8 / 79
7 高橋由里,7
しおりを挟む
七
「いい加減に姿を見せなさい!!!!」
びしっと、由里の人生史上最大の声量と迫力で他人へ要求を突きつける。
しかし、声は呆れたように溜息を吐くだけだった。
《……まあ、それが出来たらいいのですけれど。それは無理なことですわ。》
やれやれといった様子でため息とともに呆れた声で吐き出した後、声は由里に口を挟ませることなく続けた。
《どうやらまだ気づいてないようですから、説明いたしますけど。貴女は私で、私は貴女なのです。ですから、姿も何も無理ですわ。》
説明すると言いながら、全く理解できない言い分を繰り広げる声。理解できないのだから、説明責任が果たされているとは言い難い。由里は怒りのボルテージを維持したまま、再び声に向き合う。
「全く分からないんだけど?分かるように説明してください!」
《……まったく。いいかしら?由里。》
声の主からすれば分かりやすく説明をしてあげているつもりなのだろう。その上、素直に早く自分の言うことを聞くのが当たり前で、だというのに特別に説明を親切にしてあげているというような心持ちだと表明するかのように、ため息は深くなり声音にはうんざりするような響きが混ざり始めた。
《何て言ったら貴女は理解して下さるのか分かりませんけど……。そうね……。とりあえず耳を塞いでみたらいかがかしら?》
「はあ?」
会話中に耳を塞げなどとどういうつもりなのだ、この相手は。由里は意味不明の言葉に憤慨する。この相手は真面目に由里と会話するつもりもないのだ。
(そっちがその気ならいいわよ!もう絶対会話してやらないんだから!)
憤慨した勢いのまま、由里はきつく耳を塞ぐ。もう二度と、この相手の声を聴かないつもりで。
《聞こえますかしら?私の声。》
だが、由里がどんなに耳を塞いでも、その声はクリアに由里に届いたのだった。
「ど、どういうこと?」
驚いて耳を塞いだまま、怒りを忘れて慌てる由里。
声は慌てる由里に構うことなく続けた。
《聞こえて当然ですわ。私は貴女の頭に直接語りかけているんですから。》
「は?何!?」
《どう言ったら貴女にご理解いただけるかは分かりませんけれど、そうね……。端的に言うと、私は貴女の魂を異界から召喚し、私の身体に降ろしたのです。これで分かっていただけるかしら?》
「あ、貴女の身体?」
声の説明の全ては理解出来なかったが、唯一理解できた部分だけに由里は反応する。
森の中では近くに鏡もなく、全体像は何も確認できないが見える範囲だけでもと由里は今の自分が所有している身体を確かめ始める。
「……、……っ。……うそっ!?……何で!?」
由里が見れば見るほど、その身体は自分のモノであるはずだというのに、全く見覚えのないモノだった。
突然森の中にいたことや知らない傷などに慌てていて全く気付いていなかったが、由里が生まれてこの方見ていたモノとは全く違っていた。
元々黒い髪は金髪になっていて、その上緩いウェーブがかかっている。何より、今日は結婚式用に美容院でハーフアップに結い上げてもらったというのに、どれだけ触ってもハーフアップの跡も無くなっている。というか、髪の肌触りがそもそも違う。よくはねる上に手がかかって仕方なかった髪質が全く異質なものへと変わっていた。
由里から見える手だって違う。すぐに外せるようにとネイルチップを張りつけていたはずの由里の爪は、天然で綺麗に整えられたものになっており、大して自慢できなかった生まれ持っての手は姿かたちも無くなり、手のパーツモデルでもやれそうなほど長く美しい指を持つ白魚のような手へと変化している。
先程まで着ていたのは紺色の膝丈のレンタルドレスだったが、今は何故か肌が全く出ていないロングのワンピースのようなものを着ているし、履いていたはずのヒールも踵のない靴になっている。少し上げて裾から足を確認してみるが、由里のモノよりも長くて細い気がするし、何より肌が全く違う。白くきめ細やかな陶器のような肌は、どれだけ由里が手入れしても手に入れられるはずもなかったものだ。
「……貴女の、身体?」
《そうよ。私、リリィ・マクラクランの身体です。》
リリィ・マクラクラン。そう堂々と宣言する声は、自らの存在に大いなる誇りを持っていると感じさせる響きだった。
「いい加減に姿を見せなさい!!!!」
びしっと、由里の人生史上最大の声量と迫力で他人へ要求を突きつける。
しかし、声は呆れたように溜息を吐くだけだった。
《……まあ、それが出来たらいいのですけれど。それは無理なことですわ。》
やれやれといった様子でため息とともに呆れた声で吐き出した後、声は由里に口を挟ませることなく続けた。
《どうやらまだ気づいてないようですから、説明いたしますけど。貴女は私で、私は貴女なのです。ですから、姿も何も無理ですわ。》
説明すると言いながら、全く理解できない言い分を繰り広げる声。理解できないのだから、説明責任が果たされているとは言い難い。由里は怒りのボルテージを維持したまま、再び声に向き合う。
「全く分からないんだけど?分かるように説明してください!」
《……まったく。いいかしら?由里。》
声の主からすれば分かりやすく説明をしてあげているつもりなのだろう。その上、素直に早く自分の言うことを聞くのが当たり前で、だというのに特別に説明を親切にしてあげているというような心持ちだと表明するかのように、ため息は深くなり声音にはうんざりするような響きが混ざり始めた。
《何て言ったら貴女は理解して下さるのか分かりませんけど……。そうね……。とりあえず耳を塞いでみたらいかがかしら?》
「はあ?」
会話中に耳を塞げなどとどういうつもりなのだ、この相手は。由里は意味不明の言葉に憤慨する。この相手は真面目に由里と会話するつもりもないのだ。
(そっちがその気ならいいわよ!もう絶対会話してやらないんだから!)
憤慨した勢いのまま、由里はきつく耳を塞ぐ。もう二度と、この相手の声を聴かないつもりで。
《聞こえますかしら?私の声。》
だが、由里がどんなに耳を塞いでも、その声はクリアに由里に届いたのだった。
「ど、どういうこと?」
驚いて耳を塞いだまま、怒りを忘れて慌てる由里。
声は慌てる由里に構うことなく続けた。
《聞こえて当然ですわ。私は貴女の頭に直接語りかけているんですから。》
「は?何!?」
《どう言ったら貴女にご理解いただけるかは分かりませんけれど、そうね……。端的に言うと、私は貴女の魂を異界から召喚し、私の身体に降ろしたのです。これで分かっていただけるかしら?》
「あ、貴女の身体?」
声の説明の全ては理解出来なかったが、唯一理解できた部分だけに由里は反応する。
森の中では近くに鏡もなく、全体像は何も確認できないが見える範囲だけでもと由里は今の自分が所有している身体を確かめ始める。
「……、……っ。……うそっ!?……何で!?」
由里が見れば見るほど、その身体は自分のモノであるはずだというのに、全く見覚えのないモノだった。
突然森の中にいたことや知らない傷などに慌てていて全く気付いていなかったが、由里が生まれてこの方見ていたモノとは全く違っていた。
元々黒い髪は金髪になっていて、その上緩いウェーブがかかっている。何より、今日は結婚式用に美容院でハーフアップに結い上げてもらったというのに、どれだけ触ってもハーフアップの跡も無くなっている。というか、髪の肌触りがそもそも違う。よくはねる上に手がかかって仕方なかった髪質が全く異質なものへと変わっていた。
由里から見える手だって違う。すぐに外せるようにとネイルチップを張りつけていたはずの由里の爪は、天然で綺麗に整えられたものになっており、大して自慢できなかった生まれ持っての手は姿かたちも無くなり、手のパーツモデルでもやれそうなほど長く美しい指を持つ白魚のような手へと変化している。
先程まで着ていたのは紺色の膝丈のレンタルドレスだったが、今は何故か肌が全く出ていないロングのワンピースのようなものを着ているし、履いていたはずのヒールも踵のない靴になっている。少し上げて裾から足を確認してみるが、由里のモノよりも長くて細い気がするし、何より肌が全く違う。白くきめ細やかな陶器のような肌は、どれだけ由里が手入れしても手に入れられるはずもなかったものだ。
「……貴女の、身体?」
《そうよ。私、リリィ・マクラクランの身体です。》
リリィ・マクラクラン。そう堂々と宣言する声は、自らの存在に大いなる誇りを持っていると感じさせる響きだった。
10
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果
富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。
そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。
死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。

