5 / 82
第一幕 三 「霧崎さん、彼とお知り合いなんですか?」
しおりを挟む ゴトリとドアの向こうから音がした。嵯峨は誠にしゃべらないよう手で合図するとドアを開く。
かなめ、カウラ、アイシャ、シャム、パーラ、サラ、そして菰田がばたばたと部屋の中に倒れこむ。
「盗み聞きとは感心しないねえ」
七人を見下ろして嵯峨が嘆く。
「叔父貴。そりゃねえだろ?銃をバカスカ撃つのはアタシだってやってるじゃないか!」
「そうなんだ。じゃあ今回の降格取り消しの再考を上申するか?上申書の用紙ならあるぞ?」
「そうじゃねえ!」
「無駄だ、西園寺。上層部の決定はそう簡単には覆らない」
「カウラちゃん薄情ねえ。もう少しかばってあげないとフラグ立たないわよ」
かなめ、カウラ、アイシャがよたよたと立ち上がる。複雑な表情の彼らの中で、菰田だけは顔に『ざまあみろ』と書いてある。
「神前軍曹!これからもよろしく」
「西園寺さん、曹長なんですが」
「バーカ。知ってていってるんだ!」
かなめがニヤリと笑った。
「それよりアイシャ。いいのか?今からここを出ないと艦長研修の講座に間に合わないんじゃないのか?」
嵯峨が頭を掻きながら言った。
「大丈夫ですよ、隊長。ちゃんと軍本部からの通達がありました。今日の研修は講師の都合でお休みです」
「なんだよ。今回の出動のご苦労さん会に来るのかよ……せっかく一人分部屋が広くなると思ったのによ」
愚痴るかなめをアイシャは満面の笑みで見つめている。
「かなめちゃんなんか文句あるの?」
馬鹿騒ぎの好きなかなめの言葉にアイシャが釘を刺す。
「別に」
かなめが頬を膨らましている。
そこに島田が大き目の書類を持って現れた。
「神前います?」
「ああ、そこに立ってる」
呆然と立ち尽くしている神前に、島田がよく見ればステッキを持ったフリルの付いたドレスを着た幼女の絵が描かれたイラストを見せた。よく見ればそれは05式の腕部の拡大図で次のページにはにこやかに笑う同じ幼女の絵、さらに次のページには右太ももに睨み付けてすごんでいる表情の幼女の絵が描かれていた。
「お前、確かに5機以上の撃墜スコアでエース資格と機体のマーキングが許可されるわけだが……」
全員がその絵を覗き込む。
「これって『ラブラブ魔女っ子シンディー』のエミリアちゃんじゃない!いいなあ……私も機体カラー変えようかな」
シャムが素っ頓狂な声で叫ぶ。
「あえてパロディーエロゲキャラ。そして楽に落ちるヒロインを外してツンデレキャラを選ぶとはさすが先生ね」
アイシャは腕組みして真顔でイラストを眺める。
「駄目ですか?」
誠はそう言うと嵯峨のほうを見る。嵯峨の目は明らかに呆れるを通り越し、哀れむような色を帯びて誠を見つめる。
「神前。お前って奴は……痛いな」
かなめは呆れ半分でつぶやいた。
「それでこれが塗り替え後の完成予定図」
島田は最後のページに描かれた05式の全体図を見せる。まさに痛いアサルト・モジュールの完成図がそこにあった。
「却下だ!却下!こんなのと一緒に出動したらアタシの立場はどうなるんだ!」
「いいんじゃないのか?」
カウラが表情を変えずにそう言った。誠は半分冗談で出した機体のマーキングを他人に認められてしまったことに動揺していた。一気に場が凍りつく。
「お前なあ、こいつを小隊長として指揮するんだぞ?」
かなめが恐る恐る切り出す。
「別に機能に影響が出なければそれでいい。第二次世界大戦のドイツ空軍、ルフトバッフェのエースパイロット、アドルフ・ガーランド少将は敵国のアニメキャラクターのマーキングをした機体を操縦していた事は有名だぞ」
カウラは淡々と言う。
「じゃあ小隊長命令と言う事でいいですか?」
恐る恐る島田がかなめに尋ねた。
「いいわけあるか!神前!お願いだから止めてくれ!止めると言ってくれ!」
かなめは悲鳴にも近い声を上げる。
「じゃあ塗装作業に入りますんで」
そういい終わると島田は大きなため息をつく。
