れず、身体の前で両手を振ってアピールする。
「お礼をしたいの。いいでしょ?」
「……ですが……。」
多分、壮年の男性はお目付け役で護衛役なのだろう。大切なお嬢様に出所不明の怪しい輩が近づくのを嫌がり渋っている様子だ。
だが、主はお嬢様の方で、彼女が押し切ってしまえば否やは言えない。
「そう決めたの。……それに、こんな危険な場所に恩のある方を置いて行けと言うの?それは、あまりにも人道に悖る行為じゃないかしら?」
「……こちらの方にも目的地が御有りでは無いのですか?」
「それならば、街に着いた後にお送りして差し上げればいいだけでしょ?」
「……かしこまりました。」
目的地などないし、右も左も分からない。そんなことはおくびも出さずに、沢崎直は壮年の男性の痛いほどの視線に耐え続けた。
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