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2 高橋由里,2

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     二

 高橋由里には幼い頃から想い続ける幼なじみがいた。
 彼の事が好きだと気づいたのは、いつの事だっただろう?
 物心つくのとそれほど変わらない頃だったかもしれない。
 お隣に住んでいた彼とは、幼稚園から一緒に通い、一緒に遊んで、一緒に育ってきた。
 彼の名前は、萩原陽介。
 生まれた日にちは一月ほどしか違わず、同学年。
 幼い頃は少し恥じらいながらも「陽介君と結婚する」などといった子供特有の戯言を口にしていたと思う。
 だが、少しずつ時は経ち、成長していくにつれ、高橋由里は思い知る。
 どうやら、陽介君はお隣に住んでいるけれど、住む世界が違うようだと。
 彼は圧倒的に一軍だった。
 文武両道、眉目秀麗。クラスで女子がきゃーきゃー言うタイプの男子だった。
 小学生の時はその足の速さから、中学生になったら成績の良さから、告白する女子が後をたたないほどモテていた。陽キャでイケメン。性格は爽やかで優しい。勉強だけでなく、部活動ではサッカー部でエースストライカーとして君臨し、全国大会にチームを連れていくほどの実力を見せた。
 そんな幼なじみとは違い、高橋由里はというと、よく言って三軍だった。
 あまり目立つことのない地味な容姿に、中の上の成績。運動も部活も、これといった活躍はせず、性格も大人しめ。クラスのその他大勢として、日々変わり映えのない日常を送るだけであった。
 ここまで住む世界が違えば、幼なじみとはいえ自然と距離が出来てくる。
 もちろん、顔を合わせれば挨拶をしたり、少し世間話をしたりするが、それだけだ。
 大きくなるにつれ住む世界が違う二人は疎遠となり、由里が一方的に憧れを持って彼を眺めるだけの関係性が出来上がっていた。
 それでも由里は陽介君への気持ちが諦められず、渡せはしないチョコレートを作ったり、届ける気のない手紙を書いたりして日々を過ごしていた。自らに自信が持てず、勇気も意気地もないため、直接的なコンタクトを自分からとることも出来なかった。
 そんな由里が願っていたのは、偶然の神様のご厚意で家の近くでばったり会ったりできることくらいだった。
 だが、それでも由里は、いつかは陽介君と恋人になれたらと願っていたのだ。
 しかし、そんな由里のささやかな願いすら、無残に打ち砕かれる日がやって来る。
 それは、由里にとってはあまりにも残酷で、あまりにも思いもよらない出来事であった。
 由里が叶うこともないままの幼なじみへの思いを持て余していた高校二年の夏休みのある日。
 由里は窓から外を見ていた。
 夏の昼間は長く、日差しは強く、日中はレースのカーテンを引いたままにしていた窓だったが、日が傾き始めようやくカーテンを開け、外を眺めていた由里。
 ふと窓から家の玄関を見ると、そこには幼なじみの姿があった。
 彼は高校生になって成長期を迎え背もさらに高くなり、今までよりも一段とイケメンに磨きがかかり、モテまくっていた。だというのに、とっかえひっかえ女子と付き合ったりせず、硬派な態度を貫いていたので、そこが更に女子の心をくすぐり、誠実で真面目だと評価は更に高まっていた。実は好きな人がいて、一途にその人を思っているとかまことしやかにそんな噂がささやかれ、それが自分だったらと由里を始め数多の女子達が眠れぬ夜を過ごしていた。
 思いがけず見ることが出来た想い人の姿に、由里の胸は高鳴る。
(今日はすごいラッキー。)
 最近はサッカー部の活動で忙しく、日がある時間帯に帰ってくることも稀なので、こんなふうに遭遇できるのは貴重な機会であった。
 帰ってくる時間に丁度タイミングが合ったことで、運命的なものすら感じてしまう初恋の乙女思考の由里は、自分がこのタイミングで窓を眺めることが出来たことすら何かに感謝していた。
 勇気を出すことも出来ないため、窓を開けて幼なじみに声を掛けることはできなかったが、それでも姿が見られただけで、由里は幸せを感じていた。
 だが、すぐに由里は全てに後悔することになる。
 ラッキーではなく、この日は由里の人生最初の最悪の日になるのだ。
 窓からそっと幼なじみを眺めている由里の視界に、もう一人の人影が現れる。
 その人影に笑いかけた幼なじみ。
 二人は由里に見られていることも知らず、いつものように抱き合うと、そのままキスをした。
 突然の出来事に茫然とする由里。
 キスを終え、はにかんだ表情をしていた相手は、まぎれもなく由里の妹である咲良であった。
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