「アタシももっと色々描こうかな……」
シャムがうらやましいというようにそう口にした。
「お願いだから止めてくれ」
いつの間にか後ろに立っていた吉田が突っ込みを入れる。
「アタシはどうでもいいが」
続けて入ってきたランが投げやりにそう言ってみせた。
「馬鹿がここにもいたのか」
いつの間にか毎朝恒例の警備部の部下の説教を終えて通りかかったマリアが島田の図を見て思わずそうこぼした。
「ずいぶんとにぎやかになったねえ。茶でも入れるか?島田、サラ、パーラ。頼むわ。茶菓子は確か……」
嵯峨はそう言うとごそごそとガンオイルの棚を漁り始めた。舞い上がる埃に部屋のなかの人々が一斉にむせ返る。
「いいですよ!食堂で何か探しますから!」
島田はそう言うと、サラとパーラを伴って隊長室を出て行った。
「お茶だけじゃ味気ないわね。誠ちゃん、生協に買い出しに行ってくれる?」
「アイシャさん。僕がですか?」
「この場で一番階級が低いのがお前だ。仕方ない、カードは私が出す」
困惑気味の誠にそう言うとカウラはポケットから菱川重工豊川工場生協で使えるカードを差し出す。
「え!好きなの頼んでいいの?じゃあ……チョコレートアイス!」
「アタシはココアだな」
「あそこは酒は置いてねえんだよな……」
シャムとラン、かなめまで誠が買い出しに行くことを前提に話始める。
「じゃあ……行ってきます」
今一つ腑に落ちない表情で誠はスクーターのカギを取りに更衣室に向かった。
遼州同盟司法局。実働部隊第二小隊。
そこでの神前誠特技曹長の生活はこうして始まった。
了
かなめ、カウラ、アイシャ、シャム、パーラ、サラ、そして菰田がばたばたと部屋の中に倒れこむ。
「盗み聞きとは感心しないねえ」
七人を見下ろして嵯峨が嘆く。
「叔父貴。そりゃねえだろ?銃をバカスカ撃つのはアタシだってやってるじゃないか!」
「そうなんだ。じゃあ今回の降格取り消しの再考を上申するか?上申書の用紙ならあるぞ?」
「そうじゃねえ!」
「無駄だ、西園寺。上層部の決定はそう簡単には覆らない」
「カウラちゃん薄情ねえ。もう少しかばってあげないとフラグ立たないわよ」
かなめ、カウラ、アイシャがよたよたと立ち上がる。複雑な表情の彼らの中で、菰田だけは顔に『ざまあみろ』と書いてある。
「神前軍曹!これからもよろしく」
「西園寺さん、曹長なんですが」
「バーカ。知ってていってるんだ!」
かなめがニヤリと笑った。
「それよりアイシャ。いいのか?今からここを出ないと艦長研修の講座に間に合わないんじゃないのか?」
嵯峨が頭を掻きながら言った。
「大丈夫ですよ、隊長。ちゃんと軍本部からの通達がありました。今日の研修は講師の都合でお休みです」
「なんだよ。今回の出動のご苦労さん会に来るのかよ……せっかく一人分部屋が広くなると思ったのによ」
愚痴るかなめをアイシャは満面の笑みで見つめている。
「かなめちゃんなんか文句あるの?」
馬鹿騒ぎの好きなかなめの言葉にアイシャが釘を刺す。
「別に」
かなめが頬を膨らましている。
そこに島田が大き目の書類を持って現れた。
「神前います?」
「ああ、そこに立ってる」
呆然と立ち尽くしている神前に、島田がよく見ればステッキを持ったフリルの付いたドレスを着た幼女の絵が描かれたイラストを見せた。よく見ればそれは05式の腕部の拡大図で次のページにはにこやかに笑う同じ幼女の絵、さらに次のページには右太ももに睨み付けてすごんでいる表情の幼女の絵が描かれていた。
「お前、確かに5機以上の撃墜スコアでエース資格と機体のマーキングが許可されるわけだが……」
全員がその絵を覗き込む。
「これって『ラブラブ魔女っ子シンディー』のエミリアちゃんじゃない!いいなあ……私も機体カラー変えようかな」
シャムが素っ頓狂な声で叫ぶ。
「あえてパロディーエロゲキャラ。そして楽に落ちるヒロインを外してツンデレキャラを選ぶとはさすが先生ね」
アイシャは腕組みして真顔でイラストを眺める。
「駄目ですか?」
誠はそう言うと嵯峨のほうを見る。嵯峨の目は明らかに呆れるを通り越し、哀れむような色を帯びて誠を見つめる。
「神前。お前って奴は……痛いな」
かなめは呆れ半分でつぶやいた。
「それでこれが塗り替え後の完成予定図」
島田は最後のページに描かれた05式の全体図を見せる。まさに痛いアサルト・モジュールの完成図がそこにあった。
「却下だ!却下!こんなのと一緒に出動したらアタシの立場はどうなるんだ!」
「いいんじゃないのか?」
カウラが表情を変えずにそう言った。誠は半分冗談で出した機体のマーキングを他人に認められてしまったことに動揺していた。一気に場が凍りつく。
「お前なあ、こいつを小隊長として指揮するんだぞ?」
かなめが恐る恐る切り出す。
「別に機能に影響が出なければそれでいい。第二次世界大戦のドイツ空軍、ルフトバッフェのエースパイロット、アドルフ・ガーランド少将は敵国のアニメキャラクターのマーキングをした機体を操縦していた事は有名だぞ」
カウラは淡々と言う。
「じゃあ小隊長命令と言う事でいいですか?」
恐る恐る島田がかなめに尋ねた。
「いいわけあるか!神前!お願いだから止めてくれ!止めると言ってくれ!」
かなめは悲鳴にも近い声を上げる。
「じゃあ塗装作業に入りますんで」
そういい終わると島田は大きなため息をつく。
「アタシももっと色々描こうかな……」
シャムがうらやましいというようにそう口にした。
「お願いだから止めてくれ」
いつの間にか後ろに立っていた吉田が突っ込みを入れる。
「アタシはどうでもいいが」
続けて入ってきたランが投げやりにそう言ってみせた。
「馬鹿がここにもいたのか」
いつの間にか毎朝恒例の警備部の部下の説教を終えて通りかかったマリアが島田の図を見て思わずそうこぼした。
「ずいぶんとにぎやかになったねえ。茶でも入れるか?島田、サラ、パーラ。頼むわ。茶菓子は確か……」
嵯峨はそう言うとごそごそとガンオイルの棚を漁り始めた。舞い上がる埃に部屋のなかの人々が一斉にむせ返る。
「いいですよ!食堂で何か探しますから!」
島田はそう言うと、サラとパーラを伴って隊長室を出て行った。
「お茶だけじゃ味気ないわね。誠ちゃん、生協に買い出しに行ってくれる?」
「アイシャさん。僕がですか?」
「この場で一番階級が低いのがお前だ。仕方ない、カードは私が出す」
困惑気味の誠にそう言うとカウラはポケットから菱川重工豊川工場生協で使えるカードを差し出す。
「え!好きなの頼んでいいの?じゃあ……チョコレートアイス!」
「アタシはココアだな」
「あそこは酒は置いてねえんだよな……」
シャムとラン、かなめまで誠が買い出しに行くことを前提に話始める。
「じゃあ……行ってきます」
今一つ腑に落ちない表情で誠はスクーターのカギを取りに更衣室に向かった。
遼州同盟司法局。実働部隊第二小隊。
そこでの神前誠特技曹長の生活はこうして始まった。
了
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
いい子ちゃんなんて嫌いだわ
F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが
聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。
おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。
どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。
それが優しさだと思ったの?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
猫の喫茶店『ねこみや』
壬黎ハルキ
キャラ文芸
とあるアラサーのキャリアウーマンは、毎日の仕事で疲れ果てていた。
珍しく早く帰れたその日、ある住宅街の喫茶店を発見。
そこは、彼女と同い年くらいの青年が一人で仕切っていた。そしてそこには看板猫が存在していた。
猫の可愛さと青年の心優しさに癒される彼女は、店の常連になるつもりでいた。
やがて彼女は、一匹の白い子猫を保護する。
その子猫との出会いが、彼女の人生を大きく変えていくことになるのだった。
※4話と5話は12/30に更新します。
※6話以降は連日1話ずつ(毎朝8:00)更新していきます。
※第4回キャラ文芸大賞にエントリーしました。よろしくお願いします<(_ _)>
旦那の元嫁と同居することになりまして
ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
新婚夫婦のエミリーは、夫のクロードと狭いアパートで二人暮らし。
慎ましいながらも幸せな日々を送るエミリーだったが、ある日クロードの元妻であるサシャが登場。夫の無責任な言動により、彼女との同居生活が始まってしまう。
自由奔放なサシャに振り回され、一気に疲れ果てるエミリー。
しかしサシャの夢を追いかける姿勢や、自分の知らないクロードの過去を知ることで、エミリーの心境に変化が訪れる。
笑いあり、涙ありの新婚夫婦の騒動と成長の物語。
この作品は小説家になろう、アルファポリスに投稿しております。
表紙イラストはノーコピーライトガール様より。
何故か超絶美少女に嫌われる日常
やまたけ
青春
K市内一と言われる超絶美少女の高校三年生柊美久。そして同じ高校三年生の武智悠斗は、何故か彼女に絡まれ疎まれる。何をしたのか覚えがないが、とにかく何かと文句を言われる毎日。だが、それでも彼女に歯向かえない事情があるようで……。疋田美里という、主人公がバイト先で知り合った可愛い女子高生。彼女の存在がより一層、この物語を複雑化させていくようで。
しょっぱなヒロインから嫌われるという、ちょっとひねくれた恋愛小説。
月夜のさや
蓮恭
ミステリー
いじめられっ子で喘息持ちの妹の療養の為、父の実家がある田舎へと引っ越した主人公「天野桐人(あまのきりと)」。
夏休み前に引っ越してきた桐人は、ある夜父親と喧嘩をして家出をする。向かう先は近くにある祖母の家。
近道をしようと林の中を通った際に転んでしまった桐人を助けてくれたのは、髪の長い綺麗な顔をした女の子だった。
夏休み中、何度もその女の子に会う為に夜になると林を見張る桐人は、一度だけ女の子と話す機会が持てたのだった。話してみればお互いが孤独な子どもなのだと分かり、親近感を持った桐人は女の子に名前を尋ねた。
彼女の名前は「さや」。
夏休み明けに早速転校生として村の学校で紹介された桐人。さやをクラスで見つけて話しかけるが、桐人に対してまるで初対面のように接する。
さやには『さや』と『紗陽』二つの人格があるのだと気づく桐人。日によって性格も、桐人に対する態度も全く変わるのだった。
その後に起こる事件と、村のおかしな神事……。
さやと紗陽、二人の秘密とは……?
※ こちらは【イヤミス】ジャンルの要素があります。どんでん返し好きな方へ。
「小説家になろう」にも掲載中。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
未亡人クローディアが夫を亡くした理由
臣桜
キャラ文芸
老齢の辺境伯、バフェット伯が亡くなった。
しかしその若き未亡人クローディアは、夫が亡くなったばかりだというのに、喪服とは色ばかりの艶やかな姿をして、毎晩舞踏会でダンスに興じる。
うら若き未亡人はなぜ老齢の辺境伯に嫁いだのか。なぜ彼女は夫が亡くなったばかりだというのに、楽しげに振る舞っているのか。
クローディアには、夫が亡くなった理由を知らなければならない理由があった――。
※ 表紙はニジジャーニーで生成しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる