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第二章 ついに二学期(ゲーム)スタート!!⑤
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五
「……終わらねぇ。」
生徒会室の室内に響くのは、会長の藤原スオウのぼやきだけだ。
山のように積み上げられた仕事を前に、他の三人のメンバーはぼやくこともせずにただ淡々と仕事をこなし続けていた。多分、スオウ以外の三人は終わらないことなどとうの昔に悟っているのだろう。
「……口ではなく手を動かせ。先程からお前の前の書類が減っていない。」
「いや、減ってないっつうか、増えてんだよ。隣から回されてくんだよ。ベルトコンベアーかっつうの。」
スオウがぼやきたくなる気持ちは分かりすぎるほど分かる。明人だって、水嶋シュウでさえなければスオウに共感し、賛同し、書類の束など燃やしてしまえなどと言ってしまいたい。だが、明人が水嶋シュウであることは明人にはどうにもできない現実だ。
転生してからこの数か月。何度も明人は身の丈に合わないキャラを変えようと試みてみたが、何故かは分からないが、明人の試行錯誤はすべて失敗に終わった。何だかよく分からないのだが、キャラにない言動をしようとすると、途端に言葉が出なくなったり身体が動かなくなったりするという怪奇現象に見舞われていた。一度、水嶋シュウに課せられた義務の多さに自棄になって立ちションしようとした時も、通りかかるカワイイ女子の集団を勢いでナンパしようとした時も、突然身体が動かなくなったり、言葉が出ずに立ち尽くすことになった。
今のところ、あまりにキャラとかけ離れた行動をしようとした時に起きる現象であるため、そこは明人も諦めた。そして、現在は水嶋シュウとして最低限のルールは守った方がいいらしいという境地に至っていた。
なので、水嶋シュウのキャラ設定上、眼の前の仕事を簡単に放り出すことなど出来ないことは痛いほど理解できている明人は、ぼやく代わりに片眉を上げた。
「ベルトコンベアーならば、お前の所で作業が止まっている。修理しろ。」
「……修理って、どうすんだよ?改造でもするか?」
「人体改造か……、それもいいな。まずは、その無駄にうるさい口を縫いつければ静かになる。」
「……それは遠慮する。」
スオウも明人も会話を続けながらでも作業のスピードは全く落ちていない。二人ともぼやきながら、器用に猛スピードで作業を続けていた。それくらいできなければ、生徒会メンバーは務まらないのである。
この数か月の水嶋シュウ生活で少しずつ身に着けた減らず口のような毒舌で、仕事の多さをぼやく親友を慰める気持ちで叱咤する明人。
そんな二人のやり取りはいつものことであるため、後輩たち二人はそれにいちいち取り合わずに自分の仕事を続けているのだった。
「副会長。そろそろ閉門時間です。」
ふと顔を上げた草薙ジンが時計を見上げ、律儀に知らせてくる。
同じように明人が時計を見上げると、既に時間は登校完了の十分前である八時二十分を指していた。
「そうだな。」
作業を中断し、明人は立ち上がる。
生徒会の仕事の中には、生徒の規律の指導のために寮から校舎へと繋がる正門を、毎朝登校完了の八時半に閉めるというものもあった。特段の理由もなく、閉門に登校が間に合わなかったものには指導もしなくてはならない。
閉門作業は、生徒会メンバーの間で当番制になっており、新学期一発目の当番は明人であった。
他の事務仕事が山積みで、本当は門など開けておけばいいとしか明人は思わないのだが、水嶋シュウのキャラ設定上行かないという選択肢はない。なので、本当はこの時間を使って仕事を少しでも終わらせておきたい気持ちを抑え、後ろ髪曳かれながらも何とか歩き出す。
だが、一二歩室内を歩いたところで、明人は重大な事実に気付いて立ち止まった。
そして、即座に振り返る。
「スオウ。閉門作業を頼めるか?」
「は?」
突然のご指名に、スオウはきょとんとした表情で明人のことを見つめる。
明人は水嶋シュウとしての怜悧な表情を保ったまま、椅子に座ったままのスオウを見下ろして続けた。
「今日の打ち合わせの資料の不備を思い出した。今日の閉門当番を代わってくれ。」
「……別に、かまわねぇけど?」
理由は何でも良かった。
とにかく、明人は閉門作業をスオウに押しつけることにしたのだった。
「……終わらねぇ。」
生徒会室の室内に響くのは、会長の藤原スオウのぼやきだけだ。
山のように積み上げられた仕事を前に、他の三人のメンバーはぼやくこともせずにただ淡々と仕事をこなし続けていた。多分、スオウ以外の三人は終わらないことなどとうの昔に悟っているのだろう。
「……口ではなく手を動かせ。先程からお前の前の書類が減っていない。」
「いや、減ってないっつうか、増えてんだよ。隣から回されてくんだよ。ベルトコンベアーかっつうの。」
スオウがぼやきたくなる気持ちは分かりすぎるほど分かる。明人だって、水嶋シュウでさえなければスオウに共感し、賛同し、書類の束など燃やしてしまえなどと言ってしまいたい。だが、明人が水嶋シュウであることは明人にはどうにもできない現実だ。
転生してからこの数か月。何度も明人は身の丈に合わないキャラを変えようと試みてみたが、何故かは分からないが、明人の試行錯誤はすべて失敗に終わった。何だかよく分からないのだが、キャラにない言動をしようとすると、途端に言葉が出なくなったり身体が動かなくなったりするという怪奇現象に見舞われていた。一度、水嶋シュウに課せられた義務の多さに自棄になって立ちションしようとした時も、通りかかるカワイイ女子の集団を勢いでナンパしようとした時も、突然身体が動かなくなったり、言葉が出ずに立ち尽くすことになった。
今のところ、あまりにキャラとかけ離れた行動をしようとした時に起きる現象であるため、そこは明人も諦めた。そして、現在は水嶋シュウとして最低限のルールは守った方がいいらしいという境地に至っていた。
なので、水嶋シュウのキャラ設定上、眼の前の仕事を簡単に放り出すことなど出来ないことは痛いほど理解できている明人は、ぼやく代わりに片眉を上げた。
「ベルトコンベアーならば、お前の所で作業が止まっている。修理しろ。」
「……修理って、どうすんだよ?改造でもするか?」
「人体改造か……、それもいいな。まずは、その無駄にうるさい口を縫いつければ静かになる。」
「……それは遠慮する。」
スオウも明人も会話を続けながらでも作業のスピードは全く落ちていない。二人ともぼやきながら、器用に猛スピードで作業を続けていた。それくらいできなければ、生徒会メンバーは務まらないのである。
この数か月の水嶋シュウ生活で少しずつ身に着けた減らず口のような毒舌で、仕事の多さをぼやく親友を慰める気持ちで叱咤する明人。
そんな二人のやり取りはいつものことであるため、後輩たち二人はそれにいちいち取り合わずに自分の仕事を続けているのだった。
「副会長。そろそろ閉門時間です。」
ふと顔を上げた草薙ジンが時計を見上げ、律儀に知らせてくる。
同じように明人が時計を見上げると、既に時間は登校完了の十分前である八時二十分を指していた。
「そうだな。」
作業を中断し、明人は立ち上がる。
生徒会の仕事の中には、生徒の規律の指導のために寮から校舎へと繋がる正門を、毎朝登校完了の八時半に閉めるというものもあった。特段の理由もなく、閉門に登校が間に合わなかったものには指導もしなくてはならない。
閉門作業は、生徒会メンバーの間で当番制になっており、新学期一発目の当番は明人であった。
他の事務仕事が山積みで、本当は門など開けておけばいいとしか明人は思わないのだが、水嶋シュウのキャラ設定上行かないという選択肢はない。なので、本当はこの時間を使って仕事を少しでも終わらせておきたい気持ちを抑え、後ろ髪曳かれながらも何とか歩き出す。
だが、一二歩室内を歩いたところで、明人は重大な事実に気付いて立ち止まった。
そして、即座に振り返る。
「スオウ。閉門作業を頼めるか?」
「は?」
突然のご指名に、スオウはきょとんとした表情で明人のことを見つめる。
明人は水嶋シュウとしての怜悧な表情を保ったまま、椅子に座ったままのスオウを見下ろして続けた。
「今日の打ち合わせの資料の不備を思い出した。今日の閉門当番を代わってくれ。」
「……別に、かまわねぇけど?」
理由は何でも良かった。
とにかく、明人は閉門作業をスオウに押しつけることにしたのだった。
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