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第三章 運命のイタズラ⑨

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     九

 それから学園祭の準備が始まると、明人の日常は普段に輪をかけて忙しくなっていった。
 学園祭の準備に校内を東奔西走しながら、出来る限り危機を察知して未然に防ぐ。
 水嶋シュウというスペックをフルに使い、明人は常人なら成し得ないほどの有能さで生徒会としての業務と、ゲーム世界の攻略を同時に成し遂げていた。
 それでなくても、前回のイベント時の強烈な水嶋シュウのインパクトのせいなのかは分からないが、あれから一向に主人公・鈴木ハルトが接触してくる気配はなくなった。
 向こうが近づきたくないのなら、こちらも全力で近づかない努力をするだけだ。そうすれば、いずれ学園祭となり、明人の未来にもBL以外の選択肢が齎され、主人公・鈴木ハルトにも別の誰かとの甘く幸せな生活が訪れることだろう。
 時折、他の攻略キャラ達から変わった編入生の話題が出されることはあるが、それも心穏やかに聞くことが出来るくらいには、明人の日常から主人公の痕跡は消されていった。
 だが、それでも明人は油断することはせず、少しでも主人公の影がちらつく場所には他の攻略キャラを率先して送り込むという努力は続けていた。
(……今日も平和だな。)
 生徒会業務に忙殺されながらではあるが、BL展開のない日常に満足感を覚える明人。
 一度イベントを経験したせいで、何もない日常の尊さというものを明人は前よりも強く感じるようになった。ただでさえBL展開を望んでいないというのに、その上あれほどの厄介事に巻き込まれなくてはならないのなら、もう二度とイベントなど起きて欲しくない。
 右から左へ書類を処理しながら、主人公やゲームの展開に煩わされない日常を明人は満喫していた。
「おい、シュウ。ステージの使用許可の書類ってどこだ?」
「お前の目の前にあるのが見えないか?」
「おっ!本当だ。悪ぃ悪ぃ。」
 今日もスオウは一人で騒がしくしているが、清々しいほど澄み渡った明人の心中は穏やかに凪いでいて、スオウが騒いだ程度のことでは波風一つ立たなかった。
 書類に向かっていたスオウが、ふと顔を上げて尋ねてくる。
「そういや、高槻が今日来るって言ってなかったか?」
「そうだな。」
 高槻というのは、生徒会顧問をしている高槻リュウトという教師だ。
 高槻はもちろん優秀で有能な教師で、まだ若くアラサーでありながら既に出世街道まっしぐらの男である。そのうち学園などをはるかに飛び出して、政府の要職に就くのも時間の問題と言われている。ただ優秀有能であるのだが少々クセがある男で、清濁併せのむというが一筋縄ではいかない男でもあった。ちなみに、ゲームの中ではサブ攻略キャラという立ち位置で、ゲームを一度クリアした後の周回プレイでしかルートは用意されず、エンディングを迎えるためには、まず大前提としてゲームクリアが必須条件になるキャラクターである。こういうキャラは大体、物語の根幹に関わってくるため、そういう条件が課されていると言えた。
(……高槻か……。確か、姉ちゃんの腐女子仲間に高槻推しがいるとか何とか言ってたな……。)
 高槻はメインではなくサブキャラであるため、販売されるグッズの量がメインに比べると少ないとか何とかぼやいているとかいないとか、そんなどうでもいい情報を高槻の名前を聞いて明人はついでに思い出した。
 基本的に生徒会は生徒自治の精神の元、教師陣や学校経営者連中からの外圧を撥ね退けて運営されているために、顧問とは名ばかりで生徒会室に来ることも稀だが、たまに用事がある時だけやってくる。高槻はそんな顧問であった。
 大方、新しく手伝いにやって来る一年メンバーでも引き連れてやって来るに違いない。
 時期的なことも考え、明人はそう勝手に推測していた。
 新しいメンバーというのは本人の意志と周囲からの推薦で決まり、問題を起こさない限りはすげ替えられることはない。通年、学年の中でも優秀で志の高い人間が選ばれるものだった。
「そろそろ一年も来る頃だしな……。」
 スオウも高槻の来訪に対して明人と同じ予想をしているらしく、まだ見ぬ一年メンバーを夢想しているようだった。
「そうだな。使える奴でないと困る。」
 そんな話題をしていると、生徒会室に続々と他のメンバーも集まってくる。
 学園祭や部活動などで忙しいだろうに、今日は招集が掛けられているため二年の二人は集合時間よりも前に、しっかりと生徒会室へとやってきた。
 まず時間よりも前に来ることはないスオウが業務の関係で先に室内にいるため、顧問の高槻が指定した時刻よりも大分前には生徒会メンバーが全員室内に揃っていた。
「レイにジンも、部活はいいのか?」
「はい。大丈夫です。」
「今日の招集は、新しい一年生のメンバーのことですか?」
 二年生の二人も去年の今頃生徒会に加入したため、粗方の予想はついているらしい。
 二学期になり業務が更に忙しくなって手が足りずに困りきっている生徒会室の室内では、新しくやって来る一年生メンバーへの期待が膨らみ続けていた。
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