38 / 52
第五章 戦慄の学園祭、到来!!④
しおりを挟む
四
本部運営用の生徒会室には、引っ切り無しに生徒が訪れている。
外部の人間を招待する学園祭だけあって規模がやたらとでかい。ただでさえ、このBL学園は全寮制のエリート男子校で、こんな機会でもなければおいそれと敷地に入ることすらできないので、滅多にない機会を逃すまいと近隣だけでなく遠方からも客が押し寄せていた。
もちろんその中にはたくさんの女性たちも含まれており、生徒の肉親以外の女性も数多く来校していた。その女性の目当てはほぼすべて、ポテンシャルが高い未来のエリートである生徒たちである。女性たちの目的は、ただの推しを愛でるファンのようなモノから、目の保養目的のモノ。果ては未来の旦那様候補として、青田買いをしておこうという算段が透けて見える計算高いモノまで。それはそれは熱心な視線が、校内のあちこちに注がれていた。
そのため、校内は浮ついた空気が充満しており、そこかしこで黄色い声援が響いている。普段は野郎ばかりの男子校にはない華やいだ雰囲気の中で、いつ何が起きてもおかしくはなかった。
明人は、運営の人間として何かトラブルが起きたと聞いては仲間たちと共に火消しに躍起になっていた。本当なら黄色い声援の中に身を置きたくて仕方なかったが、今日までは気を引き締めて事に当たると誓ったので、そこはぐっと心を鬼にしていた。
(それもこれも、全ては明日になるまでだ……。)
今日と云う運命の日を無事に終えた暁には、明人にはルート分岐とは関係ない輝かしい未来が待っているのだ。そうなれば、いくらでも黄色い声援の中に己が身を置くことが出来る。今後は黄色い声援に浸り続けながら生きていくことが可能なのだ。
(明日になれば……。)
明人はそう心の中で唱え続けながら、今日の業務を着実にこなし続けていた。
そんな未来への決意の固い明人とは違うが、運営に当たっている生徒会執行部の仲間たちも自らの責任をしっかりと認識して、運営本部で忙しく立ち働いていた。
ただその忙しい運営本部も、厳しいだけの空気で溢れているかというと、そこは少し違っていた。
校内には滅多に来校しない女子がわんさかいるというのに、この運営本部は男子だけで盛り上がっていた。学園一のポテンシャルを誇る男たちが揃っている場であるというのに、その中心にいるのは主人公・鈴木ハルトである。
女性たちの垂涎の的になりうる男たちが揃いも揃っているのだが、当の本人たちは女子に見向きもせずただ一人の主人公・鈴木ハルトを追い求めていた。
明人は一人で、そんな方々で恋の蕾が膨らみつつある本部の中で、別世界のような空気を纏い冷徹に運営委員の仕事をこなしていた。
「……あ、あんなの、聞いてないですよぉ……。」
どうやらいつの間にか道明寺レイの作品のモデルになっていたことを、鈴木ハルトは先程認識したようだ。その事実に、赤い顔で頻りに照れていて、それを穏やかな瞳で道明寺レイが見つめている。
「すまない。」
「み、みんな見てるんですよ……。」
(何故、事前の見回りの時に気付かないんだ?アイツは……。)
何の興味もない明人ですら、一週間前には鈴木ハルトをモデルにしてレイが作品を作っている事実に気付いていたというのに……。目が節穴としか思えない鈴木ハルトに、明人は呆れて物も言えなかったが、二人の様子を横目で見ながら別の角度からの見解も考察していた。
(……いや、学園祭当日に気付くところが主人公たる所以かもしれないな……。)
先程までは交代で休憩を取っていた時間に南野タケルと一緒に学園祭の出店を回り、食べきれないほどの軽食を抱えていた鈴木ハルト。(あれは、もう食べ終えたのだろうか?)
その前も、慌てて転びそうなところを草薙ジンに間一髪、抱きかかえられて助けられていた。
そんな攻略キャラの中心でへらへらしている鈴木ハルトを見ながら、明人は攻略キャラの一人でありながら何となく完全に他人事として考えていた。
(……結局、コイツは今日、誰を選ぶんだろうな……。)
個別ルートへの分岐点は今日訪れる。
最悪、どのルートへも分岐せず、明人の知らないルートを進んでいく可能性も考えられなくはないが、そうでないのならばこれだけ尽くしている攻略キャラたちの中から誰か一人が選ばれるのだ。
(……まあ、みんなで楽しく暮らしました的な灰色決着とかあってもいいと思うが……。)
そんな連載打ち切りのようなあまりに飛躍した可能性まで、明人は忙しなく立ち働く中で一人考えていた。
本部運営用の生徒会室には、引っ切り無しに生徒が訪れている。
外部の人間を招待する学園祭だけあって規模がやたらとでかい。ただでさえ、このBL学園は全寮制のエリート男子校で、こんな機会でもなければおいそれと敷地に入ることすらできないので、滅多にない機会を逃すまいと近隣だけでなく遠方からも客が押し寄せていた。
もちろんその中にはたくさんの女性たちも含まれており、生徒の肉親以外の女性も数多く来校していた。その女性の目当てはほぼすべて、ポテンシャルが高い未来のエリートである生徒たちである。女性たちの目的は、ただの推しを愛でるファンのようなモノから、目の保養目的のモノ。果ては未来の旦那様候補として、青田買いをしておこうという算段が透けて見える計算高いモノまで。それはそれは熱心な視線が、校内のあちこちに注がれていた。
そのため、校内は浮ついた空気が充満しており、そこかしこで黄色い声援が響いている。普段は野郎ばかりの男子校にはない華やいだ雰囲気の中で、いつ何が起きてもおかしくはなかった。
明人は、運営の人間として何かトラブルが起きたと聞いては仲間たちと共に火消しに躍起になっていた。本当なら黄色い声援の中に身を置きたくて仕方なかったが、今日までは気を引き締めて事に当たると誓ったので、そこはぐっと心を鬼にしていた。
(それもこれも、全ては明日になるまでだ……。)
今日と云う運命の日を無事に終えた暁には、明人にはルート分岐とは関係ない輝かしい未来が待っているのだ。そうなれば、いくらでも黄色い声援の中に己が身を置くことが出来る。今後は黄色い声援に浸り続けながら生きていくことが可能なのだ。
(明日になれば……。)
明人はそう心の中で唱え続けながら、今日の業務を着実にこなし続けていた。
そんな未来への決意の固い明人とは違うが、運営に当たっている生徒会執行部の仲間たちも自らの責任をしっかりと認識して、運営本部で忙しく立ち働いていた。
ただその忙しい運営本部も、厳しいだけの空気で溢れているかというと、そこは少し違っていた。
校内には滅多に来校しない女子がわんさかいるというのに、この運営本部は男子だけで盛り上がっていた。学園一のポテンシャルを誇る男たちが揃っている場であるというのに、その中心にいるのは主人公・鈴木ハルトである。
女性たちの垂涎の的になりうる男たちが揃いも揃っているのだが、当の本人たちは女子に見向きもせずただ一人の主人公・鈴木ハルトを追い求めていた。
明人は一人で、そんな方々で恋の蕾が膨らみつつある本部の中で、別世界のような空気を纏い冷徹に運営委員の仕事をこなしていた。
「……あ、あんなの、聞いてないですよぉ……。」
どうやらいつの間にか道明寺レイの作品のモデルになっていたことを、鈴木ハルトは先程認識したようだ。その事実に、赤い顔で頻りに照れていて、それを穏やかな瞳で道明寺レイが見つめている。
「すまない。」
「み、みんな見てるんですよ……。」
(何故、事前の見回りの時に気付かないんだ?アイツは……。)
何の興味もない明人ですら、一週間前には鈴木ハルトをモデルにしてレイが作品を作っている事実に気付いていたというのに……。目が節穴としか思えない鈴木ハルトに、明人は呆れて物も言えなかったが、二人の様子を横目で見ながら別の角度からの見解も考察していた。
(……いや、学園祭当日に気付くところが主人公たる所以かもしれないな……。)
先程までは交代で休憩を取っていた時間に南野タケルと一緒に学園祭の出店を回り、食べきれないほどの軽食を抱えていた鈴木ハルト。(あれは、もう食べ終えたのだろうか?)
その前も、慌てて転びそうなところを草薙ジンに間一髪、抱きかかえられて助けられていた。
そんな攻略キャラの中心でへらへらしている鈴木ハルトを見ながら、明人は攻略キャラの一人でありながら何となく完全に他人事として考えていた。
(……結局、コイツは今日、誰を選ぶんだろうな……。)
個別ルートへの分岐点は今日訪れる。
最悪、どのルートへも分岐せず、明人の知らないルートを進んでいく可能性も考えられなくはないが、そうでないのならばこれだけ尽くしている攻略キャラたちの中から誰か一人が選ばれるのだ。
(……まあ、みんなで楽しく暮らしました的な灰色決着とかあってもいいと思うが……。)
そんな連載打ち切りのようなあまりに飛躍した可能性まで、明人は忙しなく立ち働く中で一人考えていた。
10
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい
雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。
延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。
【完結】守銭奴ポーション販売員ですが、イケメン騎士団長に溺愛されてます!?
古井重箱
BL
【あらすじ】 異世界に転生して、俺は守銭奴になった。病気の妹を助けるために、カネが必要だからだ。商都ゲルトシュタットで俺はポーション会社の販売員になった。そして黄金騎士団に営業をかけたところ、イケメン騎士団長に気に入られてしまい━━!? 「俺はノンケですから!」「みんな最初はそう言うらしいよ。大丈夫。怖くない、怖くない」「あんたのその、無駄にポジティブなところが苦手だーっ!」 今日もまた、全力疾走で逃げる俺と、それでも懲りない騎士団長の追いかけっこが繰り広げられる。
【補足】 イケメン×フツメン。スパダリ攻×毒舌受。同性間の婚姻は認められているけれども、男性妊娠はない世界です。アルファポリスとムーンライトノベルズに掲載しています。性描写がある回には*印をつけております。
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
俺はモブのままで良いんです...主人公とか荷が重い
もふもふ
BL
不慮の事故によって異世界転生した俺☆
そこは俺の大好きなBLゲームの世界だった。
俺はモブ(腐男子)だから、攻略者×主人公のイチャイチャを覗き見れるのだ( *¯ ꒳¯*)フフン
あれ...攻略者達に俺狙われてね?しかも、主人公君に俺好かれてるんですけど!?
俺がモテてどうすんだよぉぉおおお!!
☆ちょっとエロ
★ガチエロ
【注】不定期更新です!
やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜
ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。
短編用に登場人物紹介を追加します。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
あらすじ
前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。
20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。
そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。
普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。
そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか??
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。
前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。
文章能力が低いので読みにくかったらすみません。
※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました!
本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!
BLゲーに転生!!やったーーー!しかし......
∞輪廻∞
BL
BLゲーの悪役に転生した!!!よっしゃーーーー!!!やったーーー!! けど、、なんで、、、
ヒロイン含めてなんで攻略対象達から俺、好かれてるんだ?!?
ヒロイン!!
通常ルートに戻れ!!!
ちゃんとヒロインもヒロイン(?)しろーー!!!
攻略対象も!
ヒロインに行っとけ!!!
俺は、観セ(ゴホッ!!ゴホッ!ゴホゴホッ!!
俺はエロのスチルを見てグフグフ言うのが好きなんだよぉーー!!!( ̄^ ̄゜)
誰かーーー!!へるぷみぃー!!!
この、悪役令息
無自覚・天然!!
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる