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第三幕 三 「権力者の我が儘ということですね?」
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三
「あの、少し、話を整理しませんか?」
まだ衝撃から立ち直り切れていない琉衣が、室内の全ての人間に呼びかけた。
「そうですね。僕も賛成です。皆さんの意見をお聞きしたいです。」
探偵たちに驚愕の事実をもたらした張本人の竹川は、どこか飄々としており室内の緊迫した空気にはそぐわなかった。
「名探偵さん。警部。それに皆さん。まずは作戦会議にしましょう。」
にこやかに和やかに、竹川は場を仕切り始める。テキパキと持参した書類をテーブルに並べ、人当たりのいい笑顔を周囲に配る。
手際の良さと、人当たりの良さ。竹川は器用な性格なのだろう。
そんな竹川の様子を榊原は鼻で笑った。
「科警研から来たってことは、アンタ、プロファイラーか何かだろ?僕達相手に情報収集でもするつもりか?」
とりあえず皮肉を言ってみる榊原のスタイルは、目上の者には使われない。警部や名探偵には挑発しなかったところを見ると、最低限の処世術くらいは心得ているらしい。榊原の審査システムは、アメリカ帰りのプロファイラーを自分と同じか下という風に判断したらしい。皮肉を言うことで余裕を見せているつもりなのだろう。
「そうですね。皆さんの持っている独自の情報網とかに期待していないわけではないですよ。探偵さんは、警察とは別のコネクションを持っていても不思議ではないですからね。」
皮肉は丁寧に捌かれる。だが、そこに嫌味はない。計算なのか天然なのかは分からないが、あまり敵を作らない性格のようだ。持ち上げるのも忘れない。
榊原と竹川。二人は背格好も似ているし、年恰好も似ているが、性格があまりに違っていた。それは、表情にも顕著に表れている。皮肉屋で猜疑心の強い探偵榊原の顔は笑みを浮かべてもシニカルに歪んでいるが、素直で人当たりのいいプロファイラー竹川の顔は人好きのする笑顔で周囲に対しても悪印象を与えない。
「そうだな。それぞれの持ち寄った情報が、事件の早期解決に繋がるかもしれない。」
半ば事実を予想していただけに、名探偵・霧崎は動揺はしていなかった。プロファイラー竹川の提案を受け入れ、並べられた書類に目を通していく。
霧崎の同意により、榊原も渋々テーブルを囲み、テーブルの周りには警部とプロファイラー竹川、霧崎に琉衣、榊原の五人が集まっていた。
室内に残るのはあと二人。冷然と立つヒョウとリンだけだ。
二人へと近寄り、プロファイラーは笑みを向けた。
「お二人も、どうぞいらしてください。」
「そいつを呼ぶな!」
慌てて警部が声を掛けるが、どこか飄々とした竹川は、笑って頷くだけであまり相手にしていなかった。
「お二人も探偵さんなんですよね?何だか、そんな風には見えないけど。あっ、いえ、あの褒め言葉なんですよ。」
笑顔を崩さずに、二人の前に立つ竹川。口調にも言葉にも嫌味はない。正直な感想なのだろう。
ヒョウも薄い微笑を口元に浮かべている。
「私は凍神ヒョウと申します。こちらは、助手のリンです。竹川サンでしたね?」
「あっ、はい。初めまして。あの、お二人も、作戦会議に参加しませんか?」
「分かりました。」
特にこだわった様子もなく、ヒョウは微笑のまま竹川の誘いに応じた。
「行きますよ、リン。」
リンの首の鈴も肯定の音を響かせる。
二人がテーブルの見える位置に陣取ったことで、作戦会議は始まる。
警部が、ヒョウの到着に嫌な顔をしていたが、ヒョウの隣のリンには笑顔を向けて手を振っていた。
リンには、思わず手を振りたくなるような愛らしさが備わっている。
「それで、どこから話を整理すればいいんだ?」
リンに手を振った後、威厳を取り戻すように咳払いをした警部が、話を切り出した。
名コンビの片割れ・霧崎がすかさず警部の後を続ける。
「そうですね。首の傷辺りですか。それと、警察の捜査方針。あとは、何故、警部さんがこちらに派遣されたのか?その辺りの事情の説明なんかをしてもらえるとありがたいです。」
名コンビ主導で作戦会議は進んでいく。誰もそこに異議を挟もうとはしていなかった。
場を仕切っていた竹川も、二人の進行役の手際を笑顔で見つめながら、テーブルの書類を整理していた。うまく立ち回る竹川らしく、今は雑用係の役目を担っている。
「首の傷。あれは、さっき君達に見てもらったとおりだ。」
説明に写真を取り上げようと警部は周囲を見回したが、目的の写真は警部の天敵であるヒョウが持っていた。
写真を諦め、警部は別の説明に移る。
「事件の概要も聞いてもらったとおりだ。事前に配布した資料もあるだろう?」
警部は今度は目的の資料をテーブルの上に見つけ、取り上げて見せた。
「これだ。警察の捜査本部での現在の状況は、この資料以上のものはない。といっても、この件は既に死の押し売り師事件としての処理がされているから。」
そして、警部は別の厚めの資料を持ち上げる。
「死の押し売り師についての資料は、ここにあるもので間に合うと思う。だが、別の死の押し売り師事件についての資料が欲しいのならば、また用意させよう。」
「死の押し売り師についてのプロファイリングなどについては、僕に聞いてください。」
そこで、自分の存在をアピールするように竹川が笑顔を見せた。
警部は竹川の言葉に頷く。
「こいつは、まだ新米で半人前だが、少しは役に立つかもしれん。有効利用してくれ。」
「ひどいなぁ、警部。」
ぼやいて見せる竹川だが、傷ついている様子はない。
竹川の文句を聞き流すと警部は、次を続ける。
「今回、我々がこんな風に関わるのは、捜査の一環とはいえ、特別なことだ。我々としては、今回の事件も別の事件と同様に、死の押し売り師事件の一つとして捜査したいのだが、諸々の事情により、こんな形になった。君達も聞いていると思うが。」
「権力者の我が儘ということですね?」
回りくどい警部の声に割り込むようにして、ヒョウが尋ねた。
警部は割り込まれたことに不快感を表すように咳払いをすると、ヒョウを睨んだ。
「かといって、君達の協力に期待していないわけではない。力を合わせて、この事件を含めた死の押し売り師事件を解決させようじゃないか。」
「あの、少し、話を整理しませんか?」
まだ衝撃から立ち直り切れていない琉衣が、室内の全ての人間に呼びかけた。
「そうですね。僕も賛成です。皆さんの意見をお聞きしたいです。」
探偵たちに驚愕の事実をもたらした張本人の竹川は、どこか飄々としており室内の緊迫した空気にはそぐわなかった。
「名探偵さん。警部。それに皆さん。まずは作戦会議にしましょう。」
にこやかに和やかに、竹川は場を仕切り始める。テキパキと持参した書類をテーブルに並べ、人当たりのいい笑顔を周囲に配る。
手際の良さと、人当たりの良さ。竹川は器用な性格なのだろう。
そんな竹川の様子を榊原は鼻で笑った。
「科警研から来たってことは、アンタ、プロファイラーか何かだろ?僕達相手に情報収集でもするつもりか?」
とりあえず皮肉を言ってみる榊原のスタイルは、目上の者には使われない。警部や名探偵には挑発しなかったところを見ると、最低限の処世術くらいは心得ているらしい。榊原の審査システムは、アメリカ帰りのプロファイラーを自分と同じか下という風に判断したらしい。皮肉を言うことで余裕を見せているつもりなのだろう。
「そうですね。皆さんの持っている独自の情報網とかに期待していないわけではないですよ。探偵さんは、警察とは別のコネクションを持っていても不思議ではないですからね。」
皮肉は丁寧に捌かれる。だが、そこに嫌味はない。計算なのか天然なのかは分からないが、あまり敵を作らない性格のようだ。持ち上げるのも忘れない。
榊原と竹川。二人は背格好も似ているし、年恰好も似ているが、性格があまりに違っていた。それは、表情にも顕著に表れている。皮肉屋で猜疑心の強い探偵榊原の顔は笑みを浮かべてもシニカルに歪んでいるが、素直で人当たりのいいプロファイラー竹川の顔は人好きのする笑顔で周囲に対しても悪印象を与えない。
「そうだな。それぞれの持ち寄った情報が、事件の早期解決に繋がるかもしれない。」
半ば事実を予想していただけに、名探偵・霧崎は動揺はしていなかった。プロファイラー竹川の提案を受け入れ、並べられた書類に目を通していく。
霧崎の同意により、榊原も渋々テーブルを囲み、テーブルの周りには警部とプロファイラー竹川、霧崎に琉衣、榊原の五人が集まっていた。
室内に残るのはあと二人。冷然と立つヒョウとリンだけだ。
二人へと近寄り、プロファイラーは笑みを向けた。
「お二人も、どうぞいらしてください。」
「そいつを呼ぶな!」
慌てて警部が声を掛けるが、どこか飄々とした竹川は、笑って頷くだけであまり相手にしていなかった。
「お二人も探偵さんなんですよね?何だか、そんな風には見えないけど。あっ、いえ、あの褒め言葉なんですよ。」
笑顔を崩さずに、二人の前に立つ竹川。口調にも言葉にも嫌味はない。正直な感想なのだろう。
ヒョウも薄い微笑を口元に浮かべている。
「私は凍神ヒョウと申します。こちらは、助手のリンです。竹川サンでしたね?」
「あっ、はい。初めまして。あの、お二人も、作戦会議に参加しませんか?」
「分かりました。」
特にこだわった様子もなく、ヒョウは微笑のまま竹川の誘いに応じた。
「行きますよ、リン。」
リンの首の鈴も肯定の音を響かせる。
二人がテーブルの見える位置に陣取ったことで、作戦会議は始まる。
警部が、ヒョウの到着に嫌な顔をしていたが、ヒョウの隣のリンには笑顔を向けて手を振っていた。
リンには、思わず手を振りたくなるような愛らしさが備わっている。
「それで、どこから話を整理すればいいんだ?」
リンに手を振った後、威厳を取り戻すように咳払いをした警部が、話を切り出した。
名コンビの片割れ・霧崎がすかさず警部の後を続ける。
「そうですね。首の傷辺りですか。それと、警察の捜査方針。あとは、何故、警部さんがこちらに派遣されたのか?その辺りの事情の説明なんかをしてもらえるとありがたいです。」
名コンビ主導で作戦会議は進んでいく。誰もそこに異議を挟もうとはしていなかった。
場を仕切っていた竹川も、二人の進行役の手際を笑顔で見つめながら、テーブルの書類を整理していた。うまく立ち回る竹川らしく、今は雑用係の役目を担っている。
「首の傷。あれは、さっき君達に見てもらったとおりだ。」
説明に写真を取り上げようと警部は周囲を見回したが、目的の写真は警部の天敵であるヒョウが持っていた。
写真を諦め、警部は別の説明に移る。
「事件の概要も聞いてもらったとおりだ。事前に配布した資料もあるだろう?」
警部は今度は目的の資料をテーブルの上に見つけ、取り上げて見せた。
「これだ。警察の捜査本部での現在の状況は、この資料以上のものはない。といっても、この件は既に死の押し売り師事件としての処理がされているから。」
そして、警部は別の厚めの資料を持ち上げる。
「死の押し売り師についての資料は、ここにあるもので間に合うと思う。だが、別の死の押し売り師事件についての資料が欲しいのならば、また用意させよう。」
「死の押し売り師についてのプロファイリングなどについては、僕に聞いてください。」
そこで、自分の存在をアピールするように竹川が笑顔を見せた。
警部は竹川の言葉に頷く。
「こいつは、まだ新米で半人前だが、少しは役に立つかもしれん。有効利用してくれ。」
「ひどいなぁ、警部。」
ぼやいて見せる竹川だが、傷ついている様子はない。
竹川の文句を聞き流すと警部は、次を続ける。
「今回、我々がこんな風に関わるのは、捜査の一環とはいえ、特別なことだ。我々としては、今回の事件も別の事件と同様に、死の押し売り師事件の一つとして捜査したいのだが、諸々の事情により、こんな形になった。君達も聞いていると思うが。」
「権力者の我が儘ということですね?」
回りくどい警部の声に割り込むようにして、ヒョウが尋ねた。
警部は割り込まれたことに不快感を表すように咳払いをすると、ヒョウを睨んだ。
「かといって、君達の協力に期待していないわけではない。力を合わせて、この事件を含めた死の押し売り師事件を解決させようじゃないか。」
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