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十三回目のループ
しおりを挟む目を開けたら、王立学園の校門。
私の視線の先には…入学に胸を弾ませて楽しそうな聖女と、彼女を微笑ましそうにエスコートする王太子と宰相の子息。
いつもの光景ね。
私が馬車から下りた瞬間、タイミングを見計らったように婚約者としての面子を潰される。
しばらくして私に気が付くと、こちらの自尊心を傷付け、煽るように紹介される。
聖女をサポートするようにと冷淡に命令されるのよね。
十三回目のループが始まった。
ふふ…思わず、にやけちゃったわ。
「今すぐ邸に戻って」
「え…ですが、お嬢様……いえ、承知致しました」
私は奴らに背中を向けると、先ほど乗ってきたばかりの馬車に乗り込み…微笑みを浮かべながら、酷く落ち着いた声音で御者に命令した。
御者は一瞬もの申そうとしたが、すぐに命令を実行した。
普段無表情の私が、いきなり微笑みながら命令してきて恐ろしかったのだろう。
私が両親から冷遇されている事で、使用人が裏では私を侮って調子こいている事は知っている。
だけど、うちの使用人は妙に頭が良くて…侮辱を遠回しにする事と直接する事とは話が違ってくるとしっかりわかっているのよねぇ。
今みたいに、その後の事を恐れているの。
私の事はどうでもいい両親だけど…もし、それが家門への侮辱と捉えられたら?
両親は家門をかなり重んじて、誇りを持っている。
私は両親の所有物、政略の大事な道具なの。
下手をすれば、ねぇ?
いつもと違う態度を見せただけで怯えちゃって♡
そのせいか、馬車が良く揺れる。
ふふ…怖くて急いでいるのね。
「あら、先ほどより運転が荒いのね」
「っ…も、申し訳ありませんっ…」
怖いほど優しく言ってあげると、今度は極端に速度が落ちていく。
こんな小物が、裏では偉そうに私を馬鹿にしているのよ?
本当、どの立場にいるつもりなのかしら。
これからどうなるのか楽しみだわ。
だって…両親は今日から私の僕になるのだから。
まずは王太子と婚約破棄、それから学園へ退学届を出さないといけないわ。
当然反対されて相手にもされないはずだから…無理やり納得してもらいましょう。
ーーーこの御者みたい、にね。
「ぐっ…リ、リアンティ…な、んのマネだ…こんな、事をして…それに…その、力はっ…」
「まあっ、お父様。マネだなんて…それは立場が上の者が下の者に言う言葉であって、お父様には似合いませんわ」
「ぐはっ…!!」
床に無様に転がる父の腹部を思い切り蹴り上げる。
邸に到着すると、敷地内に結界を張って人の出入りができないようにした。
そして、すぐさま父の執務室へ向かった。
ドアを魔法で爆発させ、父が状況を把握する前に宙に浮かせ、床に叩き付けたのだ。
「何なの…この力はっ……リアンティ!やめなさいっ!!」
爆発音を聞き付け、使用人と一緒に転がっていた母が吠え出した。
魔法という未知の力に混乱しつつも、相手が私だから夫婦そろって舐めているのね。
こんな異常状態であっぱれだわ。
「娘の分際でーーーえ…?ええっ!?い、いやああああっ!?」
顔の周りを飛び回る虫みたいにやかましかったので、全裸にして…大の字で壁に磔にしてみた。
あ、でも、ガーターストッキングと靴だけは残してあげたから全裸ではないわね。
あらやだ、よりうるさくなってしまったわ。
「お母様、黙らないと正門前で磔にしますよ。もちろん、そのお姿で」
「ーーーっ!?」
ふふ、静かになったわ。
それはそうよね…いつの間にか衣類が消え、体が浮き、体の自由が利かず、動いても勝手に動く。
ようやく…自分たちの状況と立場がわかってきたのかしら。
「お父様、私の忠実な僕になるなら命は助けてあげますよ」
訳がわからない…という顔を、私以外の人間がする。
父は恐怖を感じながらもまだまだ強気で、不快そうに顔を歪ませている。
母も泣きそうな顔をしているが、屈辱へまだ怒りを感じるている辺り…父と同じだろう。
使用人たちは顔を真っ青にして強張らせ、息を潜めるように静かにしている。
「ふっ…愚かだなっ…!こんな、事をして、ただで、済むと思うな。反逆者め…私たちへの、裏切りは…国への…この事は…すぐに王宮へ…ぐっ…我々を脅迫し、害した事が知れ渡れば、お前などっ…」
「そこの貴方、隣の者に今起こった事を話してみなさい」
「……へっ…?」
「死にたくなければ言いなさい」
「は、はいっ…!お嬢様がーーーあああああっ!?」
女の使用人が隣の使用人にこの状況を説明しようとした瞬間、女の姿が小さな鼠の姿に変わった。
鼠になった女は状況がわかっておらず、混乱している様子だ。
視界がおかしい、くらいしか把握できていないはず。
私は小さい鏡を鼠になった女の前に移動させ、自分がどんな姿になったか理解させてあげた。
最初はやはり、大きな鼠を見て悲鳴を上げるように体を跳ねさせたが…次第にそれが自分の姿だとわかり、かなり動揺して騒いでいる。
ちゅうちゅう鳴いて可愛いけど、そろそろ戻してあげようかしら。
「わ、わたしっ…わたしっ……えっ?も、戻ってる…?」
ちゃんと喋れている事で元に戻った事に気付き、必死に自分の顔を触ったり、手足を見たりしている。
余程怖かったのね、ごめんなさいね。
「ふふっ、ありがとう。いい見本になったわ」
「はっ…はあっ、はあっ…ぐ、うえぇ…」
優しく言ってあげると…女は顔色を更に悪くし、耐えきれないというようにその場で嘔吐した。
「彼女は私の命令を聞いただけなので元の姿に戻してあげたけど……ふふっ♡」
一気に、この場の空気が恐怖一色に変わった。
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