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罠に誘い込まれた兎
しおりを挟む(※ボーイズラブを思わせる描写があります。苦手な方はご注意下さい。三人称視点です。)
人で賑わう舞踏会場で、シリルはエリザベス王女を探していた。
先ほどまでジェイク・グレンヴィルにエスコートされていた彼女がいつの間にか姿を消した…と、周りの目も気にせず、うろうろと歩き回っていた。
彼女に接触するために辺境のリーフ伯爵家に権力を振りかざし、リーフ伯爵令嬢に扮したシリル。
本人は正義に溢れた提案をしたつもりでいるので、脅迫したという自覚は全く無く、リーフ伯爵家が善意で協力してくれたと思っている。
故に…この愚かな少年は気づいていない。
正体が見破られたらどうなるか。
いかに無謀で、最悪な行為をしているか。
今この場にいる己が、間者とそう変わらない事に。
身勝手な自己概念を正義と信じ、罪を犯し、罪を重ねている事に気づいていない。
そのような考えが、そもそも無いのだ。
(久しぶりに見たけど…エリー、綺麗だったなぁ)
自分の興味がある事以外は目に入らない。
シリルは何処までも能天気で、都合が悪い事など考えてすらいなかった。
シリルは未だに理解出来ていないが…シリルのせいで王家からの信頼を失い、嫌われたローレンス公爵家。
ローレンス公爵はどうにか名誉挽回しようと奔走し、ローレンス公爵夫人はショックで屋敷に引きこもり、その気持ちを、シリルを盲目的に溺愛する事で癒していた。
そう、彼の行いを嗜める者は一人もいなかった。
勉強をしなくても、剣の稽古を全くしなくても、菓子ばかり食べて野菜を食べなくても、夜遅く…ある時は明け方まで起きて騒いでいても。
好きな事を好きなだけし、不摂生でバランスの崩れた、幼い体に負担をかける生活。
自分の成長を阻害する生活パターンを続け、十分に栄養を取らなかった。
その結果…十四歳になってもあまり身長が伸びず、細身で弱々しい体になってしまった。
母親似の恵まれた容姿のおかげで見苦しくはないが、成長期の体は悲鳴を上げていた。
本人は嫌な事はしないで好きな事だけが出来る生活に満足しているが…母親から間違った愛情を向けられ、全てを肯定されるという非常にまずい状況にあった。
なので、状況把握能力など皆無。
当然…自分の現状にも気づていない。
リーフ伯爵令嬢を装った自分が、周囲の令息、他国の王子に熱い視線を向けられいる事に。
今のシリルは、線の細い美少女に見える。
だが…その見た目とは裏腹に、性格は活発で感情が豊か。
気高いポーカーフェイスの令嬢しか知らない少年たちの目には、シリルの傍若無人の振る舞いが天真爛漫の可愛らしい振る舞いに見えていた。
彼らはシリルの姿を追い、話しかけようとタイミングを窺っていた。
(ーーーーーあっ!)
一人の令息が声をかけようとした瞬間、シリルはまた早足で歩き始めた。
一点を見詰め、吸い込まれるように進む先には、青いドレスを着た女性の後ろ姿が。
女性は薄暗い通路に入り、どうやら休憩室に向かっているらしい。
(良く見えなかったけど、きっとエリーだ!)
ホワイトブロンドの髪に、青いAラインドレス。
エリザベス王女と思われる特徴が、女性にはあった。
シリルは目を輝かせた。
衝動的に女性の後を追い、薄暗い通路へ出た。
「おじょーさん?何処行くの?」
「うわっ…!?」
しかし…角を曲がると、一人の男性がいた。
男性はシリルは行き先を塞ぐように現れ、驚いたシリルはバランスを崩して男性の胸に倒れ込んだ。
男性は、言葉に軽薄さと甘さがあり、いかにも遊んでいそうな色男だった。
この色男は、シリルを口説こうと待ち伏せていた。
「あっ…!ありがとう!」
何も気づいていないシリルは、ため口で、支えてもらったお礼を言う。
そんな無防備なシリルに色男は甘い笑みを浮かべた…が、それはシリルには効果がなく『もう行くね』と横を素通りされた。
色男は一瞬目を見開いたが、怪しく口角を上げると、シリルの片手を掴んだ。
「何?」
「簡単に行かせてもらえると思ってるの?」
「えっ?」
きょとんとするシリル。
色男の言っている意味が、本気でわからないのだ。
ひ弱なシリルはすぐに壁際に追い詰められ、色男に動きを封じられた。
それでも危機感を感じるどころか、ムッとした表情で動けないと幼い子供のように暴れていた。
色男は無理矢理シリルを押さえつけると、シリルの顎を指で固定して、口付けをしようと顔を近づける。
一方シリルは口付けをされるとは少しも思っておらず、意地悪をされていると顔をしかめていた。
「おいっ!何をしているんだ!」
唇が重なりそうになった瞬間、運良く第三者が現れた。
第三者は色男の肩を掴み、シリルから乱暴に剥がした。そして、婦女子に対してあるまじき行為…と真っ直ぐに言葉をぶつけている。
短髪でガッシリとした体格…まさに正義感に溢れた熱血漢という出で立ちの男だ。
解放されたシリルは、今の状況を特に考え、気にする素振りも無く、その場を走り去った。
彼の頭の中にはエリザベス王女しかない。
早く行かなければ見失ってしまう…それだけだった。
だが…また角を曲がったところで、足を挫いて盛大に転んでしまった。
慣れない服装なのに、いつも通りに動いたせいだ。
「っ…いったぁ…」
「まあ…お怪我はありませんか?」
「え?」
痛みに泣きそうになっていると、眼鏡をかけた小柄なメイドがかけよってきた。
メイドは傍らに寄り添い、シリルの体を優しく支えると、立ち上がれるように補助してくれた。
その際…メイドと視線が合い、何故かシリルの体に快感が電撃のように走った。
何の脈略もなく、頬が紅潮し、息が荒くなり、ドレスに隠れたぺニスが熱を持ったのだ。
「だ、大丈夫っ…」
シリルは混乱しながらそう言うと、休憩室に向けてよろよろ歩いて行った。
…メイドは、その様子をシリルの姿が見えなくなるまで見詰めていた。
遠くからガチャという、扉が開く音が響き、乱暴に閉じられる音を聞くと…メイドはほくそ笑んだ。
そのメイドのそばには、シリルが後を追っていた青いドレスの女性がいつの間に立っていた。
メイドは特に驚いた様子は無く、品のある動きで女性と向き合った。
「…何かご不便がありましたでしょうか?」
「隣国の王子殿下が休憩なさっていたみたいなのだけど…ご令嬢といたみたいだから出てきたの」
メイドが礼を取り、そう尋ねると…女性は休憩室の使用を止めた理由を説明した。
カーキベージュのアーモンドアイを鋭く光らせて。
その返答聞いたメイドは、天使のように微笑んだ。
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