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情けは無用
しおりを挟む(※ボーイズラブの絡み描写はありませんが、関連した内容が出てきます。苦手な方はご注意下さい。尚、ボーイズラブというジャンルを軽んじていたり、貶める意図は全くありません)
ヒスイの素性に『白』が取れた。
優秀な侍女たちの迅速な行動と素晴らしい連携によって、ヒスイの言葉が紛れもない真実だと証明された。
ヒスイから伯爵令嬢の名前を聞き、会場で令嬢になりすましているシリルを特定した。
彼の近辺にも人を送り、全てを調べたようだ。
ヒスイがただのファンとわかったのは安心できたが…場には重苦しい空気が漂っていた。
私は怒りや動揺を無理やり押さえ付けて、エリザベス王女のために平静を保つ。
取り乱しはしないものの…嫌悪と恐怖で顔を青くしたエリザベス王女を抱き締めて、頬にキスをし、安心させる言葉をかけながら報告を聞いた。
なりすましたシリルと一緒に来ていた令嬢の父親…つまり伯爵に、ひそかに接触して確認すると…表情は変えず、顔を青くして静かに頷いた。
裏も取れてしまった。
まさか令嬢になりすましてくるとは…。
シリルは、エリザベス王女に接触出来れば本当に何でも良いらしい。
年頃の令息にばかりを重きを置いていた私たちにとって、とてつもない落とし穴だった。
招待客は入城の際、招待状を持っているか、偽物の招待状ではないか厳重にチェックされている。
しかし…顔認証なんてものは当然無く、顔を知らなくても、怪しい要素が無ければパスされてしまう。
十四歳のシリルが女装だなんて絶対違和感があると思ったのだが…どうやら今のシリルは、物語とは違い繊細で弱々しい体つきらしい。
成長が遅れているのだろうか…?
侍女たちは、中背の美少女に見えるくらい男らしさがないと言っていた。
それでも中身は空気の読めないトラブルメーカー…弱々しい見た目とは裏腹に、おてんば天真爛漫令嬢風のシリル。
いつも通り、ろくでもない言動を繰り返し、令嬢のかけらもなかったと教えてくれた。
さぞ騒がしく浮いているのでは…と思いきや、そのギャップにやられた令息たちの熱い視線を一人占めしていた…という。
その中には、何処かの王子の姿もあったとか…。
まさか…と思い、ヒスイを見ると、渋い顔で頷かれた。
これは会場の様子を見てきたヒスイも知っていて『そのまさかです…割りと本気の色目を使われています…完全に惚れてますね…あれは…』と信じられない事実を教えられた。
…その話を聞いた瞬間、正直ぞわっと悪寒がした。
ーーーなに、その、ボーイズラブの総愛され受け(女性役ポジション)のような展開…『☆惚れた女が実は男ーーー!?』みたいなハーレムものの…。
同性愛を批判や差別するつもりは全くないが…単純にシリルが気持ち悪いと思った。
最高に、最悪。
これも、ある種のヒーロー補正なのか…ピンチもチャンスになるってか…?
悪い意味ではなく良い意味で目立ち、周りに注目され、主役を光らせる物語のワンシーンのようになっている。
このヒーロー至上主義的展開が腹立たしい。
何故かドン引きされるのではなく、シリルの華やかな見せ場となり、別ジャンルのドラマが生まれてしまった。
もういっそのこと、ボーイズラブな令息たちに掘られてしまえばいいのに。
「ーーー!」
その時、私は閃いた。
この状況…上手く使えばシリルに大打撃を与えられるかもしれない。
前世の女性向け小説で良く見かけたパターンが頭に浮かぶ。
傲慢で利己的なヒーローがほざく、なかなか靡かないヒロインをてごめにして快楽で落とす『体から奪えば、心はいくらでも後からついてくる』というクソみたいな論理。
私はこういうタイプのヒーローには毎回青筋を立て、疑問に思っていた。
ーーー『ではお前は、男好きの汚らわしい変態キモ男に同じ事をされたら好きになるのか?心はいくらでも後からついてくるか?』と。
何故、世の中の男性は、自分が誰かの“オンナノコ”になる可能性を微塵も考えないのだろう。
…そう、私が思い付いた方法は、シリルにエリザベス王女が受けている同じ苦痛を味わって貰うこと。
エリザベス王女の立場に、彼にもなって貰いましょう。
好きでもない、むしろ逆の対象から好かれ、迷惑極まりない猛烈アプローチを受ける気分はどんなものか理解して貰わないと。
伯爵令嬢になりすましたシリルは、会場いる令息たちの視線を一人占めしている状況を使う。
話通りなら、彼らは確実にシリルに惚れているだろう…これを更に刺激しよう。
令息たちとシリルに接点が出来るように仕向け、争奪戦が起こるように火種をまき、伯爵令嬢になりすましたシリルに執着する流れを作る。
全て、間接的に、手を汚さず、ステルスで。
同性愛者でない限り、男が男に情欲を向けられるなんて恐怖でしかないだろう。
そして『伯爵令嬢=シリルが化けた姿』と公の場で大人数に認知されたシリルは後戻りが出来ない。
バレたら当然、犯罪として処理される…さすがのシリルでもわかっているはずだ。
王族への反逆罪、脅迫罪…色んなところからバッシングを受け、騙していた令息たちを憤怒させ、嫌がらせはもちろん…最悪命を狙われるかもしれない。
いくら三大公爵家でも、王族と他二家門から嫌われているシリルに、下位の貴族たちが束になってきたらかなりキツいだろう。
ただ…バレたらまずいと思いつつ、どうにかなると思うのがシリルの思考回路…中途半端はまずい。
なるべく、権力や財力を持っている高貴な者たちに目を付けられないと難しい。
今夜は隣国の王子と、そのまた隣国の王子も招待されていると聞く…上手く、その王子たちもシリルに惚れるよう煽りたいものだ。
この際…自分が周りにやってきた事、権力がいかに怖いものかを思い知って貰おう。
シリルを追い詰める事が出来れば大万歳、そのままボーイズラブ総愛され受けハーレムルートに目覚めてくれても構わない。
シリルがここまでやり方を選ばないのなら、こちらもやり方を選ばない。
周りを巻き込むやり方は避けたかったが…女装した姿といっても、シリルに惚れた時点で、こちらの敵になる事は確定した。
もし…シリルが男とわかっても好きだとぬかす輩がいた場合、エリザベス王女に夢中なシリルを見て嫉妬に狂う可能性は高い。
エリザベス王女の脅威になるだろう。
ーーーだったら、心を鬼にする。容赦はしない。
まだ舞踏会は中盤にもいっていないが、この閃きを作戦として組み立て、リスクを考え、実行するまでの時間は短い。
しかも、被害者の伯爵家へのフォローも考えながらやらなくてはならない。
…だけど、前世でオタク向け小説を読んできた私には『こういうパターンのお約束』がわかる。
女神に授けて貰ったスキルもようやく役立つだろう。
そして…私はヒスイを見て、真剣に言った。
「…ヒスイさん、私の作戦に協力してくれますか?」
ヒスイが驚きで目を丸くした。
この作戦には、百パーセント、ヒスイの力が必要だ。
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