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8 高橋由里,8

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     八

「何で、私が貴女の身体に?」
 思わず疑問が口をついて出る。
 ようやく話が出来そうな雰囲気になり、声はため息を吐くのをやめると、話を切り替えた。
《とりあえず、その話は道々するとして……。今はここを離れることにしましょう。》
「へ?」
《ここが何処だかは私にも分かりません。ですから、日が高いうちに少しでも街に戻った方がいいでしょう?日が落ちれば、森の中には危険な獣が出ますけれど、貴女はそれでもいいの?》
「良くないです!」
《私もそう思うわ。》
 この世界に来て、初めて由里と声の主リリィの意見が一致した。
 さまざまな問題はあるが、由里はとりあえず全ての問題を保留にして棚上げすると、リリィの話を聞くことにする。命の危険の前には、全てのことは些事である。
《由里。地面を確認してくださるかしら?馬車の轍の跡があると思うのですけど?》
 リリィの指示通り、素直に由里は地面を確認する。
 すると、地面にはリリィの言葉通り、馬車の車輪が通ったような跡があった。
 もちろん、他にも何か血の跡があったが、そちらは今重要ではないのだろう。
《どちらに向かっているかしら?その跡を辿れそう?》
「はい。やってみます。」
 二人は危機を前に、協力態勢に入る。
 由里は地面を確認するために視線を下に向けながら、森の中をおっかなびっくり進み始める。
 だが、進み始めたところで、視線の先に妙なモノを見つけて、一度立ち止まった。
 それは、どこかで見たことのあるピンク色であった。
《どうしたんですの?》
 由里の突然の行動に、リリィが疑問を投げかけてくる。
 由里は地面に屈むと、そのモノを手に取った。
「……これ。」
 持ち上げて確認すると、それはやはり由里の記憶の中のモノと合致する。
 ピンクの表紙にキラキラの文字で『愛され女子になる方法』と書かれたその本は、由里が先程までいた結婚式場の休憩室で親友の紗枝に渡された物と同じであった。
《何ですの?それ。何て書いてありますの?》
「元の世界で見たものと同じです。……こっちの世界のモノじゃないんですか?」
《こんな森の中に?何を書いてあるのかも私には読めませんわ。》
 リリィの言葉を信じるなら、この本は由里と一緒にこちらの世界に来たことになるのではないか?こんな本ではあるが何か意味があるような気がして、由里はその本を持っていくことにした。ぱらぱらと中身をめくってみた後、両手で抱える。
「行きましょう。」
 本の感触はあまりに現実的で、由里が全て夢だったらと思いたい気持ちを打ち消すようであったが、それでも一緒にこの世界に来たのだという心強さは感じさせてくれた。
《それで?結局、何が書いてありますの?》
「うーん。何かアドバイスみたいな?そんな本です。」
 果たしてこの世界には自己啓発本や恋愛指南書などが存在するのだろうか?
 由里はそんなことも分からなかったので、リリィの疑問に対して上手く説明できなくて誤魔化すように笑うしかなかった。

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