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第五章 戦慄の学園祭、到来!!④

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     四

 本部運営用の生徒会室には、引っ切り無しに生徒が訪れている。
 外部の人間を招待する学園祭だけあって規模がやたらとでかい。ただでさえ、このBL学園は全寮制のエリート男子校で、こんな機会でもなければおいそれと敷地に入ることすらできないので、滅多にない機会を逃すまいと近隣だけでなく遠方からも客が押し寄せていた。
 もちろんその中にはたくさんの女性たちも含まれており、生徒の肉親以外の女性も数多く来校していた。その女性の目当てはほぼすべて、ポテンシャルが高い未来のエリートである生徒たちである。女性たちの目的は、ただの推しを愛でるファンのようなモノから、目の保養目的のモノ。果ては未来の旦那様候補として、青田買いをしておこうという算段が透けて見える計算高いモノまで。それはそれは熱心な視線が、校内のあちこちに注がれていた。
 そのため、校内は浮ついた空気が充満しており、そこかしこで黄色い声援が響いている。普段は野郎ばかりの男子校にはない華やいだ雰囲気の中で、いつ何が起きてもおかしくはなかった。
 明人は、運営の人間として何かトラブルが起きたと聞いては仲間たちと共に火消しに躍起になっていた。本当なら黄色い声援の中に身を置きたくて仕方なかったが、今日までは気を引き締めて事に当たると誓ったので、そこはぐっと心を鬼にしていた。
(それもこれも、全ては明日になるまでだ……。)
 今日と云う運命の日を無事に終えた暁には、明人にはルート分岐とは関係ない輝かしい未来が待っているのだ。そうなれば、いくらでも黄色い声援の中に己が身を置くことが出来る。今後は黄色い声援に浸り続けながら生きていくことが可能なのだ。
(明日になれば……。)
 明人はそう心の中で唱え続けながら、今日の業務を着実にこなし続けていた。
 そんな未来への決意の固い明人とは違うが、運営に当たっている生徒会執行部の仲間たちも自らの責任をしっかりと認識して、運営本部で忙しく立ち働いていた。
 ただその忙しい運営本部も、厳しいだけの空気で溢れているかというと、そこは少し違っていた。
 校内には滅多に来校しない女子がわんさかいるというのに、この運営本部は男子だけで盛り上がっていた。学園一のポテンシャルを誇る男たちが揃っている場であるというのに、その中心にいるのは主人公・鈴木ハルトである。
 女性たちの垂涎の的になりうる男たちが揃いも揃っているのだが、当の本人たちは女子に見向きもせずただ一人の主人公・鈴木ハルトを追い求めていた。
 明人は一人で、そんな方々で恋の蕾が膨らみつつある本部の中で、別世界のような空気を纏い冷徹に運営委員の仕事をこなしていた。
「……あ、あんなの、聞いてないですよぉ……。」
 どうやらいつの間にか道明寺レイの作品のモデルになっていたことを、鈴木ハルトは先程認識したようだ。その事実に、赤い顔で頻りに照れていて、それを穏やかな瞳で道明寺レイが見つめている。
「すまない。」
「み、みんな見てるんですよ……。」
(何故、事前の見回りの時に気付かないんだ?アイツは……。)
 何の興味もない明人ですら、一週間前には鈴木ハルトをモデルにしてレイが作品を作っている事実に気付いていたというのに……。目が節穴としか思えない鈴木ハルトに、明人は呆れて物も言えなかったが、二人の様子を横目で見ながら別の角度からの見解も考察していた。
(……いや、学園祭当日に気付くところが主人公たる所以かもしれないな……。)
 先程までは交代で休憩を取っていた時間に南野タケルと一緒に学園祭の出店を回り、食べきれないほどの軽食を抱えていた鈴木ハルト。(あれは、もう食べ終えたのだろうか?)
 その前も、慌てて転びそうなところを草薙ジンに間一髪、抱きかかえられて助けられていた。
 そんな攻略キャラの中心でへらへらしている鈴木ハルトを見ながら、明人は攻略キャラの一人でありながら何となく完全に他人事として考えていた。
(……結局、コイツは今日、誰を選ぶんだろうな……。)
 個別ルートへの分岐点は今日訪れる。
 最悪、どのルートへも分岐せず、明人の知らないルートを進んでいく可能性も考えられなくはないが、そうでないのならばこれだけ尽くしている攻略キャラたちの中から誰か一人が選ばれるのだ。
(……まあ、みんなで楽しく暮らしました的な灰色決着とかあってもいいと思うが……。)
 そんな連載打ち切りのようなあまりに飛躍した可能性まで、明人は忙しなく立ち働く中で一人考えていた。

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