13 / 57
第二章 ついに二学期(ゲーム)スタート!!⑤
しおりを挟む
五
「……終わらねぇ。」
生徒会室の室内に響くのは、会長の藤原スオウのぼやきだけだ。
山のように積み上げられた仕事を前に、他の三人のメンバーはぼやくこともせずにただ淡々と仕事をこなし続けていた。多分、スオウ以外の三人は終わらないことなどとうの昔に悟っているのだろう。
「……口ではなく手を動かせ。先程からお前の前の書類が減っていない。」
「いや、減ってないっつうか、増えてんだよ。隣から回されてくんだよ。ベルトコンベアーかっつうの。」
スオウがぼやきたくなる気持ちは分かりすぎるほど分かる。明人だって、水嶋シュウでさえなければスオウに共感し、賛同し、書類の束など燃やしてしまえなどと言ってしまいたい。だが、明人が水嶋シュウであることは明人にはどうにもできない現実だ。
転生してからこの数か月。何度も明人は身の丈に合わないキャラを変えようと試みてみたが、何故かは分からないが、明人の試行錯誤はすべて失敗に終わった。何だかよく分からないのだが、キャラにない言動をしようとすると、途端に言葉が出なくなったり身体が動かなくなったりするという怪奇現象に見舞われていた。一度、水嶋シュウに課せられた義務の多さに自棄になって立ちションしようとした時も、通りかかるカワイイ女子の集団を勢いでナンパしようとした時も、突然身体が動かなくなったり、言葉が出ずに立ち尽くすことになった。
今のところ、あまりにキャラとかけ離れた行動をしようとした時に起きる現象であるため、そこは明人も諦めた。そして、現在は水嶋シュウとして最低限のルールは守った方がいいらしいという境地に至っていた。
なので、水嶋シュウのキャラ設定上、眼の前の仕事を簡単に放り出すことなど出来ないことは痛いほど理解できている明人は、ぼやく代わりに片眉を上げた。
「ベルトコンベアーならば、お前の所で作業が止まっている。修理しろ。」
「……修理って、どうすんだよ?改造でもするか?」
「人体改造か……、それもいいな。まずは、その無駄にうるさい口を縫いつければ静かになる。」
「……それは遠慮する。」
スオウも明人も会話を続けながらでも作業のスピードは全く落ちていない。二人ともぼやきながら、器用に猛スピードで作業を続けていた。それくらいできなければ、生徒会メンバーは務まらないのである。
この数か月の水嶋シュウ生活で少しずつ身に着けた減らず口のような毒舌で、仕事の多さをぼやく親友を慰める気持ちで叱咤する明人。
そんな二人のやり取りはいつものことであるため、後輩たち二人はそれにいちいち取り合わずに自分の仕事を続けているのだった。
「副会長。そろそろ閉門時間です。」
ふと顔を上げた草薙ジンが時計を見上げ、律儀に知らせてくる。
同じように明人が時計を見上げると、既に時間は登校完了の十分前である八時二十分を指していた。
「そうだな。」
作業を中断し、明人は立ち上がる。
生徒会の仕事の中には、生徒の規律の指導のために寮から校舎へと繋がる正門を、毎朝登校完了の八時半に閉めるというものもあった。特段の理由もなく、閉門に登校が間に合わなかったものには指導もしなくてはならない。
閉門作業は、生徒会メンバーの間で当番制になっており、新学期一発目の当番は明人であった。
他の事務仕事が山積みで、本当は門など開けておけばいいとしか明人は思わないのだが、水嶋シュウのキャラ設定上行かないという選択肢はない。なので、本当はこの時間を使って仕事を少しでも終わらせておきたい気持ちを抑え、後ろ髪曳かれながらも何とか歩き出す。
だが、一二歩室内を歩いたところで、明人は重大な事実に気付いて立ち止まった。
そして、即座に振り返る。
「スオウ。閉門作業を頼めるか?」
「は?」
突然のご指名に、スオウはきょとんとした表情で明人のことを見つめる。
明人は水嶋シュウとしての怜悧な表情を保ったまま、椅子に座ったままのスオウを見下ろして続けた。
「今日の打ち合わせの資料の不備を思い出した。今日の閉門当番を代わってくれ。」
「……別に、かまわねぇけど?」
理由は何でも良かった。
とにかく、明人は閉門作業をスオウに押しつけることにしたのだった。
「……終わらねぇ。」
生徒会室の室内に響くのは、会長の藤原スオウのぼやきだけだ。
山のように積み上げられた仕事を前に、他の三人のメンバーはぼやくこともせずにただ淡々と仕事をこなし続けていた。多分、スオウ以外の三人は終わらないことなどとうの昔に悟っているのだろう。
「……口ではなく手を動かせ。先程からお前の前の書類が減っていない。」
「いや、減ってないっつうか、増えてんだよ。隣から回されてくんだよ。ベルトコンベアーかっつうの。」
スオウがぼやきたくなる気持ちは分かりすぎるほど分かる。明人だって、水嶋シュウでさえなければスオウに共感し、賛同し、書類の束など燃やしてしまえなどと言ってしまいたい。だが、明人が水嶋シュウであることは明人にはどうにもできない現実だ。
転生してからこの数か月。何度も明人は身の丈に合わないキャラを変えようと試みてみたが、何故かは分からないが、明人の試行錯誤はすべて失敗に終わった。何だかよく分からないのだが、キャラにない言動をしようとすると、途端に言葉が出なくなったり身体が動かなくなったりするという怪奇現象に見舞われていた。一度、水嶋シュウに課せられた義務の多さに自棄になって立ちションしようとした時も、通りかかるカワイイ女子の集団を勢いでナンパしようとした時も、突然身体が動かなくなったり、言葉が出ずに立ち尽くすことになった。
今のところ、あまりにキャラとかけ離れた行動をしようとした時に起きる現象であるため、そこは明人も諦めた。そして、現在は水嶋シュウとして最低限のルールは守った方がいいらしいという境地に至っていた。
なので、水嶋シュウのキャラ設定上、眼の前の仕事を簡単に放り出すことなど出来ないことは痛いほど理解できている明人は、ぼやく代わりに片眉を上げた。
「ベルトコンベアーならば、お前の所で作業が止まっている。修理しろ。」
「……修理って、どうすんだよ?改造でもするか?」
「人体改造か……、それもいいな。まずは、その無駄にうるさい口を縫いつければ静かになる。」
「……それは遠慮する。」
スオウも明人も会話を続けながらでも作業のスピードは全く落ちていない。二人ともぼやきながら、器用に猛スピードで作業を続けていた。それくらいできなければ、生徒会メンバーは務まらないのである。
この数か月の水嶋シュウ生活で少しずつ身に着けた減らず口のような毒舌で、仕事の多さをぼやく親友を慰める気持ちで叱咤する明人。
そんな二人のやり取りはいつものことであるため、後輩たち二人はそれにいちいち取り合わずに自分の仕事を続けているのだった。
「副会長。そろそろ閉門時間です。」
ふと顔を上げた草薙ジンが時計を見上げ、律儀に知らせてくる。
同じように明人が時計を見上げると、既に時間は登校完了の十分前である八時二十分を指していた。
「そうだな。」
作業を中断し、明人は立ち上がる。
生徒会の仕事の中には、生徒の規律の指導のために寮から校舎へと繋がる正門を、毎朝登校完了の八時半に閉めるというものもあった。特段の理由もなく、閉門に登校が間に合わなかったものには指導もしなくてはならない。
閉門作業は、生徒会メンバーの間で当番制になっており、新学期一発目の当番は明人であった。
他の事務仕事が山積みで、本当は門など開けておけばいいとしか明人は思わないのだが、水嶋シュウのキャラ設定上行かないという選択肢はない。なので、本当はこの時間を使って仕事を少しでも終わらせておきたい気持ちを抑え、後ろ髪曳かれながらも何とか歩き出す。
だが、一二歩室内を歩いたところで、明人は重大な事実に気付いて立ち止まった。
そして、即座に振り返る。
「スオウ。閉門作業を頼めるか?」
「は?」
突然のご指名に、スオウはきょとんとした表情で明人のことを見つめる。
明人は水嶋シュウとしての怜悧な表情を保ったまま、椅子に座ったままのスオウを見下ろして続けた。
「今日の打ち合わせの資料の不備を思い出した。今日の閉門当番を代わってくれ。」
「……別に、かまわねぇけど?」
理由は何でも良かった。
とにかく、明人は閉門作業をスオウに押しつけることにしたのだった。
32
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。
七賀ごふん
BL
【何度失っても、日常は彼と創り出せる。】
──────────
身の回りのものの温度をめちゃくちゃにしてしまう力を持って生まれた白希は、集落の屋敷に閉じ込められて育った。二十歳の誕生日に火事で家を失うが、彼の未来の夫を名乗る美青年、宗一が現れる。
力のコントロールを身につけながら、愛が重い宗一による花嫁修業が始まって……。
※シリアス
溺愛御曹司×世間知らず。現代ファンタジー。
表紙:七賀
バッドエンドの異世界に悪役転生した僕は、全力でハッピーエンドを目指します!
あ
BL
16才の初川終(はつかわ しゅう)は先天性の心臓の病気だった。一縷の望みで、成功率が低い手術に挑む終だったが……。
僕は気付くと両親の泣いている風景を空から眺めていた。それから、遠くで光り輝くなにかにすごい力で引き寄せられて。
目覚めれば、そこは子どもの頃に毎日読んでいた大好きなファンタジー小説の世界だったんだ。でも、僕は呪いの悪役の10才の公爵三男エディに転生しちゃったみたい!
しかも、この世界ってバッドエンドじゃなかったっけ?
バッドエンドをハッピーエンドにする為に、僕は頑張る!
でも、本の世界と少しずつ変わってきた異世界は……ひみつが多くて?
嫌われ悪役の子どもが、愛されに変わる物語。ほのぼの日常が多いです。
◎体格差、年の差カップル
※てんぱる様の表紙をお借りしました。

繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?

皇子ではなく魔塔主の息子だった俺の逃走計画
春暮某乃
BL
ノヴァ•サンセント。
帝国の第二皇子である。今年、15歳の誕生日を迎える年だった。
皇族は15歳になれば、帝国民へ皇族の仲間入りをしたと知らせる大きな宴が開かれる。
しかし、婚外子のノヴァが皇族になることを気に入らない人間が多くいた。
その誕生日会の知らせが皇帝から宣言されたことによりノヴァの周りはさまざまなことが変化していく。
義兄×義弟
実父×息子
⚠️なんでもあり向け。
題名の通りです。
あらすじまた後で書き直します!

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
────────────
※感想、いいね、お気に入り大歓迎です!!
シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん
ムギ・オブ・アレキサンドリア
ファンタジー
お料理や世話焼きおかんなお姫様シャルロット✖️超箱入り?な深窓のイケメン王子様グレース✖️溺愛わんこ系オオカミの精霊クロウ(時々チワワ)の魔法と精霊とグルメファンタジー
プリンが大好きな白ウサギの獣人美少年護衛騎士キャロル、自分のレストランを持つことを夢見る公爵令息ユハなど、[美味しいゴハン]を通してココロが繋がる、ハートウォーミング♫ストーリーです☆
エブリスタでも掲載中
https://estar.jp/novels/25573975

俺の推し♂が路頭に迷っていたので
木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです)
どこにでも居る冴えない男
左江内 巨輝(さえない おおき)は
地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。
しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった…
推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???

王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜
きっせつ
BL
南国の国モアナから同盟国であるレーヴ帝国のミューズ学園に留学してきたラニ。
極々平凡に留学ライフを楽しみ、2年目の春を迎えていた。
留学してきたレーヴ帝国は何故かblゲームの世界線っぽい。だが、特に持って生まれた前世の記憶を生かす事もなく、物語に関わる訳でもなく、モブとして2年目を迎えた筈が…、何故か頭にロバ耳が生えて!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる