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第一章 誰か夢だと言ってくれ!!!④
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四
「だからね、言ってるでしょ!この冷たい感じがいいの、サイコーなの!分かる?」
「いや、全然。」
「バカなの?アンタ。分かりなさいよ。こんなこと言ってて、実は主人公のハルトのこと気になって仕方がないのよ。そのくせ、優しくなんてしないし、尽くしたりしないの。ハルトが思わず求めちゃうように仕向けてくるのよ、ズルいでしょ?」
(……やっぱり、さっぱり分からないよ、姉ちゃん。)
明人から見れば、水嶋シュウというキャラクターは、ただの嫌なヤツだった。
顔が良くて、頭も良くて、才能もある何だかとても恵まれた男ではあるが、冷酷で人のことを人とも思わない。現実にいたら友達なんて無理だし、絶対に知り合いたくないヤツだ。こんなヤツと仲良くしようなんていう学園の奴らは心が広すぎると、信じられない思いで見つめたものだ。
だというのに、この男にどれだけ意地悪されても、どれだけすげなく扱われても健気に向かっていく主人公は、もはやいいヤツを通り越してただのバカか、もしくはドMなのだと明人はそう確信していた。
だから、そんな水嶋シュウになる日が来ようとは夢にも思っていなかった。
そのため、水嶋シュウになったものの、水嶋シュウの振る舞いや所作が全く分からない。水嶋シュウに共感は出来ないし、水嶋シュウを理解することすら出来そうもないのに、水嶋シュウになるなんて無理だ。演じることだって、役割を担うのだって出来るわけがない。
明人は鏡の前で着たことのないくらい手触りのいいパジャマを着たまま、途方に暮れていた。
ただ、途方に暮れながらも必死に姉の言葉を思い出そうとしていた。
連夜に渡る姉の布教は、明人にとっては全くと言っていいほど興味のない話題だったため右耳から左耳に意味のなさない旋律として通過していくだけだと思っていたが、人間、本気になれば多少は何とかなるものだ。
何が必要かは分からないため、片っ端から姉の言葉を思い出そうと試行錯誤する明人。
「だから、このゲームはね、学園モノなのよ。魔法学園の生徒たちが、将来に思い悩みながらも未来を目指して恋を育むモノなの。男たちの絆なのよ。」
(魔法学園ってことは、これから俺は魔法を使うんだよな……。使えるのか?)
「シュウ様は剣も使えるけど、何より魔法の天才なの。学生の身分でありながら、魔法学の権威なのよ。スゴイでしょ?」
(……いや、俺、テストでいつも平均点ギリギリなんだけど……。大丈夫か?)
浮かんでは消えていく姉の言葉と、それに伴い増えていく不安の数々。
水嶋シュウというキャラに何故転生したのかは分からないが、本来の中田明人と水嶋シュウとの間にはあまりにも大きな人間のポテンシャルの隔たりがあるようで、明人には困惑することしかできなかった。
(剣とか、触ったことないし……。魔法学とか意味分からんし……。えっ?水嶋シュウって、急にキャラ変とかしても大丈夫なの?)
転生した異世界のルールなど分かるはずもない。
明人には頭を抱えるしか術がない。
それでも時間は過ぎていく。
ベッドサイドに置かれた機械から、何かしらアラームのような音が明人を急かすように鳴り響き始める。
(……スマホ的なモノか?)
とりあえず手に取ってみると、確かに明人が触り慣れたスマホに良く似ていた。
ディスプレイに表示されているのは、明人なら学校に行く準備をしなければならなそうな時間のようだった。
(えっ?学校行くの?俺が?)
ディスプレイには『本日の予定・始業式』と書かれ、本日の日付が四月七日であることは明人にも理解できた。
(…一学期?)
スマホのようなモノを握り締めたまま、明人は煩悶していたが、ため息を吐いて立ち上がった。
まだ鳴り響くアラームが、明人の背中を無理矢理押しているようだった。
「だからね、言ってるでしょ!この冷たい感じがいいの、サイコーなの!分かる?」
「いや、全然。」
「バカなの?アンタ。分かりなさいよ。こんなこと言ってて、実は主人公のハルトのこと気になって仕方がないのよ。そのくせ、優しくなんてしないし、尽くしたりしないの。ハルトが思わず求めちゃうように仕向けてくるのよ、ズルいでしょ?」
(……やっぱり、さっぱり分からないよ、姉ちゃん。)
明人から見れば、水嶋シュウというキャラクターは、ただの嫌なヤツだった。
顔が良くて、頭も良くて、才能もある何だかとても恵まれた男ではあるが、冷酷で人のことを人とも思わない。現実にいたら友達なんて無理だし、絶対に知り合いたくないヤツだ。こんなヤツと仲良くしようなんていう学園の奴らは心が広すぎると、信じられない思いで見つめたものだ。
だというのに、この男にどれだけ意地悪されても、どれだけすげなく扱われても健気に向かっていく主人公は、もはやいいヤツを通り越してただのバカか、もしくはドMなのだと明人はそう確信していた。
だから、そんな水嶋シュウになる日が来ようとは夢にも思っていなかった。
そのため、水嶋シュウになったものの、水嶋シュウの振る舞いや所作が全く分からない。水嶋シュウに共感は出来ないし、水嶋シュウを理解することすら出来そうもないのに、水嶋シュウになるなんて無理だ。演じることだって、役割を担うのだって出来るわけがない。
明人は鏡の前で着たことのないくらい手触りのいいパジャマを着たまま、途方に暮れていた。
ただ、途方に暮れながらも必死に姉の言葉を思い出そうとしていた。
連夜に渡る姉の布教は、明人にとっては全くと言っていいほど興味のない話題だったため右耳から左耳に意味のなさない旋律として通過していくだけだと思っていたが、人間、本気になれば多少は何とかなるものだ。
何が必要かは分からないため、片っ端から姉の言葉を思い出そうと試行錯誤する明人。
「だから、このゲームはね、学園モノなのよ。魔法学園の生徒たちが、将来に思い悩みながらも未来を目指して恋を育むモノなの。男たちの絆なのよ。」
(魔法学園ってことは、これから俺は魔法を使うんだよな……。使えるのか?)
「シュウ様は剣も使えるけど、何より魔法の天才なの。学生の身分でありながら、魔法学の権威なのよ。スゴイでしょ?」
(……いや、俺、テストでいつも平均点ギリギリなんだけど……。大丈夫か?)
浮かんでは消えていく姉の言葉と、それに伴い増えていく不安の数々。
水嶋シュウというキャラに何故転生したのかは分からないが、本来の中田明人と水嶋シュウとの間にはあまりにも大きな人間のポテンシャルの隔たりがあるようで、明人には困惑することしかできなかった。
(剣とか、触ったことないし……。魔法学とか意味分からんし……。えっ?水嶋シュウって、急にキャラ変とかしても大丈夫なの?)
転生した異世界のルールなど分かるはずもない。
明人には頭を抱えるしか術がない。
それでも時間は過ぎていく。
ベッドサイドに置かれた機械から、何かしらアラームのような音が明人を急かすように鳴り響き始める。
(……スマホ的なモノか?)
とりあえず手に取ってみると、確かに明人が触り慣れたスマホに良く似ていた。
ディスプレイに表示されているのは、明人なら学校に行く準備をしなければならなそうな時間のようだった。
(えっ?学校行くの?俺が?)
ディスプレイには『本日の予定・始業式』と書かれ、本日の日付が四月七日であることは明人にも理解できた。
(…一学期?)
スマホのようなモノを握り締めたまま、明人は煩悶していたが、ため息を吐いて立ち上がった。
まだ鳴り響くアラームが、明人の背中を無理矢理押しているようだった。
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