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マジおこ案件
しおりを挟むここは、トパーズ侯爵邸、侯爵様の執務室。
「ーーーあ"ぁ"?」
アリステア様から聞いた事のない声が出た。
低くて、威圧的な、ドスのきいた声…眼光も鋭くなって、絶対零度って感じで怒っているっ…!
「はぁ…♡」
マジおこだぁ♡
怖いアリステア様もかっこいぃ…♡
しゅきぃ…♡
これをおかずにご飯を食べられる…♡
「何故…『僕のジア』が、第二王子の婚約者探しの『舞踏会』に招待されるんだ?」
きゃあぁ♡
僕の…『僕のジア』だってぇ…♡
ジアはアリステア様のものって、はっきり言われちゃった…♡
うん♡
ジアはアリステア様だけのものだよぉ…♡
目と耳が幸せぇ…♡
アリステア様がジアのためにいっぱい怒ってくれてるぅ…♡
ーーーあっ、実はね…?
今朝届いた、第二王子の婚約者探し舞踏会の招待状。
ジアにはアリステア様という尊い婚約者がいるから届くはずないのに。
トパーズ侯爵家は王族も恐れるくらい強力なお家だし、私たちの婚約は割りと有名なはず。
それなのに、送られてきたの。
普通だったら、こんな非常識で失礼な事はしない。
そして、間違える事もないはず。
だから…単純に考えると、トパーズ侯爵家とアクアマリン伯爵家に喧嘩を売っているとしか思えない行為なんだよね。
でね、今日は、それに対してどう対応すべきか家族会議をしてから、侯爵様とアリステア様に相談と報告に来たの。
それで手紙見せたら、あのドスのきいた声が出たの♡
私たちは大丈夫だよ、アリステア様。
第二王子セシル・アレキサンドライト殿下は、私に何の興味もないはずだから。
いや、絶対ない。
だって、第二王子殿下は、クラウディア様に横恋慕してるからね…。
乙女ゲーム『宝石の薔薇』の『脇役』、セシル・アレキサンドライト殿下。
ゲームだと、良くも悪くもないポジションの方なんだけど…何か良く出てきたから憶えてる。
そんな彼が、クラウディア様に横恋慕している描写があったから間違いない。
…と、いうことはね。
これはね、クラウディア様も招待したいから、それを悟らせないため各家門にばら蒔いてるんだと思うの。
利用されちゃった…。
他の婚約者がいるご令嬢にも届いていると思う。
そう…クラウディア様と公子様が危ない。
せっかく両片思いから、両思いになれたのにっ。
変な横やりを入れて欲しくないっ…!
だけど…これを説明するには、かなり問題がある。
不審に思われると思う…『何で第二王子殿下が、クラウディア様に横恋慕している事をジアが知っている?』ってね。
うーん、どうやって話を持って行けばいいのかな…?
「落ち着け、アリステア」
「…っ、そういう父上も、その折れた万年筆は何ですか?」
「…そうだな。私も落ち着く必要があるだろう」
そうそう、まずは落ち着いてもらっーーーえ?
万年筆が折れた…?
えっ…………こ、侯爵様っ、お怪我してないかなっ!?
「…!?」
侯爵様の手元を見ると、破片で傷が出来ちゃったのか、結構血が出ていたっ…!
「こ、侯爵さまぁ!お、おててがっ…!し、失礼致しますっ…!」
私はハンカチをポケットから取り出すと、急いで傷に当てたっ。
「大丈夫ですかっ?い、痛いですか…?」
「っ!…いや、平気だ。ありがとう、ジア」
侯爵様は一瞬驚いたお顔をしたけど、すぐに穏やかな優しいお顔をしてくれた。
え、ええ…逆にお気を遣わせちゃった…?
「で、ですがっ…侯爵様…」
「ジア、『侯爵様』ではなく『お義父様』と呼んで欲しいな。そんなに畏まらなくていい」
「お、おとう、さま…?」
「っっ……ああ、なんだい?ジア?」
「父上…デレデレしている場合ではないと思いますよ?」
デ、デレデレ…?
確かに、優しいお顔でふわっと微笑んでくれたけど…?
