【完結】死神探偵 紅の事件 ~シリアルキラーと探偵遊戯~

夢追子(@電子コミック配信中)

文字の大きさ
75 / 82

最終幕 六 「第二秘書の野村さんが殺されてしまった事件の、謎が解けたからです!」

しおりを挟む
     六

 燦々と大地に太陽光が降り注ぐ。
 じりじりと地上を焦がすような光は、衰えることを知らずにますます強くなっていく。一日の中で、もっとも気温が高くなるのは昼下がりだ。気温が上がるにつれて、蝉の声はボリュームを上げていく。
 現在の時刻は午後二時。
 暑さの盛り。三十度を優に越す気温。天気予報士が今朝のニュースの中で今年一番の暑さになると言っていた通り、観測史上に残る温度を記録しているに違いない。
 そんな暑さの中、空調設備の整った広間には、続々と関係者が集まっていた。
普段の作戦会議ならば、希望者だけが参加すればよかったが、今回に限り全員出席が原則となっていた。その上、今まで同席を許されていなかった者までも、今回の会議には出席していた。
 広間ではかつてなかった異常事態に、自ずと期待が高まっていく。
 何しろ、この会合を招集したのは、他ならぬ名探偵なのだ。誰もが差し迫る事件のクライマックスを感じ、高揚感に心を躍らせていた。
 特等席のようなソファに座っているのは、琉衣と竹川と榊原だ。
顔色のすっかり良くなった琉衣は、他の二人相手に談笑をしている。快活な雰囲気も戻り、どこか緊張しながらも期待の方が強いようで、笑顔が絶えることはない。
 プロファイラー竹川は、名探偵の推理披露という栄光の場に初めて居合わせるようで、好奇心と喜びで目を輝かせていた。
 途中退場したはずの榊原も、名探偵の最後の活躍には間に合ったようで、琉衣と竹川に憎まれ口を叩きながらも、内心は喜びに満ちているようだった。神経質そうだった顔にも、笑みがこぼれている。
 特等席から一番遠い壁際に整列しているのは、使用人の三人だ。
 第一発見者の庭師の田上は、好々爺のような顔に緊張を滲ませていた。自分がこの場にいることが光栄だというよりは、恐れ多いといった様子で、固まっている。
 メイド頭のイツ子は、経験したことのない集まりに、話の種を求めるように興奮していた。目は輝き、身体全体から好奇心を発散させている。
 メイドの杏子は、青白い顔で目の下に隈を作っていた。お仕着せの裾を握り締め、立っているのもやっとといった様子だ。焦点も定まっていない。
 上座にはまだ孝造の姿も水島の姿もなかった。
ソファから少し離れた場所では、警部がパートナーの到着を今か今かと待ち侘びていた。名探偵の活躍に期待しながら、名探偵が主役であることに安堵しているようだ。
 そして、全ての人間から距離の開いたピアノの前には、微笑を浮かべるヒョウの姿があった。ピアノの椅子には、リンが腰を下ろし足をぶらぶらさせている。室内の高揚感とは無縁の二人は、ピアノの黒い色に同化するように、室内装飾の一部のように、ただ沈黙していた。
 全員が注目する中、本日の主役が広間に顔を見せる。
「すみません。お待たせしました。」
 神々しいまでの自信を漲らせ、英雄のような堂々とした足取りで、霧崎は室内を進んでいく。
 室内の全ての視線を一身に受け、期待を一身に背負う。
 それは、あたかも凱旋パレードのような光景だ。勝利者であるという自信が、霧崎に威厳を与える。胸を張り、顔を上げ、確かな足取りで大地を踏みしめる。
 ここは、もう名探偵の独壇場だった。
 主役のために用意されたステージまで進み、霧崎は室内を見渡す。
「おや?まだ、孝造さんと水島さんが来てませんね。」
 その時、扉が開き、最後の参加者が会場に現れた。
 初対面の時よりも迫力が減った分、一回り小さく見える孝造。それに、フレームなしの眼鏡で武装した機械のような男、秘書の水島だ。
 二人が上座の席に着き、やっとクライマックスの幕が上がる。
 皓々と輝くスポットライトが霧崎を照らす。
「今日、皆さんに集まってもらったのは、他でもありません。一ヶ月前に起きた秘書殺害事件。第二秘書の野村さんが殺されてしまった事件の、謎が解けたからです!」
 芝居がかった口調。自信に満ちた笑顔。期待と賞賛の視線を全身に浴び、名探偵は光り輝く。
「結論から言います。今回の事件、犯人は死の押し売り師などではありません!」
 誰も、結論に異議を挟まない。あれだけ反対していた警部も、満足そうに頷き、静かに見守っている。警部は既に一部始終を霧崎から説明されているのだろう。
 壁際の使用人たちは、室内の興奮だけに満足していて、名探偵の言葉の理解など端から諦めているらしい。首を傾げることもなく、雰囲気に酔っていた。
 孝造は眉毛を持ち上げて驚いていたが、口を開く気はないようだ。
 探偵にいたっては、霧崎の次の言葉を固唾を呑んで見守っていた。
 全員の反応を楽しんだ後、霧崎は余裕に満ちた笑みで説明を始める。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜

春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!> 宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。 しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——? 「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~

悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。 強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。 お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。 表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。 第6回キャラ文芸大賞応募作品です。

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。 だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。 蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。 実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。

処理中です...