6 / 187
第一部
第一章 とりあえず責任者よ出てこい!!!⑤『出会い』
しおりを挟む
五
一頻り泣いた後、ようやく気分が落ち着いてきた。
目元を両手で拭いながら、呼吸を落ち着ける。
(こんなところで泣いていても何もならない。)
少しずつ頭も働き始める。
現在の時刻は分からないが、まだ陽は高い。だが、いつまでも明るいわけがない。ただでさえ、先程命の危機を脱したばかりだ。夜になり暗くなった森に危険は充満しても、安全地帯が広がるとは思えない。
立ち上がり、周囲を確認する。
この場所に人の痕跡があったのだから、他にも探せば見つかるかもしれない。痕跡の先には、道や町がある可能性だってある。
両腕を抱え、警戒しながら辺りをきょろきょろと見回す。
耳を澄まし、自分の立てる音以外の音を探す。
そうしてうろうろしていると、耳が小さな音を聞きつけた。
思わず立ち止まり耳を澄ます。
「……うっ。」
微かに聞こえてきたのは、人のうめき声のようだった。
辺りを見回しながら、声の聞こえる方へと足を向ける。
小さな声を聞き逃さないように慎重に、周囲を警戒しながら進んでいく。
すると、木の陰になった場所に、うめき声の主を発見した。
それは、若い女性のようだった。
周囲の警戒を怠らずに、人影へと近づいていく。
近づいてみると、その女性は気を失っているようではあったが、一見したところでは大きな怪我をしているように見えなかった。
そっと近づき、傍らに屈みこむ。
「……あのー。」
小さな声で呼びかけてみるが、返答はない。
運転免許取得の時に受けた人命救助の講習を思い出しながら、彼女は続けた。
まずは、呼吸の確認。
呻いているので、呼吸はある。よし。
次は脈の確認。
「……失礼します。」
一言お断りを入れてから、その女性の腕を取る。
手首に指を当てると、脈は正常に刻まれていた。脈も良し。
更に続けて、呼びかけ。
軽く肩を叩いて、身体を揺らさないように気を付けながら声を掛ける。
「あのー、大丈夫ですか?聞こえますか?」
返事はなし。
呼びかけながらも、ざっと視線を動かしその女性の怪我の様子を確認する。
やはり、出血などは見たところないようだ。
「どこか痛むところはありますか?起きてください。」
トントンと肩を何度か叩いた時、女性の瞳が僅かに開かれた。
それを確認して、思わず笑みが浮かぶ。
「大丈夫ですか?分かりますか?」
呼びかけに、ゆっくりと反応する女性。こちらを見つめる瞳が、少しずつ意識を取り戻す。
「……あっ。」
女性が小さな声を発する。
そのことに勇気づけられ、注意を惹きつけるように女性の顔の前で手を振りながら続けた。
「私のことが分かりますか?」
女性はようやく完全に意識を取り戻し、目の前にいる人間の存在を認識した。
その瞬間、小さく息を吸い込む。
そして、
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!」
またしても森の中に耳を劈くような女性の悲鳴がこだました。
あっ、私、今、男だった。
沢崎直がその事実に気付いたのは、その悲鳴を浴びた直後の事であった。
一頻り泣いた後、ようやく気分が落ち着いてきた。
目元を両手で拭いながら、呼吸を落ち着ける。
(こんなところで泣いていても何もならない。)
少しずつ頭も働き始める。
現在の時刻は分からないが、まだ陽は高い。だが、いつまでも明るいわけがない。ただでさえ、先程命の危機を脱したばかりだ。夜になり暗くなった森に危険は充満しても、安全地帯が広がるとは思えない。
立ち上がり、周囲を確認する。
この場所に人の痕跡があったのだから、他にも探せば見つかるかもしれない。痕跡の先には、道や町がある可能性だってある。
両腕を抱え、警戒しながら辺りをきょろきょろと見回す。
耳を澄まし、自分の立てる音以外の音を探す。
そうしてうろうろしていると、耳が小さな音を聞きつけた。
思わず立ち止まり耳を澄ます。
「……うっ。」
微かに聞こえてきたのは、人のうめき声のようだった。
辺りを見回しながら、声の聞こえる方へと足を向ける。
小さな声を聞き逃さないように慎重に、周囲を警戒しながら進んでいく。
すると、木の陰になった場所に、うめき声の主を発見した。
それは、若い女性のようだった。
周囲の警戒を怠らずに、人影へと近づいていく。
近づいてみると、その女性は気を失っているようではあったが、一見したところでは大きな怪我をしているように見えなかった。
そっと近づき、傍らに屈みこむ。
「……あのー。」
小さな声で呼びかけてみるが、返答はない。
運転免許取得の時に受けた人命救助の講習を思い出しながら、彼女は続けた。
まずは、呼吸の確認。
呻いているので、呼吸はある。よし。
次は脈の確認。
「……失礼します。」
一言お断りを入れてから、その女性の腕を取る。
手首に指を当てると、脈は正常に刻まれていた。脈も良し。
更に続けて、呼びかけ。
軽く肩を叩いて、身体を揺らさないように気を付けながら声を掛ける。
「あのー、大丈夫ですか?聞こえますか?」
返事はなし。
呼びかけながらも、ざっと視線を動かしその女性の怪我の様子を確認する。
やはり、出血などは見たところないようだ。
「どこか痛むところはありますか?起きてください。」
トントンと肩を何度か叩いた時、女性の瞳が僅かに開かれた。
それを確認して、思わず笑みが浮かぶ。
「大丈夫ですか?分かりますか?」
呼びかけに、ゆっくりと反応する女性。こちらを見つめる瞳が、少しずつ意識を取り戻す。
「……あっ。」
女性が小さな声を発する。
そのことに勇気づけられ、注意を惹きつけるように女性の顔の前で手を振りながら続けた。
「私のことが分かりますか?」
女性はようやく完全に意識を取り戻し、目の前にいる人間の存在を認識した。
その瞬間、小さく息を吸い込む。
そして、
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!」
またしても森の中に耳を劈くような女性の悲鳴がこだました。
あっ、私、今、男だった。
沢崎直がその事実に気付いたのは、その悲鳴を浴びた直後の事であった。
32
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
ハズレ召喚として追放されたボクは、拡大縮小カメラアプリで異世界無双
さこゼロ
ファンタジー
突然、異世界に転生召喚された4人の少年少女たち。儀式を行った者たちに言われるがまま、手に持っていたスマホのアプリを起動させる。
ある者は聖騎士の剣と盾、
ある者は聖女のローブ、
それぞれのスマホからアイテムが出現する。
そんな中、ひとりの少年のスマホには、画面にカメラアプリが起動しただけ。
ハズレ者として追放されたこの少年は、これからどうなるのでしょうか…
if分岐の続編として、
「帰還した勇者を護るため、今度は私が転移します!」を公開しています(^^)
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!
理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。
ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。
仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。


幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる