腐った姉の最推しとして爆誕した俺!! ~転生した先は「ドS鬼畜メガネ」でした……(泣)~

夢追子

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第五章 戦慄の学園祭、到来!!⑧

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     八

(……くそっ!完全に油断していた!!)
 明人は心の中で舌打ちしながらも、それでもまだ逃げ道を探していた。
 そんなこととは知らない主人公・鈴木ハルトは次々上がる花火に歓声を上げて無邪気に喜んでいる。
「……何故ここにいる?」
(他の奴らと過ごせばいいのに、何故こんな屋上くんだりまでやって来てる?コイツは。今日は暇なんかないはずだろ?)
 昼間だって、代わる代わる誰かとのイベントに引っ張りだこだった主人公が、わざわざ屋上にやって来る理由などないはずだ。フィナーレで一番盛り上がるのはキャンプファイヤーの傍だし、そこにはわんさか攻略キャラたちがいて、その誰もがこの総受け主人公とフォークダンスを踊るために手ぐすね引いて待っていたはずである。
「……皆、いなかったんです。」
 鈴木ハルトは少しだけ寂しそうに答えた。
(そんなはずあるかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?)
 明人は全身全霊を込めて心の中で叫んだ。
「………。」
 だが、口に出すことはできない。水嶋シュウという男は、全力でツッコむキャラではないからだ。代わりに出来ることは、無言でいることと頭痛を緩和させるためにこめかみを揉むことくらいだ。
「……生徒会って、打ち上げとかあるんですか?」
 花火を見上げながら鈴木ハルトは無邪気に尋ねてくる。
(そんなもん知らん。今はそれどころじゃない。)
 答える言葉を持たない明人は、まだ立ち上がることすら出来ずに眩暈がする目を閉じた。
 打ち上げなどしようなどという輩がいるとしたら、それは水嶋シュウではなく、会長の藤原スオウくらいである。だいたいそういった類の催し物は、スオウが言い出しっぺとなり、そのスオウが立てた穴だらけの計画にうんざりして水嶋シュウが細部にわたり綿密に計画を立て直すものと、この世界では相場が決まっているのだ。
 なので、明人はそのままを酷く端折って端的に答えることにした。
 スオウがやると言ったら、行われるのだ。明人が言い出すことではない。
「そんなことはスオウに聞きに行け。」
 ついでに厄介払いも試みる。
 だが鈴木ハルトはその言葉で、ふと花火から視線を下ろし、明人を見つめた。
 メガネ越しの閉じていた瞼の上からでも、自分に視線が向けられているのを感じる明人。
 どうやら、鈴木ハルトは屋上から去る気がないようだ。それどころか、空いていた距離を詰めてくるつもりらしく、足音がどんどん大きくなり近づいてきた。
「……何だ?」
 とりあえず牽制するつもりで、声を発する。
 鈴木ハルトは明人の傍にしゃがみ込むと、明人の顔を覗き込んできた。
「副会長は行かないんですか?」
「……うるさい。俺には関係ない。」
 鈴木ハルトの言葉を突っぱねるような言葉を明人は返した。ただ、いつもよりも言葉に迫力が足りていなかった。既に疲労感が全身を支配しており、もう全く身体が言うことを聞かなかったからだ。
 目を閉じたまま、覇気のない言葉を発する明人の様子に、鈴木ハルトは首を傾げる。
「あの、」
 いつもなら一言嫌みを言えば追い払える小動物のような鈴木ハルトだが、今日はもう追い払うだけのエネルギーが明人には残されていなかった。
 それをいいことに、鈴木ハルトが恐る恐るだが、更に距離を詰めてくる。
「……どうかしたんですか?」
「……うるさい。お前には関係ない。」
 言葉を発して突っぱねようとしたが、上手く発音出来ていたかすら怪しい。ここまで来ると明人は、もう全てを放り出してしまいたくなっていた。
(……あぁ、全部夢だったらいいのに……。)
 転生も、この世界も、全てが姉の布教により脳が汚染されていたことが原因で明人が見てしまった夢で、朝、目が覚めたら元の中田明人に戻っていたら、どんなに幸せなことだろう。
 もう閉じた目を開けることすら明人には出来そうもなかった。
「あの、副会長?大丈夫ですか?」
 少しずつ気が遠くなっていく明人の耳に、鈴木ハルトの声が微かに響く。
 だが、意識が薄れ始めた明人に、もう言葉を発する気力も残されてはいなかった。
「………。」
「……副会長?水嶋さん?あの!」
 何だか身体を掴まれたような、揺すられたようなそんな感覚が微かにあったが、もう明人には何が何だか分からなくなっていた。
「えっ?ちょ、ちょっと!!」
 最後に鈴木ハルトの悲鳴のようなものが聞こえたが、明人の意識はそこで途切れてしまったのだった。

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