9 / 40
8 高橋由里,8
しおりを挟む
八
「何で、私が貴女の身体に?」
思わず疑問が口をついて出る。
ようやく話が出来そうな雰囲気になり、声はため息を吐くのをやめると、話を切り替えた。
《とりあえず、その話は道々するとして……。今はここを離れることにしましょう。》
「へ?」
《ここが何処だかは私にも分かりません。ですから、日が高いうちに少しでも街に戻った方がいいでしょう?日が落ちれば、森の中には危険な獣が出ますけれど、貴女はそれでもいいの?》
「良くないです!」
《私もそう思うわ。》
この世界に来て、初めて由里と声の主リリィの意見が一致した。
さまざまな問題はあるが、由里はとりあえず全ての問題を保留にして棚上げすると、リリィの話を聞くことにする。命の危険の前には、全てのことは些事である。
《由里。地面を確認してくださるかしら?馬車の轍の跡があると思うのですけど?》
リリィの指示通り、素直に由里は地面を確認する。
すると、地面にはリリィの言葉通り、馬車の車輪が通ったような跡があった。
もちろん、他にも何か血の跡があったが、そちらは今重要ではないのだろう。
《どちらに向かっているかしら?その跡を辿れそう?》
「はい。やってみます。」
二人は危機を前に、協力態勢に入る。
由里は地面を確認するために視線を下に向けながら、森の中をおっかなびっくり進み始める。
だが、進み始めたところで、視線の先に妙なモノを見つけて、一度立ち止まった。
それは、どこかで見たことのあるピンク色であった。
《どうしたんですの?》
由里の突然の行動に、リリィが疑問を投げかけてくる。
由里は地面に屈むと、そのモノを手に取った。
「……これ。」
持ち上げて確認すると、それはやはり由里の記憶の中のモノと合致する。
ピンクの表紙にキラキラの文字で『愛され女子になる方法』と書かれたその本は、由里が先程までいた結婚式場の休憩室で親友の紗枝に渡された物と同じであった。
《何ですの?それ。何て書いてありますの?》
「元の世界で見たものと同じです。……こっちの世界のモノじゃないんですか?」
《こんな森の中に?何を書いてあるのかも私には読めませんわ。》
リリィの言葉を信じるなら、この本は由里と一緒にこちらの世界に来たことになるのではないか?こんな本ではあるが何か意味があるような気がして、由里はその本を持っていくことにした。ぱらぱらと中身をめくってみた後、両手で抱える。
「行きましょう。」
本の感触はあまりに現実的で、由里が全て夢だったらと思いたい気持ちを打ち消すようであったが、それでも一緒にこの世界に来たのだという心強さは感じさせてくれた。
《それで?結局、何が書いてありますの?》
「うーん。何かアドバイスみたいな?そんな本です。」
果たしてこの世界には自己啓発本や恋愛指南書などが存在するのだろうか?
由里はそんなことも分からなかったので、リリィの疑問に対して上手く説明できなくて誤魔化すように笑うしかなかった。
「何で、私が貴女の身体に?」
思わず疑問が口をついて出る。
ようやく話が出来そうな雰囲気になり、声はため息を吐くのをやめると、話を切り替えた。
《とりあえず、その話は道々するとして……。今はここを離れることにしましょう。》
「へ?」
《ここが何処だかは私にも分かりません。ですから、日が高いうちに少しでも街に戻った方がいいでしょう?日が落ちれば、森の中には危険な獣が出ますけれど、貴女はそれでもいいの?》
「良くないです!」
《私もそう思うわ。》
この世界に来て、初めて由里と声の主リリィの意見が一致した。
さまざまな問題はあるが、由里はとりあえず全ての問題を保留にして棚上げすると、リリィの話を聞くことにする。命の危険の前には、全てのことは些事である。
《由里。地面を確認してくださるかしら?馬車の轍の跡があると思うのですけど?》
リリィの指示通り、素直に由里は地面を確認する。
すると、地面にはリリィの言葉通り、馬車の車輪が通ったような跡があった。
もちろん、他にも何か血の跡があったが、そちらは今重要ではないのだろう。
《どちらに向かっているかしら?その跡を辿れそう?》
「はい。やってみます。」
二人は危機を前に、協力態勢に入る。
由里は地面を確認するために視線を下に向けながら、森の中をおっかなびっくり進み始める。
だが、進み始めたところで、視線の先に妙なモノを見つけて、一度立ち止まった。
それは、どこかで見たことのあるピンク色であった。
《どうしたんですの?》
由里の突然の行動に、リリィが疑問を投げかけてくる。
由里は地面に屈むと、そのモノを手に取った。
「……これ。」
持ち上げて確認すると、それはやはり由里の記憶の中のモノと合致する。
ピンクの表紙にキラキラの文字で『愛され女子になる方法』と書かれたその本は、由里が先程までいた結婚式場の休憩室で親友の紗枝に渡された物と同じであった。
《何ですの?それ。何て書いてありますの?》
「元の世界で見たものと同じです。……こっちの世界のモノじゃないんですか?」
《こんな森の中に?何を書いてあるのかも私には読めませんわ。》
リリィの言葉を信じるなら、この本は由里と一緒にこちらの世界に来たことになるのではないか?こんな本ではあるが何か意味があるような気がして、由里はその本を持っていくことにした。ぱらぱらと中身をめくってみた後、両手で抱える。
「行きましょう。」
本の感触はあまりに現実的で、由里が全て夢だったらと思いたい気持ちを打ち消すようであったが、それでも一緒にこの世界に来たのだという心強さは感じさせてくれた。
《それで?結局、何が書いてありますの?》
「うーん。何かアドバイスみたいな?そんな本です。」
果たしてこの世界には自己啓発本や恋愛指南書などが存在するのだろうか?
由里はそんなことも分からなかったので、リリィの疑問に対して上手く説明できなくて誤魔化すように笑うしかなかった。
10
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。
紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。
「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」
最愛の娘が冤罪で処刑された。
時を巻き戻し、復讐を誓う家族。
娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。
高慢な王族なんてごめんです! 自分の道は自分で切り開きますからお気遣いなく。
柊
恋愛
よくある断罪に「婚約でしたら、一週間程前にそちらの有責で破棄されている筈ですが……」と返した公爵令嬢ヴィクトワール・シエル。
婚約者「だった」シレンス国の第一王子であるアルベール・コルニアックは困惑するが……。
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。
婚約者様。現在社交界で広まっている噂について、大事なお話があります
柚木ゆず
恋愛
婚約者様へ。
昨夜参加したリーベニア侯爵家主催の夜会で、私に関するとある噂が広まりつつあると知りました。
そちらについて、とても大事なお話がありますので――。これから伺いますね?
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!
仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。
ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。
理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。
ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。
マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。
自室にて、過去の母の言葉を思い出す。
マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を…
しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。
そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。
ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。
マリアは父親に願い出る。
家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが………
この話はフィクションです。
名前等は実際のものとなんら関係はありません。
婚約者を奪われるのは運命ですか?
ぽんぽこ狸
恋愛
転生者であるエリアナは、婚約者のカイルと聖女ベルティーナが仲睦まじげに横並びで座っている様子に表情を硬くしていた。
そしてカイルは、エリアナが今までカイルに指一本触れさせなかったことを引き合いに婚約破棄を申し出てきた。
終始イチャイチャしている彼らを腹立たしく思いながらも、了承できないと伝えると「ヤれない女には意味がない」ときっぱり言われ、エリアナは産まれて十五年寄り添ってきた婚約者を失うことになった。
自身の屋敷に帰ると、転生者であるエリアナをよく思っていない兄に絡まれ、感情のままに荷物を纏めて従者たちと屋敷を出た。
頭の中には「こうなる運命だったのよ」というベルティーナの言葉が反芻される。
そう言われてしまうと、エリアナには”やはり”そうなのかと思ってしまう理由があったのだった。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる