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第三章 運命のイタズラ⑦

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     七

 しばらく予期せぬイベント発生のショックから立ち直れなかった明人だったが、膨大な仕事と時間はそんな明人を待ってはくれない。
 入り口付近の惨状が目に入ってはそのままにしておくことも出来ず、まだショックの残る身体を引き摺りながらも明人は律儀に片づけ始めた。
(……くそっ、結局荷物をそのままにしてくなら、イベントを起こさずに逃げろよ、主人公。こっちは望んでないんだよ……。)
 散らばる書類をかき集め、心の中で悪態をつく。
 どうせ最後に逃げ出すなら、最初から逃げ出して欲しかった。そのくらい、水嶋シュウの威圧感は半端なかったはずだ。
(……いや、逆か?威圧感があり過ぎて、足が動かなかったのか?)
 水嶋シュウというキャラクターが周囲に与える影響というものは、自分自身である明人にはなかなか客観視しづらいものである。
 今後のこともあるので、明人には今すぐ一人反省会をする必要があった。
 今一度、持っている情報を精査し、記憶をかき集め、二度と同じ失敗を繰り返さぬようにしなければ、安心して学園生活が送れない。今回は何が良くなかったのか?改善点を洗い出し、イベント発生などという未来に影を落としかねない事態を二度と引き起こさぬようにしなければ……。
 明人は書類を片づけながら、フルスピードで脳内を回転させ始めた。
 考え事の片手間であったが、怯えた主人公・鈴木ハルトとは段違いのスピードで散らかった室内を整えていく明人。
 冷めてしまったコーヒーを淹れ直した頃には、反省会を終えて今後への決意を新たにしていた。
 まず、最重要事項として今後は主人公・鈴木ハルトという存在に絶対に関わらないようにする。
 ただ会わないように明人側が避けているだけでは、イベントが自らの足で歩いてくる危険性があることが今回のことではっきりしたので、もうなりふり構ってはいられない。誰に何と思われようとも、あからさまに避けてやることにする。今日だって、ぶちまけた荷物の脇を通って「片づけておけよ」と言って、冷静に部屋から出ていけば少なくともイベントは起きなかったのだ。しばらくどこかで時間を潰した後、部屋に戻れば事なきを得ていたはずだ。あれほど怯えていなければ、鈴木ハルトでももう一つの荷物の下敷きになることはないだろうから、帰って来た明人が事故現場に遭遇することもなく、荷物は片づけられていたはずだ。
 あからさまに主人公を避けるという状況が、どれだけ非道に見えても、非礼でも、そもそも水嶋シュウはドSで鬼畜なのだから構わない。他人の評価など、今更主人公にすげなくしたところで変わるものでもない。好感度は無いに等しい男。それが水嶋シュウなのだ。
 徹底的に主人公を避ける以外にも、明人には決意したことがある。それは、もっと積極的に他の攻略キャラ達に機会を提供して、好感度をバシバシ上げてもらうことだ。
 いくら水嶋シュウのイベントがうっかり一つ成功してしまったところで、他の攻略キャラ達との仲が盤石ならば、わざわざ厳しい道に主人公もやって来ないだろう。他の優しい男たちに丁重に扱ってもらえばいいのだ。水嶋シュウがうっかり入る隙もないくらい、他の攻略キャラとくっつけてしまえば、青春を謳歌する者たちには関係ない者に割くような時間は存在しないはずだ。青春とはとかく忙しいものだからだ。
 想えば明人は今まで、スオウと主人公とのカップリングに少しこだわっていた節があったかもしれない。今までのやり方では、スオウや主人公に気を遣っていたばかりに、あまりにも生ぬるかったのだ。今後は攻略キャラの誰でもいいから、もっと積極的に派遣することで、万が一にでも水嶋シュウに接触する時間を失くしてしまうよう努めることが最優先であると思われる。その中で誰を選ぶかなど、勝手に主人公に決めてもらえばいいのだ。
(よしっ!この方針で行こう。)
 コーヒーを飲みながら、明人は自分の結論に頷く。
 コーヒーを飲み終わる頃、ようやく明人は立ち直りに成功していた。
 そんな室内に騒がしい足音が廊下から響き始める。
(……ようやくお出ましか……。)
 明人は口の端をぐっと持ち上げて皮肉げに微笑んだ。
 まずは、全ての元凶である荷物を片づけなかった男に怒りの鉄槌を食らわさなくては気が済まない。
 そして、明人はまだ収まらない怒りを八つ当たりするため標的を定めたのだった。
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