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第四章 小動物vs鬼畜⑥

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     六

 どれだけそうしていただろう。
 日差しの色が変わり始め、角度が西に傾き始めた頃、明人は差し込む陽の眩しさに気付き、目を顰めた。
 裏庭は静かで環境も良く、かなり集中して作業が捗ったため、身体中が凝り固まっていた。
 軽く立ち上がり伸びをすると、メガネを外して目頭を揉む。
(……そろそろ生徒会室に戻っても大丈夫だろう。)
 そのまま来た道を戻ろうとして、ふと明人は自分の腹に手を当てた。
(……少し腹が減ったな……。)
 書類仕事がメインとはいえ、成長期の男子高校生が忙しく働けば自ずと腹は減って来る。
(……購買でも寄るか……。)
 夕食前に何か小腹を満たす物を求めて、明人は進行方向を購買へと変更する。
 そのまま裏庭を通り過ぎようと歩き始めた時、別の方角からその声は聞こえた。
「うわぁぁぁぁ!」
 静かな裏庭に響く大きな声。
 何かあったのかと声の元へと即座に向かう。
 生徒会執行部であり、学園祭準備の責任を預かる者として、何か事故があっては良くない。何かしらのアクシデントならば、すぐに対処しなくては。明人はそう気を引き締めた。
 だが、声の発生元に到着する直前、嫌な予感が脳を掠めていく。
(……さっきの声……。)
 上がった声の大きさに意識を持って行かれ、責任ある者として緊急の対処の必要性ばかりに気をとられていたが、聞こえてきた声の響きに聞き覚えがあったような気がして、明人の足は急に重くなった。
 何より、先程の声以降、何も聞こえては来ない。
 ということは、緊急事態というほどでもないのかもしれない。
(……ちょっと、一旦、落ち着いて考えてみよう。)
 明人は足を止め、自分の心を落ち着けた。
 そして、先程聞こえてきた声を自分の記憶の中でリピートしてみる。
『うわぁぁぁぁ!』
 もう一度。
『うわぁぁぁぁ!』
(……うん。)
 明人はこの件の対処には、必要以上に注意を払わなければならないことを感じていた。
(……鈴木ハルトの声だな、あれは。)
 即座に何の策もなく手ぶらで向かってはいけない事態であることを理解した明人は、とりあえず深呼吸して気を落ち着けた。
(危ない危ない。よく気づいた、俺。)
 無意識で感じた危険信号に、自分のセンサーを褒めてあげたくなった。
(……とりあえず、どうしよう?)
 本当は無視して帰りたかったが、ここで無視した挙句、事故が起きるのは避けたい。あの主人公・鈴木ハルトというのは実に厄介な男で、あらゆるトラブルを招きよせる星の下に生まれてきている哀れなヤツなのだ。
 明人がゲームの隅から隅までを理解しているのならば、あれが何かの切っ掛けなのかどうかの判断は簡単だが、残念ながらそうではない。素人より少しだけ知っている程度だ。そんなモノ、素人とさほど変わらない。
 例えばだが、何かに主人公・鈴木ハルトが巻き込まれ、何かしらの不幸なエンドに見舞われたとしたら、この世界はどうなるのだろうか?
 急に明人はそんなことが気になって仕方なくなった。
 もしも、この世界が主人公・鈴木ハルトのために存在していたら、鈴木ハルトがいなくなった後、世界はどうなってしまうのだろう……?
(……怖っ!?)
 何かよくない思考の方向に進んでしまいそうで、慌てて明人は脳内を切り替える。
(と、とりあえず、そっと様子を窺ってみて、大丈夫そうなら帰る。たぶん、そのうち誰か助けに来るだろ?主人公だし、……知らんけど。)
 無理矢理脳内に能天気さを足して、明人は慎重に声の発生源へと向かうことにした。

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