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第二章 ついに二学期(ゲーム)スタート!!③

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     三

 まだ始業前の校内は人影もなく、静寂が支配する場所であった。
 そんな校内をきびきびとした足取りで進んでいくのは生徒会副会長・水嶋シュウである明人だ。
(くそっ、よりにもよって新学期から既に仕事が山積みってどういうことだよ!?)
 キャラの設定上、表には出せない感情を心の中で吐き出して、明人は廊下を生徒会室へと向かって進んでいた。
 生徒の模範である生徒会執行部の役員が自ら廊下を走るわけにはいかないため、許される速度ギリギリの速歩きをしているが、廊下を走ることが許されているならいくらでも走っていた。いや、この世界には魔法が存在するため、走るだけでは生ぬるい。風の魔法などを使って、猛スピードで移動していた。だが、校内では許可されていない場所で魔法は禁止であるため、しかたなく歩いていたに過ぎない。
 あまり勤勉ではない生徒なら、まだ寮のベッドで寝ているかもしれない時間に、明人は既に仕事をこなさなくてはならない。全ては生徒会副会長という肩書きの水嶋シュウというキャラ設定のせいであった。
 迅速に移動を完了し、生徒会室の扉へと手を掛ける。
 こんな早くから誰も室内にいるはずもない。
 だが、そう高を括ってノックをすることもなく扉を開けると、早朝の室内には予想に反して既に人影があった。
「……すまない。早いな。」
 ノックをしなかった非礼を詫び、朝の挨拶を言葉少なに終える明人。
 室内の人物は首を振ると、軽く微笑んだ。
「いえ。副会長も早いですね。」
「……まあな。やってもやっても仕事が終わらん。」
「確かに。」
 室内にいたのは生徒会で会計の担当者である二年の草薙ジンだった。
 草薙ジンは落ち着いて物静かな性格で人当たりもいい。剣術部ではエースとして活躍する確かな実力を持ちながら、謙虚で驕ったところがないという質実剛健でありながら柔和さも兼ね備えた男であった。短く切り揃えた艶やかな髪には一糸の乱れもないが、どこまでも自然に流れていく。身だしなみには気を遣っても、華美に飾り立てることはしない。有言実行で責任感が強い、そんな男である。もちろん攻略キャラの一人だ。
「草薙。部活の方はいいのか?」
 生徒会だけでなく部活動の朝練などもあるだろうに、この律儀な男は誰よりも朝早くから生徒会室に来て仕事をしていたのだろう。あんまりに健気なので、明人は老婆心で尋ねた。
 ジンは穏やかに微笑んだまま、静かに頷く。
「はい。大丈夫です。自主練はこなしてきましたから。」
(えっ?朝から?既に?)
 水嶋シュウのキャラ設定が与えられていなければ、今もまだ寝ていたい本来のぐうたら精神を心に宿した明人には信じられない勤勉さで、予想を上回る答えを返してくる草薙ジン。攻略キャラというのは求められる水準があまりにも高く、一般人には到底たどり着けない境地で攻略されるのを待っているものらしい。
 明人は愕然とした。
 だが、そんな素直な反応を表情に出すのは水嶋シュウとしては許されない。なので、表面上は涼しい顔を保っていた。
「そうか。」
 両者とも口数の多い方ではないので、それ以上は大して会話をすることもなく各々の作業に入る。
 すると、室内には静寂が訪れる。
 静かな室内に響くのは、紙のめくれる音や衣擦れの音、それに足音くらいになった。
 最近ようやくかけ慣れてきたメガネを軽く直しながら、事務書類を速いペースで片づけていく明人。水嶋シュウとなってからというもの、作業スピードが段違いになっていた。これも転生チートというヤツだろう。
 それからしばらく二人きりの作業が続いたが、少しの時間の後、事務仕事に勤しむ物静かな二人が作り出す静寂が支配する生徒会室内に、控えめな足音が近づいてくる。
 生徒会室の前で足音が止まると、扉の向こうの人物は控えめなノックの音を室内に響かせた。
「おはようございます。」
 ノックの後、凛と響くが決して騒がしくない声で挨拶をして入室してきたのは、生徒会のもう一人のメンバーである道明寺レイだ。
 道明寺レイは生徒会で書記を担当している男だ。草薙ジンと同じ二年生で、どちらも甲乙つけがたいほど優秀なメンバーだ。道明寺レイは草薙レイとは反対に、華やかな雰囲気の持ち主で華美に着飾る訳ではないのだが、身の裡から湧き出る生来の華やかさで目を引く存在だ。芸術分野に特に造詣が深く、自身の作品も華やかさを持つ。緩やかなウェーブの薄い色の髪を長く伸ばし、緩く括っている。中性的な魅力の持ち主だ。もちろん、こちらも攻略キャラの一人である。
「ああ。」
「おはよう。」
 作業の手を止め、明人もジンも挨拶を返す。
 手短に挨拶を終えると、レイも自分の作業を迅速に始め出す。有能で優秀。その上、無駄のない生徒会メンバーの三人であった。
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