悪役令嬢は人狼ゲームの黒♡幕になる

きみどり

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予想外のエキストラ

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私の可愛い可愛い傀儡ちゃんたちは見事に役割を演じてくれた。 

傀儡Aはスラッとした爽やかな好青年。
傀儡Bは幼さが目立つ純粋無垢の箱入り娘。
傀儡Cは凛とした聡明な未亡人。
傀儡Dは思慮深い物腰柔らかな老婦人。

高位貴族、互いに接点はなし、聖女を尊敬している…という設定を踏まえ、まるで意思がある人間の部下のように動いてくれたの。

違和感を持たせない臨機応変さに、巧みな話術での心象操作…本当にプロの工作員ようだった。
私の魔法から生まれた子たち…なんて優秀なのっ♡

そして、昨夜…傀儡Dは役目を果たしてくれた。

マナーやモラルに囚われない聖女は、早朝にも関わらず傀儡Dの部屋を訪ねた。
聖女が朝起きると…昨夜出会った包容力たっぷりの優しい老婦人が頭に浮かび、『またお話したいなぁ』と甘えた気分になって衝動的に突撃したのだ。

だが…ノックをして声をかけても返事はなく、おかしいと思った聖女は宰相の子息を呼んだ。
まだ寝ているという可能性は角に置き…聖女の言葉を根拠もなしに信じる宰相の子息は、すぐに駆け付けて、護衛に扉を抉じ開けさせた。

ドタドタと押し入り…リビングに姿が見えず、更に寝室の扉を乱暴に開けたのだ。
…本当に何もなかったらどうするつもりなのかしらねぇ?

『ひっ…いやああああっーーー!』

『なっ!?こ、これはっ…!?』

ベッドには老婦人が仰向けで倒れ、絶命していた。
胸には凶器であるナイフが深く刺さり、シーツに染み込んだ血が黒く変色している。
ベッドには抵抗した痕跡があり、暴れて倒れ込んだような体勢…更には、恐怖一色のまま筋肉が硬直した顔を見るに、疑いようがない他殺。

『うそっ…なんで…』

聖女は一歩下がると、震えて動けなくなってしまった。

あら、癒しの力を使う素振りも見せないのね?
一応…聖女というブランドのイメージ向上のため、パフォーマンスとしてやっておいた方が良いと思うのだけど。

丸い瞳を更に丸くして呆然と立ちすくんでいる。
髪がピンクだと青い顔が映えるわね。

『死ん、で…?はっ!あっ…な、何をしている!早く誰か呼べ!』

こちらのお坊ちゃんも似たようなものね。
自分の無能さを責任転嫁するように語気を強め、護衛に命令を飛ばしている。
動転して頭が真っ白になっている。

冷静な知性派を気取っているみたいだけど…未来の宰相は、己の価値観、知識、感情のみをベースに物事を考える自己合理化人間だものね。

ただの神経質な頭でっかち君なのよねぇ。
実際に何か起こると判断が定まらず、どうしていいかわからなくなる。
まさに、勉強ができる事と頭が良い事は全く違うと、具現化したような存在だわ。


その後は上位エリア担当のホテルスタッフたちが呼ばれ、上位エリアの空室で状況の確認が始まった。

傀儡Dの部屋にはしっかりと鍵が掛かっており、上位エリアの警備も不審者はいなかったと言っている。

上階のうえ、外は嵐…考えられる容疑者はホテルスタッフか警備だと話が進む。
ホテルスタッフならマスターキーを持ち出して使えば自由に出入りできる。
警備が犯人または協力者なら、嘘をつけば良いだけの事だ。

思い込みと、目の前の情報だけを鵜呑みにする聖女たちがいれば、このままホテル側が捕縛されるでしょうね。 

『お前たちしか考えられない』

『は、犯人はっ…あなたたちなのっ!?』

ほら、今も決め付けて終わらせようとしている。

だけど…私がそれで終わりにするわけないでしょ?
ホテル側に申し訳ないどころではないしね。

『ちょっ、ちょっと待って下さい!その人たちは凄く優しくしてくれました…そんな人たちがっ…』

『っ…そ、そうだけど…あたしも、疑いたくないけど…』

傀儡Bが、純粋無垢な箱入り娘らしくお花畑全開の感情論を展開。
幼く弱々しい姿はアンダードッグ効果を生み、聖女たちが悪いというような影響を与える。
それに加え、聖女の…こちらもお花畑な正義感を揺さぶって判断を鈍らせた。

『同感だね…判断を急いては危険だ。私もそうだが、ここにいる全員にはアリバイがないじゃないか』

『なっ…それは、そう…だがっ!何故僕たちが昨日出会ったばかりの人間を殺すんだっ!?』

傀儡Aは、コミュニケーションが得意な好青年らしくその場の空気を変え、意識操作していく。
周りは誠実で冷静な意見を肯定したように沈黙。

プライドの高いお坊ちゃんが焦って食い下がる。
自分の判断を否定されて羞恥し、短慮だと侮辱された気分になったのでしょうね。

『固定概念で枠を狭めて考えるのは大きな見落としを生む…慎重に考えよう』

『そうよね…この中に犯人が潜んでいる可能性が高いのは確か…もっとしっかり議論しましょう』

傀儡Cも、傀儡Aの意見に理性的なフォローをしつつ、不安を煽る言い方で現実を突き付けた。
彼女のきちんとした雰囲気が、より深刻さを引き立たせていた。

聖女と宰相の子息は自分の置かれた状況をようやく理解して絶句している。

ふふっ…筋書きと違うと、『運命』が困惑しているの感じるわ。

『その通りだ』

傀儡以外の宿泊者が、冷静な声で同意した。

そうなの。
キャストが聖女一行と傀儡だけだと盛り上がりに欠けるから、無関係のエキストラたちも入れているの。
ごめんなさいね、これも『運命』のためなの♡
もちろん…物理的や社会的な危害は加えないわ。

『まずは現場の検証を徹底的にしないといけない。現場は発見時の状態ですか?』

『は、はいっ…警備と、そちらのお客様の護衛様が見張っております』

あら…?
都合の良い流れだけど、この言い方は傀儡たちに触発されたからではなさそう。
しっかりと自分の意思で動いている堂々とした声ね。

綺麗に切り揃えられた銀髪、考えの読めない切れ長の碧眼…男前で、なかなか洒脱な人。
落ち着いた紺色の紳士服が性格を表しているっていうくらい似合っているわ。

『その次にマスターキーを持ち出したかどうか、彼らのアリバイを確認するべきだ』

まあ…物凄く、冷静沈着ね。
現場の保存状態を気にする者は誰もいなかったのに…そういえば、ずっと考える素振りをしていたわ。
状況に怯えた様子もない。

先ほどまで流れは傀儡たちのものだったのに、自然に主導権を握り始めた。

「…この彼、少し面倒そうね」
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