ざまぁされたはずの悪役令嬢が戻ってきた!?  しかも、今度は復讐のため、溺愛ルートを目指すようです。 ~えっ、ちょ

夢追子

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6 高橋由里,6

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     六

《うるさいですわ!ちょっと静かにして下さらない?》
 突然どこからか響いてきた声に、由里は初め幻聴を疑った。
 危機的状況において、あまりにも絶望した自分の心が誰かを求めて見知らぬ声を聴かせているのだと本気で思った。だからこそ、状況は更に悪いのだと確信したのだ。幻聴すら聞こえてきたのだから、もはや助かるわけもないと。
《傷は塞がってきていますから、ちょっとやそっとじゃ死にませんわ。》
 またもや声は聞こえた。
 幻聴の線を残しながらも、由里は万が一の可能性を信じはじめた。この人けのない場所に、自分以外の人間がいる可能性だ。
「……だ、誰?」
 とりあえず虚空に向けて尋ねてみる。
「どこにいるの?」
 声が聞こえてきたのはどちらの方角からかは分からなかったが、キョロキョロと辺りを見回しながら誰かいるはずの場所を探す。
《私の名前はリリィ・マクラクランですわ。貴女は?》
 声の聞こえてくる方向は分からない。それでも、しっかりと返事が返される。
 由里は一歩二歩と、その場をよろよろと歩き出した。
「私は由里です。高橋由里です。」
《そう。じゃあ、由里と呼ぶことにしますわ。》
「はい、どうぞ。」
 どこからか聞こえてくる声と会話しながら、由里は声の主を必死に探していた。
 少し辺りを歩いてみるのだが、声の聞こえてくる場所の見当は全くつかない。
《それで、由里。》
 主の姿すら見えぬが確かに響いてくる声は、こほんと軽く咳払いすると自分のペースで由里に語りかけてくる。
《早速ですが、本題に入らせていただきますけど、いいかしら?》
 いいかしら、と言われても、由里には何が何だか分からない。首を傾げるばかりの由里は煮え切らない返事しか返せなかった。
「は、はあ……。」
 だが、声は由里の返事の内容など些末なことのようで、あくまでも自分のペースで続けていく。
《貴女をこちらの世界に召喚したのは、私です。ですから、ちゃんと私の指示に従ってください。よろしいですか?私が貴女を召喚したのは、全て復讐のためですわ。》
(……ちょっと、待って?召喚って何?どういうこと?)
 由里は一瞬聞き間違えたかと思った。それくらい平然と、声は意味不明で聞き捨てならないことを告げてくる。せっかく少しだけ冷静さを取り戻した由里の精神だったというのに、声は由里の気も知らず由里の精神に揺さぶりをかけるような内容を平然と語り続けてくるのだ。もはやこれは精神攻撃の類なのかと、由里は疑いたくなった。
《聞いてますの?由里。ここからが大切なところなんですけれど?》
 由里のあまりの反応のなさに、声がご立腹のようだ。
 だが、由里はそれどころではなかった。
「ちょっと、待って?召喚って、連れてきたってこと?」
《換び出したということですわ。必要があったからです。それが何か?》
 ふてぶてしいほどの響きで声は当然だと言わんばかりの、何なら感謝しろくらいの横柄さを響かせてくる。
 由里はさすがに黙っていられなかった。普段、あまり他人に自らの意見を言うことは苦手で飲み込むことも多い由里だが、こればっかりは我慢できそうにない。先程からの高慢で横柄な態度も由里の怒りに拍車をかけていた。
「嫌よ、こんなの。早く私を元の場所に返して!」
 当然と言えば当然の要求をする由里に、声の主は分かりやすくため息を吐いてきた。
《はぁ。何を物分かりの悪いことを言ってますの?由里。貴女の召喚は必要があってしたことです。貴女は召喚されたのだから、素直に従ってください。……それに私、召喚する方法は知っていますけど、召喚した存在を元の世界に返す方法は知りませんわよ?というか、そんな方法があると聞いたこともありませんわ。》
 物凄く偉そうな響きで、物分りの悪い子供に懇切丁寧に道理を説くような調子で、声は由里に語りかける。
 その調子では由里の怒りは全く収まるはずもない。基本的に由里は他人に向かって簡単に怒りをぶつける性格ではなく、その辺りを親友の紗枝にはお人好しだと言われるが、そんな由里の堪忍袋の緒すら切れさせるほどの人の神経を逆撫でするような響きが、その声には含まれていた。
「貴女の言うことなんて聞けません!私を元の場所に返して下さい!」
 召喚とか何とか、全く意味の分からない言い分だが、それすら気にならない。由里は生まれてこれまでここまで人にはっきりと意見を言ったことがあったか分からないくらいの勢いで続けた。
「こんなの誘拐です!犯罪です!警察に通報しますよ!いい加減にしてください!」
《けい……なんですの?それは。……意味不明なことはいいですから、由里。私の話をいい加減聞いてくださいますかしら?》
 由里の怒りはヒートアップしていくが、声の主は全く動じておらず、それどころか取り合う気も無いようだった。先程から一方的に、自分の要求を突き付けるだけだ。
 由里は本気で怒り、今まで出したこともないくらいの大声で怒鳴った。
「いい加減に姿を見せなさい!!!!」
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