「我が娘がこんなにも可愛いのだ…仕方ないだろう」
「何を当たり前な事を…」
「??あ、あの…早く手当てをっ…」
「ふっ…本当に平気だ。後で誰か呼ぶ」
「ジア、父上は大丈夫だ。こっちにおいで」
「?は、はい…ひゃっ」
お二人に大丈夫と言われてしぶしぶ侯爵様から離れると、近づいてきたアリステア様に引き寄せられ、強く抱き締められた。
ア、アリステア様…?
どったの…?
「……………我が息子ながら凄まじい独占欲だな…」
「何か?」
「いいや、仲が良い様で大変結構」
「…そうですか。では、本題に戻りましょう」
…???
何故か侯爵様が苦笑いをし、アリステア様がほんのり拗ねた様な顔をしている…?
でも、さっきみたいにマジおこ状態じゃないし!
何だかわからないけど、気持ちをクールダウン出来たみたいで良かった!
あっ…でも、どうやって話を振ろうかな…。
とりあえず…証拠がある訳じゃないから、一つの可能性として言ってみようかな…。
「あの…アリステア様」
「ん…?なあに?」
「例えばのお話で……実は、第二王子殿下はもう婚約ししている方が好きで、その方を招待するカモフラージュのために、婚約しているご令嬢に招待状を送られている……とかはない、ですか?」
「!…どうしてそう思ったの?」
アリステア様から甘やかす様なニュアンスが消える。
わっ、ちゃんと真剣に聞き返してくれた…!
ありがとうっ…アリステア様…!
「ええと…諦めきれない大好きな方がいたら、今回の舞踏会は、第二王子殿下にとって追い詰められたも当然の状況です。なので、最後のチャンスを作るため、手段を選ばないかな…と思ったからです」
「………悪くない考え方だけど、根拠はあるの?」
こ、根拠あるけど…それをアリステア様たちに証明する証拠はない…。
私が知っている事自体がおかしいな事だし…。
アリステア様の試す様な、見極める様な普段とは違う様子にドキドキする…。
ジアの意見だからと簡単には受け入れない、仕事モードの、真剣で冷静な姿勢が素敵だ…♡
だけど、きゅんきゅんしている場合じゃない。
何か…話しても大丈夫な、それでいて納得してもらえる事を言わないと…。
第二王子殿下は俺様キャラで貪欲で………貪欲?
こ、これだ!
確か、彼の貪欲さは有名で、いくつかのエピソードがお茶会でも話題になっていた。
気に入った方を、半強制的に隣国からスカウトして、自分の側近にしてしまったりと……やり方がモラルのないパワープレーなんだよね。
隣国との関係が悪化する可能性とか、その方の人権や精神を脅かしている事に気づいていなかったりとか、例を上げればキリがないけど、そういう影響を全く考えない方だ。
えーと、お子さまなおバカさんなの。
しかも、それは俺様キャラ特有のナルシシズムと自分勝手さからくる性格の部分だから、動機に一切の悪気がない。
たちが悪いんだよね…。
こんな浅はかで気持ちの悪い方に、クラウディア様の人生が、心が壊されちゃうかもしれない。
絶対…どうにかして伝えないと…。
「その…好きなものは、手に入れなくちゃ気が済まない方で、やり方も強引だと有名なので…」
「…なるほど。共感を得られる根拠が言えるなら、一意見として通せるね。正直…君の、他にはない発想の推理には驚いたな」
ーーー!
聞き入れてくれた…!
「…父上」
「ああ。………聞いていたな?」
侯爵様は鋭い真剣なお顔でそれだけ言うと、一瞬、天井に視線を飛ばした。
え、もしかして…『影』さん…?を調査に向かわせたの…?
今の目配せだけで…?
「ジア…"良く忘れる"けど、君って優秀だったね」
アリステア様は私の頭を撫で撫でしてくれながら、褒め言葉なのか何なのかわからない事を言ってきた。
「偉い偉い♡さすが僕のジア♡」
あ、あまーいお顔に戻ったぁ…♡
「あ、あい…♡」
でも……嬉しいから、何でもいっかー♡♡
しゅきぃ…♡
じゃなくてっーーーよ、よしっ!
アリステア様と侯爵様が動いてくれれば、すぐにクラウディア様に横恋慕しているとわかるだろう!
クラウディア様と公子様を守れるぞ…!
「あの野郎…僕のジアをカモフラージュに利用するとは…ただではおかない…」
「全くだ。ジアへのこの扱い……許す訳にはいかん。我が家門も舐められたものだ。どのようにして国が成り立っているか、わからせる必要があるな」
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