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第五章 戦慄の学園祭、到来!!②

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     二

 ようやく学園祭の準備が終わったのは、学園祭の前日の陽もとっぷりと暮れてからであった。
 他の生徒会メンバーは既に寮に戻り、生徒会室内には会長のスオウと副会長の明人だけが残っていた。
 学園祭準備以外の仕事はまだ残っているが、明日は学園祭だ。さすがに明日を控えて、これ以上の仕事をする気にはなれず、二人とも久しぶりにゆっくりとした時間を感じていた。
「……忙しかったな……。」
「誰も死ななかったのは幸いだ。」
「洒落にならねぇよ、シュウ。」
「ふんっ。」
 明日の学園祭に向けて準備万端の校舎内には、生徒はもう明人とスオウの二人しか残っていないだろう。
 何だかすぐに帰る気にはなれず、二人とも感慨深げに窓から校舎を眺めていた。
「……もうじき生徒会も終わりか……。」
「まだ引き継ぎ業務が残っている。しばらく忙しいままだ。」
「シュウ。俺が言いたいのは、そういうことじゃないんだが……。」
「分かっている。俺は事実を言っただけだ。」
 穏やかな口調で会話をするスオウと明人。
 明人の眼鏡の奥の瞳からも、スオウは言葉とは裏腹の感慨深さを受け取ったようで、そっと微笑んだ。
「まあ、さすがにここまで忙しいのはもう勘弁だな。」
「……そうだな。」
 明人はその一言に精一杯の素直な感情を乗せた。
 普段は余裕綽々に見えている明人の心からの思いが伝わったようで、スオウも笑う。
「ははは。」
「ふっ。」
 スオウの笑い声に合わせて、明人も控えめに笑った。
 室内は二人分の笑い声で和やかな空気に包まれる。
 そんな和やかな雰囲気のまま、穏やかな微笑みでスオウは別の話題を持ち出した。
「なあ、シュウ。まだアイツのことは認められないか?」
 アイツというのは、ゲームの主人公・鈴木ハルトのことだろう。
 既に、明日は学園祭という状況ならば、明人的にはそこまで毛嫌いする必要もない。いや元々嫌ってはいないのだ。ただ望まぬBL展開を避けるために、鈴木ハルトという存在を避けていたに過ぎない。明日になり、鈴木ハルトが幸せになるために水嶋シュウ以外の誰かのルートへと一歩踏み出した後ならば、明人は避ける必要もなくなる。
 なので、明人は鈴木ハルトに対する態度を今後は緩和させていくための布石として、不自然にならないように少しだけ今までとは違う見解をスオウに対して答えることにした。
「……まあ、まだまだ足りないところだらけだが、学園祭が無事に終われば少しは認めてやってもいい。」
 今迄とは違う水嶋シュウとしては色よいともいえる返事に、スオウが少し驚いたように眉を上げる。
「おっ?どうした?少しはアイツを見直したのか?」
「……そういうわけではないが……。」
 さすがに、ルート分岐の心配がなくなるからなどという理由は口に出来ないので、明人は少し考えながら適切な言葉を探りつつ続けた。
「……学園祭が終われば、俺たち三年はお役御免だろう?いつまでも居座るわけにはいかない以上、後輩に任せることも必要だ。……いくら頼りなくてもな。」
「そっか。」
 可愛い後輩への態度が軟化した水嶋シュウに満足し、スオウは朗らかに笑っていた。
 明人は涼しい表情を浮かべながらも、明日の学園祭を何事もなく乗り切るべく、改めて気を引き締めたのだった。
 
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