妹から私の旦那様と結ばれたと手紙が来ましたが、人違いだったようです
今川幸乃
恋愛
ハワード公爵家の長女クララは半年ほど前にガイラー公爵家の長男アドルフと結婚した。
が、優しく穏やかな性格で領主としての才能もあるアドルフは女性から大人気でクララの妹レイチェルも彼と結ばれたクララをしきりにうらやんでいた。
アドルフが領地に次期当主としての勉強をしに帰ったとき、突然クララにレイチェルから「アドルフと結ばれた」と手紙が来る。
だが、レイチェルは知らなかった。
ガイラー公爵家には冷酷非道で女癖が悪く勘当された、アドルフと瓜二つの長男がいたことを。
※短め。

恋人が聖女のものになりました
キムラましゅろう
恋愛
「どうして?あんなにお願いしたのに……」
聖騎士の叙任式で聖女の前に跪く恋人ライルの姿に愕然とする主人公ユラル。
それは彼が『聖女の騎士(もの)』になったという証でもあった。
聖女が持つその神聖力によって、徐々に聖女の虜となってゆくように定められた聖騎士たち。
多くの聖騎士達の妻が、恋人が、婚約者が自分を省みなくなった相手を想い、ハンカチを涙で濡らしてきたのだ。
ライルが聖女の騎士になってしまった以上、ユラルもその女性たちの仲間入りをする事となってしまうのか……?
慢性誤字脱字病患者が執筆するお話です。
従って誤字脱字が多く見られ、ご自身で脳内変換して頂く必要がございます。予めご了承下さいませ。
完全ご都合主義、ノーリアリティ、ノークオリティのお話となります。
菩薩の如き広いお心でお読みくださいませ。
小説家になろうさんでも投稿します。

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね
猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」
広間に高らかに響く声。
私の婚約者であり、この国の王子である。
「そうですか」
「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」
「… … …」
「よって、婚約は破棄だ!」
私は、周りを見渡す。
私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。
「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」
私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。
なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。

【4話完結】聖女に陥れられ婚約破棄・国外追放となりましたので出て行きます~そして私はほくそ笑む
リオール
恋愛
言いがかりともとれる事で王太子から婚約破棄・国外追放を言い渡された公爵令嬢。
悔しさを胸に立ち去ろうとした令嬢に聖女が言葉をかけるのだった。
そのとんでもない発言に、ショックを受ける公爵令嬢。
果たして最後にほくそ笑むのは誰なのか──
※全4話

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

地味令嬢を馬鹿にした婚約者が、私の正体を知って土下座してきました
くも
恋愛
王都の社交界で、ひとつの事件が起こった。
貴族令嬢たちが集う華やかな夜会の最中、私――セシリア・エヴァンストンは、婚約者であるエドワード・グラハム侯爵に、皆の前で婚約破棄を告げられたのだ。
「セシリア、お前との婚約は破棄する。お前のような地味でつまらない女と結婚するのはごめんだ」
会場がざわめく。貴族たちは興味深そうにこちらを見ていた。私が普段から控えめな性格だったせいか、同情する者は少ない。むしろ、面白がっている者ばかりだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる