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第三章 運命のイタズラ③
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三
「だからね、明人。聞いてんの?ここからがいいとこなのよ。いい?シュウ様の最初のイベントはね。」
(……ああー、くっそ。もう少し、先だよ。姉ちゃん、何て言ってたかな?)
ふと蘇った姉との会話。
その瞬間、明人の意思は過去へと引き戻されていた。
自分の未来のためにも、姉との会話の内容を思い出そうと必死な明人。
もちろん、明人が現在いるのはBL学園の生徒会室である。
その明人の前では、涙を堪えながらぶちまけた荷物を必死にかき集める主人公・鈴木ハルトの姿があった。
姉との記憶を思い出そうとするあまり明人は現実が疎かになり、全く気付いていないようだが、現状はあまり良い状態ではないといえた。
親切に忘れ物を届けに来た主人公が、不注意でぶちまけた荷物をかき集めている間、鬼畜で冷酷な副会長が無言で監視し見下ろしている。第三者の目には、そう映りそうな構図が室内では現在進行形で繰り広げられていた。
「……っ。」
せめて涙を流さないように必死で食いしばる主人公・鈴木ハルト。
ふと掠めた残滓を逃すまいと自分の記憶を手繰り寄せるために、荷物をかき集めている主人公に注意を払っていない明人。心ここに非ずと言った様子で本人は考え事に没頭しているだけなのだが、如何せん水嶋シュウの姿ではそんな風には映らない。
自分の水嶋シュウ由来の容姿が、黙っているだけで迫力が増し増しになることすら今の明人は気づいていない。
室内で対峙する二人。
現実に注意を払っていない明人と現実に打ちのめされている主人公・鈴木ハルト。
二人の世界は交わることのない全く違う世界線で繰り広げられていた。
「……。」
髪を掻き毟り、ため息を吐く明人。
(あー、ダメだ。全く思い出せん。)
結局、記憶を取り戻すことが出来なかったために出たため息だったが、荷物をかき集めていた鈴木ハルトには別の響きに聞こえたようで、びくっと身体を震わせた。
「……あ、あのー……。」
果敢にも消え入りそうな声ながら、遅々として進まない片づけについて何かを言わなくてはと感じた鈴木ハルトが口を開く。自分の作業が遅いせいで、副会長がご立腹しているようだから、何か言わねばと思い立ったらしい。
だが、今の今まで過去に囚われていて現実をおざなりにしていた明人は、鈴木ハルトの声で初めて現実に意識を取り戻した。
(ん?コイツ、まだココに居るのか?……っていうか、全然片付いてねえ。)
やはり恐怖に囚われていては作業というのは効率的に進むものではない。特に、恐怖対象に無言で監視されていては進むわけがないのだ。
明人は鈴木ハルトの心中など推し量ることなく、メガネを直しながら水嶋シュウ特有の冷たい声音で告げた。
「いい加減、邪魔をしていないで帰れ。仕事にならん。」
「……な、何でっ!」
その瞬間、鈴木ハルトの心は限界を迎えた。
理不尽ともとれる心無い言葉に怒りを覚え、勢いよく立ち上がり声を荒らげた。
多分、その後には『そんなこと言うんですか!』的な言葉が続くはずだった。
だが、現実には言葉は続かなかった。
驚愕で続けることが出来なかった。
怒りを向けた対象の眼鏡が冷たく煌めいたと思ったら、全身が動かなくなっていたからだ。
「……っ!」
室内は緊迫の様相を呈し始めていた。
「だからね、明人。聞いてんの?ここからがいいとこなのよ。いい?シュウ様の最初のイベントはね。」
(……ああー、くっそ。もう少し、先だよ。姉ちゃん、何て言ってたかな?)
ふと蘇った姉との会話。
その瞬間、明人の意思は過去へと引き戻されていた。
自分の未来のためにも、姉との会話の内容を思い出そうと必死な明人。
もちろん、明人が現在いるのはBL学園の生徒会室である。
その明人の前では、涙を堪えながらぶちまけた荷物を必死にかき集める主人公・鈴木ハルトの姿があった。
姉との記憶を思い出そうとするあまり明人は現実が疎かになり、全く気付いていないようだが、現状はあまり良い状態ではないといえた。
親切に忘れ物を届けに来た主人公が、不注意でぶちまけた荷物をかき集めている間、鬼畜で冷酷な副会長が無言で監視し見下ろしている。第三者の目には、そう映りそうな構図が室内では現在進行形で繰り広げられていた。
「……っ。」
せめて涙を流さないように必死で食いしばる主人公・鈴木ハルト。
ふと掠めた残滓を逃すまいと自分の記憶を手繰り寄せるために、荷物をかき集めている主人公に注意を払っていない明人。心ここに非ずと言った様子で本人は考え事に没頭しているだけなのだが、如何せん水嶋シュウの姿ではそんな風には映らない。
自分の水嶋シュウ由来の容姿が、黙っているだけで迫力が増し増しになることすら今の明人は気づいていない。
室内で対峙する二人。
現実に注意を払っていない明人と現実に打ちのめされている主人公・鈴木ハルト。
二人の世界は交わることのない全く違う世界線で繰り広げられていた。
「……。」
髪を掻き毟り、ため息を吐く明人。
(あー、ダメだ。全く思い出せん。)
結局、記憶を取り戻すことが出来なかったために出たため息だったが、荷物をかき集めていた鈴木ハルトには別の響きに聞こえたようで、びくっと身体を震わせた。
「……あ、あのー……。」
果敢にも消え入りそうな声ながら、遅々として進まない片づけについて何かを言わなくてはと感じた鈴木ハルトが口を開く。自分の作業が遅いせいで、副会長がご立腹しているようだから、何か言わねばと思い立ったらしい。
だが、今の今まで過去に囚われていて現実をおざなりにしていた明人は、鈴木ハルトの声で初めて現実に意識を取り戻した。
(ん?コイツ、まだココに居るのか?……っていうか、全然片付いてねえ。)
やはり恐怖に囚われていては作業というのは効率的に進むものではない。特に、恐怖対象に無言で監視されていては進むわけがないのだ。
明人は鈴木ハルトの心中など推し量ることなく、メガネを直しながら水嶋シュウ特有の冷たい声音で告げた。
「いい加減、邪魔をしていないで帰れ。仕事にならん。」
「……な、何でっ!」
その瞬間、鈴木ハルトの心は限界を迎えた。
理不尽ともとれる心無い言葉に怒りを覚え、勢いよく立ち上がり声を荒らげた。
多分、その後には『そんなこと言うんですか!』的な言葉が続くはずだった。
だが、現実には言葉は続かなかった。
驚愕で続けることが出来なかった。
怒りを向けた対象の眼鏡が冷たく煌めいたと思ったら、全身が動かなくなっていたからだ。
「……っ!」
室内は緊迫の様相を呈し始めていた。
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