48 / 57
第六章 学園祭、その後……⑥
しおりを挟む
六
(結局、あんまり寝られなかった……。)
水嶋シュウにしては珍しく、昼過ぎまでベッドの中でぐずぐずしていたが、一瞬眠っても悪夢にうなされたりしたせいでうまく睡眠がとれたとは言い難かった。ただでさえ、昨夜は完全に(しかも屋外で)寝落ちしてしまったというのに……。
いくら体力にある程度の自信がある水嶋シュウの肉体をもってしても、これでは本調子にはならない。寝不足が原因で顔つきは普段より三割ほど凶悪になり、精神的な疲労から来ているであろう頭痛が明人を襲っていた。
本当はこのまま寮の自室に籠って休日を過ごしたかったが、スマホに届いたスオウからのメッセージが明人を休ませてはくれなかった。
『多目的室に集合な。とりあえず、慰労会だ。』
慰労が目的なら、本当は自室で心ゆくまで休ませてほしい。
明人は切実にそう願ったが、行かないと行かないでスオウが無遠慮に誘いに来そうだし、何より明人自身にも早急に確かめたいことがあった。
なので、明人は頭痛を抱えながら凶悪な顔で寮内の多目的室へと向けて廊下を歩いているのだった。
明人が無理をしてまで確認したいこと。それは、『結局、ルート分岐はどうなったか?』ということだ。
学園祭当日も、その前も、あれだけ攻略キャラたちと万遍なくイベントを発生させていたのだから、さすがに主人公も誰かとくっついているだろう。
明人は誰かの個別ルートに分岐したという事実を確認したくて、攻略キャラが揃う生徒会の集まりに参加することにしたのだ。
はっきりと個別ルートに分岐したという確証があるかは分からないが、それでもそれくくらい親密度が増したのなら、何かしら目に見えて分かる変化もあるだろうと予測しての行動だ。
明人は分かりやすく未来への希望が欲しかった。
そうして、安心したかったのだ。
希望が見え、安心できたのなら、いま現在進行形で明人を襲う頭痛も緩和されるに違いない。
明人は多目的室の前に到着すると、覚悟を決めるように息を吐き出す。
そして、扉へと手を掛けた。
「おっ!シュウ。こっちだ!!」
扉を開けると、まず初めに会長のスオウが声を掛けてくる。
スオウはしっかりと休息を取ったぞというような元気溢れる張りのある声を響かせる。
明人とは違い、昨日の学園祭の疲労は既に回復したようだ。
室内には、椅子と机が適当に並べられ、机の上には雑多な菓子類や飲料が置かれていた。
その準備の大雑把さから、スオウがこの慰労会の責任者であることが察せられた。
(……スオウのヤツ、ノリで買い出しに行ったな……。)
勢いとノリの男・藤原スオウの真骨頂と呼べるテキトーさで、今回の集まりが慰労会とは名ばかりの行き当たりばったりの会合であることが理解できる。
(……まあ悪気はないからな、スオウに。)
皆を労いたいというスオウの気持ちだけは本物であるのだろう。
それを感じたからこそ、生徒会の面々は休日にもかかわらず、それぞれ集まっているように見えた。
「……。」
覚悟を決めて部屋に入ったはいいが、明人がどれだけ見回しても室内に鈴木ハルトの姿はなかった。どうやら、主人公・鈴木ハルトはまだ来ていないらしい。
スオウの元へ近づいていくと、スオウは明人の顔を見て目を丸くした。
「何かいつもよりも更に悪い顔になってないか?」
「……うるさい。寝不足なんだ。」
能天気なスオウの言葉に、明人はメガネ越しに睨み付けてやる。
スオウは肩を竦めて笑った。
「ははは。まあ昨日は信じられないくらい忙しかったからな。」
スオウの言葉に室内にいた全員がしみじみと頷く。
そこで、ようやく室内にいた全員、学園祭が無事に終了したことを実感できたのだった。
(結局、あんまり寝られなかった……。)
水嶋シュウにしては珍しく、昼過ぎまでベッドの中でぐずぐずしていたが、一瞬眠っても悪夢にうなされたりしたせいでうまく睡眠がとれたとは言い難かった。ただでさえ、昨夜は完全に(しかも屋外で)寝落ちしてしまったというのに……。
いくら体力にある程度の自信がある水嶋シュウの肉体をもってしても、これでは本調子にはならない。寝不足が原因で顔つきは普段より三割ほど凶悪になり、精神的な疲労から来ているであろう頭痛が明人を襲っていた。
本当はこのまま寮の自室に籠って休日を過ごしたかったが、スマホに届いたスオウからのメッセージが明人を休ませてはくれなかった。
『多目的室に集合な。とりあえず、慰労会だ。』
慰労が目的なら、本当は自室で心ゆくまで休ませてほしい。
明人は切実にそう願ったが、行かないと行かないでスオウが無遠慮に誘いに来そうだし、何より明人自身にも早急に確かめたいことがあった。
なので、明人は頭痛を抱えながら凶悪な顔で寮内の多目的室へと向けて廊下を歩いているのだった。
明人が無理をしてまで確認したいこと。それは、『結局、ルート分岐はどうなったか?』ということだ。
