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第五幕 九 「真実などに興味はありません」
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九
「彼と私では、この依頼に対しての目的があまりにも違います。貴方と私、そして貴方と霧崎サンで目的が違うように。」
「何で?目的は事件の解決でしょう?」
琉衣は首を傾げてみせる。琉衣の見せる一々の動作は、鍛練の賜物のような無駄のない動きで、効果を計算されつくしたかのような、自分を魅力的にアピールするものだった。
しかし、ヒョウには暖簾に腕押し。効き目はない。押し切られることもない。
「ええ、ですが、彼の解決と私の解決では、事件の様相がまったく変わってしまうんですよ。彼と私が相容れないのは、そこなんです。」
「どこよ?」
「彼は彼自身の言葉にもあるように、真実を追い求め、正義によって事件を解決します。そこには何かしらの救いがあり、悪はいつでも最後に淘汰されます。犯人を諭し、情けをかけ、名探偵としては申し分ない働きです。」
ヒョウのレクチャーに、琉衣はうんうんと頷く。
「しかし、私は違います。昨日、榊原サンにも聞かれましたが、私の追い求めるのは心の闇だけです。真実などに興味はありません。」
そこで、ヒョウは唐突に椅子から立ち上がる。
突然のヒョウの行動に、琉衣の顔が強張る。警戒レベルを上げているようだ。
「時間が空いたとはいえ、少し話が長くなりましたね。これ以上、不毛な思想論など続けることに意味はないでしょう?相容れぬものが言葉を重ねたところで混じることなどないのですから。」
一方的な会話の終了を告げると、ヒョウは扉へと向かって歩き始める。
「あっ、ちょっと、凍神さん、待って。まだ、話が!」
琉衣も慌てて椅子から立ち上がる。
扉の前まで進んでいたヒョウは、琉衣へと振り返った。
「貴方が、そこまで私と霧崎サンを監視下に置きたいのは、何か理由があるからなのでしょう?貴方には報酬などよりも、もっと大きな目的があるように思えますが、違いますか?」
「何、どういう意味?」
首を傾げてみせる琉衣と涼しげな微笑のヒョウ。
「まあ、いいでしょう。横山サン、心配しなくても、私は昼下がりの作戦会議に出席の予定です。その時にでも、またお会いしましょう。」
ヒョウはもう振り返らずに、扉を開く。
「ちょっと、どこ行くの?」
ヒョウの背中に呼びかける琉衣の質問に、返答はもう来ない。
だが、扉が閉まる直前、室内には不気味な囁きが届けられる。
「貴方からは闇の匂いがしますよ。いくら嘘で固めても、私の鼻は誤魔化されません。」
そして、扉は閉まる。
客室に囁きと共に残されたのは、一人の女探偵だけだった。
闇の使者は遂に活動を始める。
舞台上の人物は、闇に中てられ、
刻一刻と表情を一変させていく。
殺人鬼の独唱が響く中、ストーリーは進んでいく。
舞台の外で指揮棒を振るモノは、
何を思っているのか?
明滅するスポットライト、
奏で上げるオーケストラ。
舞台は盛り上がる時を待ち、
観客の視線を釘付けにする。
ああ、響いている。
独唱は響いている。
「彼と私では、この依頼に対しての目的があまりにも違います。貴方と私、そして貴方と霧崎サンで目的が違うように。」
「何で?目的は事件の解決でしょう?」
琉衣は首を傾げてみせる。琉衣の見せる一々の動作は、鍛練の賜物のような無駄のない動きで、効果を計算されつくしたかのような、自分を魅力的にアピールするものだった。
しかし、ヒョウには暖簾に腕押し。効き目はない。押し切られることもない。
「ええ、ですが、彼の解決と私の解決では、事件の様相がまったく変わってしまうんですよ。彼と私が相容れないのは、そこなんです。」
「どこよ?」
「彼は彼自身の言葉にもあるように、真実を追い求め、正義によって事件を解決します。そこには何かしらの救いがあり、悪はいつでも最後に淘汰されます。犯人を諭し、情けをかけ、名探偵としては申し分ない働きです。」
ヒョウのレクチャーに、琉衣はうんうんと頷く。
「しかし、私は違います。昨日、榊原サンにも聞かれましたが、私の追い求めるのは心の闇だけです。真実などに興味はありません。」
そこで、ヒョウは唐突に椅子から立ち上がる。
突然のヒョウの行動に、琉衣の顔が強張る。警戒レベルを上げているようだ。
「時間が空いたとはいえ、少し話が長くなりましたね。これ以上、不毛な思想論など続けることに意味はないでしょう?相容れぬものが言葉を重ねたところで混じることなどないのですから。」
一方的な会話の終了を告げると、ヒョウは扉へと向かって歩き始める。
「あっ、ちょっと、凍神さん、待って。まだ、話が!」
琉衣も慌てて椅子から立ち上がる。
扉の前まで進んでいたヒョウは、琉衣へと振り返った。
「貴方が、そこまで私と霧崎サンを監視下に置きたいのは、何か理由があるからなのでしょう?貴方には報酬などよりも、もっと大きな目的があるように思えますが、違いますか?」
「何、どういう意味?」
首を傾げてみせる琉衣と涼しげな微笑のヒョウ。
「まあ、いいでしょう。横山サン、心配しなくても、私は昼下がりの作戦会議に出席の予定です。その時にでも、またお会いしましょう。」
ヒョウはもう振り返らずに、扉を開く。
「ちょっと、どこ行くの?」
ヒョウの背中に呼びかける琉衣の質問に、返答はもう来ない。
だが、扉が閉まる直前、室内には不気味な囁きが届けられる。
「貴方からは闇の匂いがしますよ。いくら嘘で固めても、私の鼻は誤魔化されません。」
そして、扉は閉まる。
客室に囁きと共に残されたのは、一人の女探偵だけだった。
闇の使者は遂に活動を始める。
舞台上の人物は、闇に中てられ、
刻一刻と表情を一変させていく。
殺人鬼の独唱が響く中、ストーリーは進んでいく。
舞台の外で指揮棒を振るモノは、
何を思っているのか?
明滅するスポットライト、
奏で上げるオーケストラ。
舞台は盛り上がる時を待ち、
観客の視線を釘付けにする。
ああ、響いている。
独唱は響いている。
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