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ゲーム開始
しおりを挟む隣国へ旅行に来て三日目。
日が暮れそうな今も、高級ホテルのそこそこ部屋で優雅な時を過ごしていた。
泡だらけのバスタブに浸かりながら、キンキンに冷えたカクテルを飲む。
甘いレモンのカクテルは、程よい酸味と皮の苦味がある…ああ、美味しい。
そばでは、水晶玉を宙に浮かせていた。
この水晶玉は監視装置なの。
ホテルの各所に配置したたくさんの水晶玉を通じて、その場の様子を映すように魔法をかけてあるわ。
音も聞く事ができるし、配置した水晶玉は私の意思で移動可能、そのうえ誰にも気付かないように認識阻害も完璧の優れもの。
「ふふっ…ゲーム開始ね」
本当に、私がいる場所に現れるわねぇ♡
水晶玉に映るホテルのエントランスホールには、聖女と宰相の子息が睦まじげに笑う姿が。
聖女として王命を受けた何らかの用事には見えないし、個人的なデートかしらね。
連れてきた護衛と使用人は宰相の家の者ばかりだし。
元平民の男爵家の養女が、宰相の子息とわざわざ隣国まで来て宿泊デート…学園に入学後十日で、出会って十日でいきなり。
相変わらず、行動の全てに脈略がないわね。
仮にも聖女と宰相の子息がこんな軽率でいいのかしら。
私の予想通り、一番高い部屋に泊まるよう。
これも予想はしていたけど…同じフロアで隣同士の部屋なんて、まるで夫婦ね。
宰相の子息には婚約者がいるのに奔放なこと。
聖女が淫らな恋愛をしようがどうでもいいのだけど…周りを巻き込んで迷惑をかけまくるのが問題なのよね。
困難に立ち向かう風な健気な被害者面をして、自分たちを正当化し、理不尽に人を陥れるからたちが悪い。
奴らは根拠のない信頼関係で結ばれている。
そのお花畑思考の中に、見えていなかった現実を突き付け、全てを崩したら…一体どうなるのかしら♡
「ようこそ、人狼の村へ♡」
私は、人狼の童話をリスペクトした理想のシナリオを『人狼ゲーム』と名付けた。
これからこの高級ホテルは疑心暗鬼の物語の舞台になる。
まずは『とある村』のように、ホテルを閉鎖空間にして環境を整えないと。
外部からの接触を断ち、人狼がホテル内にいると限定させる状況にしなくては。
そして…誰も逃げられず、目の前の恐怖に向き合うしかない状況にするために。
頭の中で、この地域一帯の空に不穏な雲を集めるイメージを固め…激しい嵐を起こした。
規模が大きいと、それだけ神経を使い、それだけ力を消費するけど…魔法って本当に便利だわ。
窓の外を見ると、暴風が吹き荒れ、勢いのある雨が降り、出歩くのは非常に危険な状態に。
暗殺者も行動を断念する程の、ね。
ランダムで各所の様子を水晶玉に映すと、急激な天候の変化に皆慌てている。
ごめんなさいねぇ。
水害や無関係な事故が起きないようにするから許してちょうだい。
次は、送り込んだ複数の傀儡を聖女たちに接触させないとね。
魔法で生み出した人形なのだけど…姿も振る舞いも、全てが人間そのものなの♡
聖女が泊まる一番高い部屋があるフロアは上位エリアと呼ばれている。
要人などが多く利用するため、厳重な警備が置かれ、人の出入りが限定されている。
一般客が入る事ができないのはもちろん、ホテルスタッフも選ばれた者しか立ち入る事ができない。
その上位エリアに、他国の上位貴族のフリをさせて傀儡たちに部屋を借りさせたの。
人狼に食い殺される、犠牲者になってもらうために。
私の今までの経験から推測するに…今夜、ホテル客をホールに集めて聖女を歓迎する何かが催されるはずよ。
聖女はかなりの要人…それも国から祭り上げられた有名人。
当然ながら隣国もその存在を認知しているわ。
ああ…ほら、水晶玉に映るホテルスタッフたちが急いで準備を始めているわ。
そこで傀儡たちには聖女たちと濃い接点を持ってもらう。
聖女が理想とするような善人を演じてもらい、聖女を肯定する発言を言い続ければ、難なく好感を持たれるだろう。
仲が良くなり…共に楽しい夜を過ごしたその後に、悲劇が起こるの♡
外部からの犯行とは考えられず、犯行後の逃走も不可能…警備も厳重な上位エリアでは自ずと容疑者が絞られてくる。
犯行は必ず夜、一日ごとに一人。
次は自分かもしれない恐怖。
上位エリアにいる全員に容疑がかかるため、フロアの移動もできない。
さぁ…存在しない犯人に怯え、どのように踊ってくれるかしら♡
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