24 / 57
第三章 運命のイタズラ⑦
しおりを挟む
七
しばらく予期せぬイベント発生のショックから立ち直れなかった明人だったが、膨大な仕事と時間はそんな明人を待ってはくれない。
入り口付近の惨状が目に入ってはそのままにしておくことも出来ず、まだショックの残る身体を引き摺りながらも明人は律儀に片づけ始めた。
(……くそっ、結局荷物をそのままにしてくなら、イベントを起こさずに逃げろよ、主人公。こっちは望んでないんだよ……。)
散らばる書類をかき集め、心の中で悪態をつく。
どうせ最後に逃げ出すなら、最初から逃げ出して欲しかった。そのくらい、水嶋シュウの威圧感は半端なかったはずだ。
(……いや、逆か?威圧感があり過ぎて、足が動かなかったのか?)
水嶋シュウというキャラクターが周囲に与える影響というものは、自分自身である明人にはなかなか客観視しづらいものである。
今後のこともあるので、明人には今すぐ一人反省会をする必要があった。
今一度、持っている情報を精査し、記憶をかき集め、二度と同じ失敗を繰り返さぬようにしなければ、安心して学園生活が送れない。今回は何が良くなかったのか?改善点を洗い出し、イベント発生などという未来に影を落としかねない事態を二度と引き起こさぬようにしなければ……。
明人は書類を片づけながら、フルスピードで脳内を回転させ始めた。
考え事の片手間であったが、怯えた主人公・鈴木ハルトとは段違いのスピードで散らかった室内を整えていく明人。
冷めてしまったコーヒーを淹れ直した頃には、反省会を終えて今後への決意を新たにしていた。
まず、最重要事項として今後は主人公・鈴木ハルトという存在に絶対に関わらないようにする。
ただ会わないように明人側が避けているだけでは、イベントが自らの足で歩いてくる危険性があることが今回のことではっきりしたので、もうなりふり構ってはいられない。誰に何と思われようとも、あからさまに避けてやることにする。今日だって、ぶちまけた荷物の脇を通って「片づけておけよ」と言って、冷静に部屋から出ていけば少なくともイベントは起きなかったのだ。しばらくどこかで時間を潰した後、部屋に戻れば事なきを得ていたはずだ。あれほど怯えていなければ、鈴木ハルトでももう一つの荷物の下敷きになることはないだろうから、帰って来た明人が事故現場に遭遇することもなく、荷物は片づけられていたはずだ。
あからさまに主人公を避けるという状況が、どれだけ非道に見えても、非礼でも、そもそも水嶋シュウはドSで鬼畜なのだから構わない。他人の評価など、今更主人公にすげなくしたところで変わるものでもない。好感度は無いに等しい男。それが水嶋シュウなのだ。
徹底的に主人公を避ける以外にも、明人には決意したことがある。それは、もっと積極的に他の攻略キャラ達に機会を提供して、好感度をバシバシ上げてもらうことだ。
いくら水嶋シュウのイベントがうっかり一つ成功してしまったところで、他の攻略キャラ達との仲が盤石ならば、わざわざ厳しい道に主人公もやって来ないだろう。他の優しい男たちに丁重に扱ってもらえばいいのだ。水嶋シュウがうっかり入る隙もないくらい、他の攻略キャラとくっつけてしまえば、青春を謳歌する者たちには関係ない者に割くような時間は存在しないはずだ。青春とはとかく忙しいものだからだ。
想えば明人は今まで、スオウと主人公とのカップリングに少しこだわっていた節があったかもしれない。今までのやり方では、スオウや主人公に気を遣っていたばかりに、あまりにも生ぬるかったのだ。今後は攻略キャラの誰でもいいから、もっと積極的に派遣することで、万が一にでも水嶋シュウに接触する時間を失くしてしまうよう努めることが最優先であると思われる。その中で誰を選ぶかなど、勝手に主人公に決めてもらえばいいのだ。
(よしっ!この方針で行こう。)
コーヒーを飲みながら、明人は自分の結論に頷く。
コーヒーを飲み終わる頃、ようやく明人は立ち直りに成功していた。
そんな室内に騒がしい足音が廊下から響き始める。
(……ようやくお出ましか……。)
明人は口の端をぐっと持ち上げて皮肉げに微笑んだ。
まずは、全ての元凶である荷物を片づけなかった男に怒りの鉄槌を食らわさなくては気が済まない。
そして、明人はまだ収まらない怒りを八つ当たりするため標的を定めたのだった。
しばらく予期せぬイベント発生のショックから立ち直れなかった明人だったが、膨大な仕事と時間はそんな明人を待ってはくれない。
入り口付近の惨状が目に入ってはそのままにしておくことも出来ず、まだショックの残る身体を引き摺りながらも明人は律儀に片づけ始めた。
(……くそっ、結局荷物をそのままにしてくなら、イベントを起こさずに逃げろよ、主人公。こっちは望んでないんだよ……。)
散らばる書類をかき集め、心の中で悪態をつく。
どうせ最後に逃げ出すなら、最初から逃げ出して欲しかった。そのくらい、水嶋シュウの威圧感は半端なかったはずだ。
(……いや、逆か?威圧感があり過ぎて、足が動かなかったのか?)
水嶋シュウというキャラクターが周囲に与える影響というものは、自分自身である明人にはなかなか客観視しづらいものである。
今後のこともあるので、明人には今すぐ一人反省会をする必要があった。
今一度、持っている情報を精査し、記憶をかき集め、二度と同じ失敗を繰り返さぬようにしなければ、安心して学園生活が送れない。今回は何が良くなかったのか?改善点を洗い出し、イベント発生などという未来に影を落としかねない事態を二度と引き起こさぬようにしなければ……。
明人は書類を片づけながら、フルスピードで脳内を回転させ始めた。
考え事の片手間であったが、怯えた主人公・鈴木ハルトとは段違いのスピードで散らかった室内を整えていく明人。
冷めてしまったコーヒーを淹れ直した頃には、反省会を終えて今後への決意を新たにしていた。
まず、最重要事項として今後は主人公・鈴木ハルトという存在に絶対に関わらないようにする。
ただ会わないように明人側が避けているだけでは、イベントが自らの足で歩いてくる危険性があることが今回のことではっきりしたので、もうなりふり構ってはいられない。誰に何と思われようとも、あからさまに避けてやることにする。今日だって、ぶちまけた荷物の脇を通って「片づけておけよ」と言って、冷静に部屋から出ていけば少なくともイベントは起きなかったのだ。しばらくどこかで時間を潰した後、部屋に戻れば事なきを得ていたはずだ。あれほど怯えていなければ、鈴木ハルトでももう一つの荷物の下敷きになることはないだろうから、帰って来た明人が事故現場に遭遇することもなく、荷物は片づけられていたはずだ。
あからさまに主人公を避けるという状況が、どれだけ非道に見えても、非礼でも、そもそも水嶋シュウはドSで鬼畜なのだから構わない。他人の評価など、今更主人公にすげなくしたところで変わるものでもない。好感度は無いに等しい男。それが水嶋シュウなのだ。
徹底的に主人公を避ける以外にも、明人には決意したことがある。それは、もっと積極的に他の攻略キャラ達に機会を提供して、好感度をバシバシ上げてもらうことだ。
いくら水嶋シュウのイベントがうっかり一つ成功してしまったところで、他の攻略キャラ達との仲が盤石ならば、わざわざ厳しい道に主人公もやって来ないだろう。他の優しい男たちに丁重に扱ってもらえばいいのだ。水嶋シュウがうっかり入る隙もないくらい、他の攻略キャラとくっつけてしまえば、青春を謳歌する者たちには関係ない者に割くような時間は存在しないはずだ。青春とはとかく忙しいものだからだ。
想えば明人は今まで、スオウと主人公とのカップリングに少しこだわっていた節があったかもしれない。今までのやり方では、スオウや主人公に気を遣っていたばかりに、あまりにも生ぬるかったのだ。今後は攻略キャラの誰でもいいから、もっと積極的に派遣することで、万が一にでも水嶋シュウに接触する時間を失くしてしまうよう努めることが最優先であると思われる。その中で誰を選ぶかなど、勝手に主人公に決めてもらえばいいのだ。
(よしっ!この方針で行こう。)
コーヒーを飲みながら、明人は自分の結論に頷く。
コーヒーを飲み終わる頃、ようやく明人は立ち直りに成功していた。
そんな室内に騒がしい足音が廊下から響き始める。
(……ようやくお出ましか……。)
明人は口の端をぐっと持ち上げて皮肉げに微笑んだ。
まずは、全ての元凶である荷物を片づけなかった男に怒りの鉄槌を食らわさなくては気が済まない。
そして、明人はまだ収まらない怒りを八つ当たりするため標的を定めたのだった。
12
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説

なんでも諦めてきた俺だけどヤンデレな彼が貴族の男娼になるなんて黙っていられない
迷路を跳ぶ狐
BL
自己中な無表情と言われて、恋人と別れたクレッジは冒険者としてぼんやりした毎日を送っていた。
恋愛なんて辛いこと、もうしたくなかった。大体のことはなんでも諦めてのんびりした毎日を送っていたのに、また好きな人ができてしまう。
しかし、告白しようと思っていた大事な日に、知り合いの貴族から、その人が男娼になることを聞いたクレッジは、そんなの黙って見ていられないと止めに急ぐが、好きな人はなんだか様子がおかしくて……。

過食症の僕なんかが異世界に行ったって……
おがとま
BL
過食症の受け「春」は自身の醜さに苦しんでいた。そこに強い光が差し込み異世界に…?!
ではなく、神様の私欲の巻き添えをくらい、雑に異世界に飛ばされてしまった。まあそこでなんやかんやあって攻め「ギル」に出会う。ギルは街1番の鍛冶屋、真面目で筋肉ムキムキ。
凸凹な2人がお互いを意識し、尊敬し、愛し合う物語。


イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい
拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。
途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。
他サイトにも投稿しています。

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

ギャルゲー主人公に狙われてます
白兪
BL
前世の記憶がある秋人は、ここが前世に遊んでいたギャルゲームの世界だと気づく。
自分の役割は主人公の親友ポジ
ゲームファンの自分には特等席だと大喜びするが、、、

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる