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第四章 小動物vs鬼畜②

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 最悪の顔合わせから一週間。
 明人は徹底的に主人公・鈴木ハルトを無視し続け、代わりにもう一人の新メンバーである南野タケルの指導に心血を注いでいた。
 南野タケルは確かに調子に乗りやすい陽キャタイプではあるが、寡黙で冷静な明人の前では本来の陽キャさを放出し続けるわけにもいかず、真面目に仕事に取り組む姿勢を見せていた。もしも、指導係がスオウだったならば、二人で騒ぎ仕事にならなかったかもしれないと考えると、本来は鈴木ハルトを避けるための選択だったが、結果的に生徒会のためにもなり一石二鳥であった。
 スオウの方は鈴木ハルトにどんな指導をしているかは分からないが、今のところ大きな問題は起こしていないようだった。もちろん、小さな問題はいくつも起こしているので、その度に騒がしくて仕方ないのだが……。
(……本当に巻き込まれ体質というか、ただのトラブルメイカーだな、アイツ。厄介事に好かれる星の下に生まれているんだな、きっと。でなければ、主人公になれないんだ、多分。)
 主人公というのは何かしら事件に巻き込まれていないと話が進まないし、展開がドラマティックにならない。その上、全てを自分で解決できれば、攻略キャラの手を借りる必要もなくなる。結局、傍迷惑な上に、他人の助けなしにはいられない哀れな存在に規定されがちになるのも仕方のないことなのかもしれない。
(……大変な運命を背負っているんだな、知らんけど。)
 徹底的に他人事として処理して、明人は主人公の哀れな運命に巻き込まれないために、一定以上の距離を取って拒絶&無視をしていた。その態度は人としてどうなのか?という次元ではあったが、それもこれも学園祭までであるし、何より鬼畜メガネがやることなので、あまり周りも口を出しづらそうだった。
 眼鏡を光らせ、黙っていれば、余程の度胸がない限り話しかけようとも思わない。そんな他人を寄せ付けない水嶋シュウの雰囲気は、この場合、酷く役立っていた。
 それでも、たまに水嶋シュウ相手でも臆せず話しかけてくる者もいる。
 水嶋シュウを親友と呼んでしまうくらいには肝が据わった藤原スオウは、鈴木ハルトを毛嫌いしてそのことを隠そうともしない明人の態度に疑問を持ったようだった。
「なあ、何でシュウはアイツにあんな態度なんだ?」
 新メンバーが先に帰り、二人きりになった生徒会室でスオウが率直に尋ねてくる。
 スオウの場合は、その態度を責めるでもなく、何の衒いもなく、ただ純粋に親友の水嶋シュウに理由を聞きたいのだということが分かる、そんな口調である。こういうところが、スオウの清々しくて付き合いやすいところであった。
 なので、明人も素直に応える。
「アイツは厄介事しか持ち込まない。面倒だ。」
 あまり褒められない態度を取っている自覚はあるが、理由がちゃんとあることをしっかりと宣言する。
 そもそも水嶋シュウという男が周囲と仲良しこよしで生きてきたわけではないことをスオウは理解しているので、納得はできないが理解はする。
「そうか。」
 でも、残念さは滲ませるスオウ。きっと、鈴木ハルトという人間の魅力が伝わっていないことが残念なのだろう。スオウは基本的にすごくいいヤツだし、世界に対して愛が溢れているヤツだった。
「アイツは悪いヤツじゃないぞ?まあ、確かに色々やらかすことも多いが。」
 色々とやらかしたことを思い出し、スオウが軽く笑っている。
 明人だって攻略キャラでなければ鈴木ハルトに何か思うことなどない。ただでさえ忙しい生徒会の仕事を増やしがちなことは多少気に入らないが、人間として嫌っているわけではない。ただ、BL展開が無理なだけだ。不用意に近づいて、イベントを起こされたくないだけだ。今後、一生フラグが立たないのなら、態度を改めることも吝かではない。もちろん学園祭までは絶対に無理だが……。
 明人がそんなルート分岐条件のことを考えていることなどスオウは知らない。スオウとしてはあまり無理強いするのではなく、生徒会の仲間として自然にもう少しソフトな関係になって欲しいと願っているのだ。
 明人にはそれも分かったので、スオウ相手に噛みつくことはしなかった。
 代わりに、別のことを尋ねることにした。
「アイツの指導係は不満か?」
 言葉の意味としては、アイツをどう思う的な意味もふんだんに盛り込んだ。
 スオウは少し目を見開いた後、優しい顔で笑った。
「面白ぇぞ。俺は。」
(おっ?……どうやら、気に入られているようだぞ、主人公よ。)
 スオウの好感度は順調に上がっているようで、明人はしめしめと安堵した。
 そして、まだ蕾のままの気持ちを抱えているかのような親友の背中を押すように、水嶋シュウ独特の言い回しで口を開くことにした。
「だったらお前が優しくしてやれ。俺は御免蒙る。」
「ははは、何だよ、そりゃ。」
 二人きりの生徒会室の室内には、スオウの快活な笑い声が響いたのだった。

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