ざまぁされたはずの悪役令嬢が戻ってきた!?  しかも、今度は復讐のため、溺愛ルートを目指すようです。 ~えっ、ちょ

夢追子

文字の大きさ
上 下
20 / 79

19 ミハイル・アイゼンバッハ,6

しおりを挟む
      十九

「リリィはどうなった?修道院に無事に追放したか?」
 主の質問に、ミハイルは言葉を選びながら首を振った。
「いえ。発見はしましたが、修道院に送り届けてはいません。道中アクシデントに見舞われたため、王都へとその身柄を連行してきました。」
「?」
 ミハイルの報告に、王子は不服そうに片眉を上げた。
 主の要求に完璧に応えられてはいない現状を理解しているミハイルは、それでも叱責覚悟で報告を続ける。
「道中、どうやら刺客に襲われ、怪我をしたようで、今、手当をさせています。」
「ふんっ。そんなものどうせあの女の自作自演だろう。」
 ミハイルの報告を遮ると、王子は鼻を鳴らして不服を訴える。
 主の気持ちも理解できるのでミハイルは心苦しかったが、それでも主とは異なる見解の報告を上げる。
「道中だけではなく、修道院の中にまで刺客は複数潜んでおりました。部下が捕らえております。ですので、刺客に襲われた件は間違いないかと。」
「あの女が恨みを買うのが悪い。自業自得だ。」
 同情する様子は一切見せない王子の態度に、ミハイルは共感する。
(……あの女は、それほどのことをしてきたのだ。)
 ただ、ミハイルは共感しても、同意するわけにはいかなかった。
「血を流しながら、リリィ・マクラクランは何でもするから修道院には送らないでくれと頭を下げて頼み込んできました。どういたしますか?」
 ミハイルの報告の内容に、王子は懐疑的な視線を向ける。
「あの女が?頼みこむだと?何を言っている、ミハイル?」
 王子の疑問は尤もである。ミハイルとて、この目で見ていなければ部下がそう報告してきたとして俄かには信じられなかっただろう。あの、リリィ・マクラクランが、である。
 だから、ミハイルは言葉を尽くして補足の説明をする。
「この目で見ました。地面に無様に転び、そのまま頭を下げ、『助けてください。』と頼み込まれ、その上、『修道院に送らないでくれ。』と。更に、『ありがとうございます。』とも、です。」
 自分で言っていても、先程のリリィの様子は信じられないのだ。特に、礼を言った時の表情など、危うくミハイルはリリィという女が『怪我をしたか弱い女性』だと錯覚しそうになったほどだ。なので、王子があり得ないと断定するように肩を竦めるのも理解できた。
「どうした?ミハイル。まさか、あの女の色香に騙されたとでもいうのか?あの女だぞ?」
「いえ、そのようなことはないと思います。必要ならば、部下にも報告させましょう。信じられないこととは思いますが……、いえ、私も自分で見たはずだというのに、本気で信じられるかというと疑問が残るくらいです。ですが、本当に、あの女は殊勝な態度で我々に頼み込んできたのです。」
「……、人に物を頼むことなど、生まれてこの方したことないはずだぞ、あの女は。」
 ミハイルの報告に王子は疑義を挟むが、王子が疑っているのは報告の内容であって、ミハイルの忠誠ではない。そのため、ここまでミハイルが言い募るには何かわけがあるのだと、報告の内容を一考することも忘れない。
「我が身の破滅を感じて、何か思うところでもあったのか?……それとも、何かの策なのか?」
 王子が考え始めたため、ミハイルは自分の意見を進言することにする。
「とりあえず、怪我が治るまでは猶予期間として、その間にリリィ・マクラクランの真意を探り、企みを看破するのがよろしいかと思います。……それに、その間に刺客の洗い出しも進めたいと思います。」
「それは、必要か?」
 王子は酷く冷淡な瞳で、ミハイルの言葉を遮った。
 ミハイルは自分の騎士道精神に恥じぬために、主へと自分の思うところを述べた。
「確かに、リリィ・マクラクランを何者かの手で処分してしまえば、後顧の憂いは断たれるかもしれません。ですが、どれだけ悪逆非道の行いをした者でも、悪に対して悪でもって対処することは得策とは言えません。殿下には、公明正大で日の当たる道を歩いていただきたいのです。」
 忠誠心に溢れたミハイルの言葉に、王子はしぶしぶ頷いた。
「そなたは本当に真っ直ぐな男であるな。分かった。」
 ミハイルは懐の深い主の姿勢に微笑む。
「はい。」
 そして、変わらぬ忠誠を捧げるために提案する。
「リリィ・マクラクランの監視は、私にお任せください。近衛騎士団長として責任を持って、今後のこの国の未来に翳りを落とすことのないよう、少しでも妙な動きをすればその時こそこの手で成敗して見せます。」
「いいだろう。お前に任せる。」
 全幅の信頼を置く腹心に、王子は頷いて見せる。
 ミハイルは主の期待に添うべく、決意を新たにする。
(あの女にどのような思惑があるにせよ、監視の目を緩めねばいいことだ。)
「……確か、あの女は何でもすると言ったのだったな?」
 王子が少し考え込みながら、ミハイルに尋ねてくる。
 ミハイルは頷く。
「はい、私にはっきりとそう言いました。」
「よかろう。ならば、あの女の言葉通りにしようではないか。」
 そう言った王子の顔には暗い笑みが浮かんでいた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果

富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。 そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。 死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね

猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」 広間に高らかに響く声。 私の婚約者であり、この国の王子である。 「そうですか」 「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」 「… … …」 「よって、婚約は破棄だ!」 私は、周りを見渡す。 私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。 「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」 私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。 なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。

【4話完結】聖女に陥れられ婚約破棄・国外追放となりましたので出て行きます~そして私はほくそ笑む

リオール
恋愛
言いがかりともとれる事で王太子から婚約破棄・国外追放を言い渡された公爵令嬢。 悔しさを胸に立ち去ろうとした令嬢に聖女が言葉をかけるのだった。 そのとんでもない発言に、ショックを受ける公爵令嬢。 果たして最後にほくそ笑むのは誰なのか── ※全4話

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

地味令嬢を馬鹿にした婚約者が、私の正体を知って土下座してきました

くも
恋愛
 王都の社交界で、ひとつの事件が起こった。  貴族令嬢たちが集う華やかな夜会の最中、私――セシリア・エヴァンストンは、婚約者であるエドワード・グラハム侯爵に、皆の前で婚約破棄を告げられたのだ。 「セシリア、お前との婚約は破棄する。お前のような地味でつまらない女と結婚するのはごめんだ」  会場がざわめく。貴族たちは興味深そうにこちらを見ていた。私が普段から控えめな性格だったせいか、同情する者は少ない。むしろ、面白がっている者ばかりだった。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

処理中です...