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第一章 誰か夢だと言ってくれ!!!①
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第一章 誰か夢だと言ってくれ!!!
一
中田明人は、いつも通り目が覚めた。
いや、いつも通り目が覚めたはずだった。
「……ふわぁ。……ん?」
伸びをして、欠伸をして、すぐに違和感に襲われる。
(……何だ?何か変か?)
ただ、その違和感の正体が分からずに、首を傾げる。
目をこすり、もう一度目を開ける。
そこで、ようやく気付いたことが一つ。
(……何か、良く見えないな。)
視界がぼやけて上手く像を結ばない。視界の全てで輪郭がぼんやりとしていて、全体的な印象が分からないとまでは言えないが、このままでは日常生活に多少の支障が出そうだ。
(……メガネ、作った方がいいのか?)
ここ最近、夜毎、姉に付き合ってゲーム画面を見つめていたせいで視力が落ちてきたのだろうか。一時的な眼精疲労の症状ならいいが、そうでないのならメガネかコンタクトの使用を考えた方がいいかも知れない。
(とりあえず、まずは眼科に行った方がいいよな?……いや、いい加減、姉ちゃんに付き合うのを止めればいいんだよな、絶対。)
そう思ってはいるし、別に付き合いたくて付き合っているわけではないのだが、弟というのは非常に難しい立場で、自分が思ったところでままならないことが多々あるのが日常茶飯事である。なので、何を思っても何を願っても姉に付き合わねばならぬ日課がなくなるとは思えない。
軽くため息を吐いて、頭を掻く。
「まあ、どうにもならないな、多分。」
弟として生きてきた十七年の年月で姉という生物の対処法を学習した明人は、早々に諦めた。弟にとって姉というのは絶対君主であり、逆らったところで革命が起きることなどあり得ないのだ。ならば、大人しくやり過ごすことこそ賢明であり、無駄に反抗するなど時間の無駄である。いくら反抗期から完全に足抜けしていない年頃であっても、そのくらいは理解出来る。
今夜も姉の布教が繰り広げられることを受け入れる覚悟を決めて、中田明人はベッドから立ち上がる。
「ん?」
だが、立ち上がった途端に、更なる違和感を覚えた。
(……何か、いつもより視点が高い気がする。)
普段見慣れた景色よりも高くなった気がする視界に、明人の疑惑は深まっていく。いくら視界がぼんやりとしていても、視界の変化は感じられたし、何より立ち上がった時の身体の感覚が違う気がする。
(……急に背でも伸びたのか?)
背は高いに越したことはないと、クラスの中で平均値を上回ったことのない明人は思っていた。背が高いという理由だけで、女子へのアピールポイントが増えるのは、やはり今の時代も変わらない。いくら多様性を叫んだところで、多数決をすれば背は低いよりも高い方が利点となりうるのだ。
成長期としては終わり頃となる高校生でも、ぐんと身長が伸びる人間は少なくない。
成長は少年にとっては歓迎できる変化である。
明人は朝から少しだけ心が沸き立つのを感じていた。背が伸びたのであれば、視力が落ちたことなど些末な問題でしかない。
明人はぼんやりとした視界ながら、生まれ変わったような気持ちで、成長した気がする四肢を眺めて微笑んだ。
そして、長く伸びた気がする四肢を動かしてみる。
すると、腕がベッドサイドにあった何かに当たった。
腕が当たった拍子に、下に何かが落ちそうになり、勘を頼りに慌てて受け止める。
タイミングよくキャッチすることに成功したそれは、見覚えのないモノだった。
(……姉ちゃんのか?)
硬質な感触のそれは、近づけて確認するとメガネだった。
ノンフレームのデザインは、かけた者の怜悧さと冷酷さを感じさせそうだ。
(……まるで、あのキャラみたいだ。)
連夜に渡る姉による布教のせいで記憶にこびり付いてしまった姉の推しキャラのことを思い出し、明人は自嘲気味に笑った。
まあ姉の推しグッズの一つなのかもしれないし、どうして自分の部屋に紛れ込んだのかは分からないが今は有り難かった。度が合うかは分からないが、現状のぼんやりとした裸眼よりは幾分かマシだろう。姉に見つかる前に返さなければ、絶望に満ちた未来が訪れることは明白だが、今だけ内緒で借りるなら問題ないだろう。
明人はわくわくした気持ちで、昨日より成長した自分の姿を確認するためにメガネをかけることにした。
一
中田明人は、いつも通り目が覚めた。
いや、いつも通り目が覚めたはずだった。
「……ふわぁ。……ん?」
伸びをして、欠伸をして、すぐに違和感に襲われる。
(……何だ?何か変か?)
ただ、その違和感の正体が分からずに、首を傾げる。
目をこすり、もう一度目を開ける。
そこで、ようやく気付いたことが一つ。
(……何か、良く見えないな。)
視界がぼやけて上手く像を結ばない。視界の全てで輪郭がぼんやりとしていて、全体的な印象が分からないとまでは言えないが、このままでは日常生活に多少の支障が出そうだ。
(……メガネ、作った方がいいのか?)
ここ最近、夜毎、姉に付き合ってゲーム画面を見つめていたせいで視力が落ちてきたのだろうか。一時的な眼精疲労の症状ならいいが、そうでないのならメガネかコンタクトの使用を考えた方がいいかも知れない。
(とりあえず、まずは眼科に行った方がいいよな?……いや、いい加減、姉ちゃんに付き合うのを止めればいいんだよな、絶対。)
そう思ってはいるし、別に付き合いたくて付き合っているわけではないのだが、弟というのは非常に難しい立場で、自分が思ったところでままならないことが多々あるのが日常茶飯事である。なので、何を思っても何を願っても姉に付き合わねばならぬ日課がなくなるとは思えない。
軽くため息を吐いて、頭を掻く。
「まあ、どうにもならないな、多分。」
弟として生きてきた十七年の年月で姉という生物の対処法を学習した明人は、早々に諦めた。弟にとって姉というのは絶対君主であり、逆らったところで革命が起きることなどあり得ないのだ。ならば、大人しくやり過ごすことこそ賢明であり、無駄に反抗するなど時間の無駄である。いくら反抗期から完全に足抜けしていない年頃であっても、そのくらいは理解出来る。
今夜も姉の布教が繰り広げられることを受け入れる覚悟を決めて、中田明人はベッドから立ち上がる。
「ん?」
だが、立ち上がった途端に、更なる違和感を覚えた。
(……何か、いつもより視点が高い気がする。)
普段見慣れた景色よりも高くなった気がする視界に、明人の疑惑は深まっていく。いくら視界がぼんやりとしていても、視界の変化は感じられたし、何より立ち上がった時の身体の感覚が違う気がする。
(……急に背でも伸びたのか?)
背は高いに越したことはないと、クラスの中で平均値を上回ったことのない明人は思っていた。背が高いという理由だけで、女子へのアピールポイントが増えるのは、やはり今の時代も変わらない。いくら多様性を叫んだところで、多数決をすれば背は低いよりも高い方が利点となりうるのだ。
成長期としては終わり頃となる高校生でも、ぐんと身長が伸びる人間は少なくない。
成長は少年にとっては歓迎できる変化である。
明人は朝から少しだけ心が沸き立つのを感じていた。背が伸びたのであれば、視力が落ちたことなど些末な問題でしかない。
明人はぼんやりとした視界ながら、生まれ変わったような気持ちで、成長した気がする四肢を眺めて微笑んだ。
そして、長く伸びた気がする四肢を動かしてみる。
すると、腕がベッドサイドにあった何かに当たった。
腕が当たった拍子に、下に何かが落ちそうになり、勘を頼りに慌てて受け止める。
タイミングよくキャッチすることに成功したそれは、見覚えのないモノだった。
(……姉ちゃんのか?)
硬質な感触のそれは、近づけて確認するとメガネだった。
ノンフレームのデザインは、かけた者の怜悧さと冷酷さを感じさせそうだ。
(……まるで、あのキャラみたいだ。)
連夜に渡る姉による布教のせいで記憶にこびり付いてしまった姉の推しキャラのことを思い出し、明人は自嘲気味に笑った。
まあ姉の推しグッズの一つなのかもしれないし、どうして自分の部屋に紛れ込んだのかは分からないが今は有り難かった。度が合うかは分からないが、現状のぼんやりとした裸眼よりは幾分かマシだろう。姉に見つかる前に返さなければ、絶望に満ちた未来が訪れることは明白だが、今だけ内緒で借りるなら問題ないだろう。
明人はわくわくした気持ちで、昨日より成長した自分の姿を確認するためにメガネをかけることにした。
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