学園祭当日も、その前も、あれだけ攻略キャラたちと万遍なくイベントを発生させていたのだから、さすがに主人公も誰かとくっついているだろう。
明人は誰かの個別ルートに分岐したという事実を確認したくて、攻略キャラが揃う生徒会の集まりに参加することにしたのだ。
はっきりと個別ルートに分岐したという確証があるかは分からないが、それでもそれくくらい親密度が増したのなら、何かしら目に見えて分かる変化もあるだろうと予測しての行動だ。
明人は分かりやすく未来への希望が欲しかった。
そうして、安心したかったのだ。
希望が見え、安心できたのなら、いま現在進行形で明人を襲う頭痛も緩和されるに違いない。
明人は多目的室の前に到着すると、覚悟を決めるように息を吐き出す。
そして、扉へと手を掛けた。
「おっ!シュウ。こっちだ!!」
扉を開けると、まず初めに会長のスオウが声を掛けてくる。
スオウはしっかりと休息を取ったぞというような元気溢れる張りのある声を響かせる。
明人とは違い、昨日の学園祭の疲労は既に回復したようだ。
室内には、椅子と机が適当に並べられ、机の上には雑多な菓子類や飲料が置かれていた。
その準備の大雑把さから、スオウがこの慰労会の責任者であることが察せられた。
(……スオウのヤツ、ノリで買い出しに行ったな……。)
勢いとノリの男・藤原スオウの真骨頂と呼べるテキトーさで、今回の集まりが慰労会とは名ばかりの行き当たりばったりの会合であることが理解できる。
(……まあ悪気はないからな、スオウに。)
皆を労いたいというスオウの気持ちだけは本物であるのだろう。
それを感じたからこそ、生徒会の面々は休日にもかかわらず、それぞれ集まっているように見えた。
「……。」
覚悟を決めて部屋に入ったはいいが、明人がどれだけ見回しても室内に鈴木ハルトの姿はなかった。どうやら、主人公・鈴木ハルトはまだ来ていないらしい。
スオウの元へ近づいていくと、スオウは明人の顔を見て目を丸くした。
「何かいつもよりも更に悪い顔になってないか?」
「……うるさい。寝不足なんだ。」
能天気なスオウの言葉に、明人はメガネ越しに睨み付けてやる。
スオウは肩を竦めて笑った。
「ははは。まあ昨日は信じられないくらい忙しかったからな。」
スオウの言葉に室内にいた全員がしみじみと頷く。
そこで、ようやく室内にいた全員、学園祭が無事に終了したことを実感できたのだった。
11
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
転生したらついてましたァァァァァ!!!
夢追子
ファンタジー
「女子力なんてくそ喰らえ・・・・・。」
あざと女に恋人を奪われた沢崎直は、交通事故に遭い異世界へと転生を果たす。
だけど、ちょっと待って⁉何か、変なんですけど・・・・・。何かついてるんですけど⁉
消息不明となっていた辺境伯の三男坊として転生した会社員(♀)二十五歳。モブ女。
イケメンになって人生イージーモードかと思いきや苦難の連続にあっぷあっぷの日々。
そんな中、訪れる運命の出会い。
あれ?女性に食指が動かないって、これって最終的にBL!?
予測不能な異世界転生逆転ファンタジーラブコメディ。
「とりあえずがんばってはみます」
俺の推し♂が路頭に迷っていたので
木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです)
どこにでも居る冴えない男
左江内 巨輝(さえない おおき)は
地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。
しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった…
推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい
おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。
生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。
地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。
転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。
※含まれる要素
異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛
※小説家になろうに重複投稿しています
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる