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プロローグ

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王立学園の卒業式ホールで、私は『十二回目』の断罪を受けていた。 

いつもと同じ冤罪に、いつもと同じ面子。

婚約者の王太子、宰相の子息、騎士団長の子息、王宮医者の子息…そして、元平民の男爵家の養女。
彼女は聖女として祭り上げられ、王族から過剰に守られていた。
何でも、選ばれた聖女だけが使える奇跡、癒し力があるらしく…そう、全然使っているところを見た事がないけどーーーそれがあるらしく、優遇されていたの。

この聖女に私が嫉妬し、迫害したとか意味のわからない罪で毎回こんな茶番劇が起こるのよ。
聖女も私がやっていると本気で思っているみたい。
笑っちゃうわね…彼女を気に入らない令嬢なんて山ほどいるのに。
 
身の潔白を証明しても、常識が通用しない相手は強引に話を進め、最後には必ず無実の断罪をされる。

それでなんやかんや命を落とすと…いつも、聖女が王立学園に入学する日に時間が戻っているのよね。

今まで、どうにか回避しようと色んな事をしたわ。
仲良くしようと親切にしてみたり、婚約破棄をしようとしてみたり、留学して距離を置いてみたり…全て無駄だったけどね。 
奴らは思い込んだものが全て真実だと信じ、他の意見を全く受け付けない。
そう…己の価値観だけが絶対正義の奴らには、正論が通用しないのだ。

何かにつけて私を悪者にしてくるし、何度頼んでも両親は婚約破棄させてくれないし、何故か留学先に奴らが現れるし……うん、糞食らえだわ♡

ここまでくると、まるで聖女のための物語みたいね。
私はラブロマンスを盛り上げる障害ってところかしら?

もうね、怒りとか悲しみとか悔しさとか、感じるのが面倒臭くなるほど疲れてしまったの。

更に今の心情はその先…疲れを通り越したら、馬鹿馬鹿しくなったの。
もうぜーんぶっ…どうでもいいわぁ♡

「聖女を迫害した罪でーーー」

はいはい、次はなぁに?
婚約破棄して爵位の剥奪をした後は。

修道院行き?
身一つで極寒の北部に追放?
それとも処刑?

ふふっ、どれもつまらないわ♡
こんなのはどうかしら?

「え…?な、なんでっ…体が勝手にっ…!?」

「聖女…?」

聖女が私に向かってゆっくりと歩き始め、王太子が困惑したように声をかけた。
その手に、いつの間にかナイフが握られていたからだ。

「え、え、なん、でっ…あたし、ナイフを…!?」

「待て、どうしたんだっ!?」

「や、やだっ、やああっ…何これ、こわいっ…だ、誰かっ…!」

私が十二回目のループで気付いた事…それは自分が遥か昔に消滅した、魔法という術が使える魔女だという事だった。

刃物が肉に刺さり、辺りに血の匂いが漂う。
聖女が私の胸にナイフを突き刺したのだ。
ゼロ距離まで接近し、抱き付くように思い切り深く。

ええ…私が聖女を操って刺させたの♡

「…っ…は……ふふっ…酷い女、冤罪で人を殺すのね♡」

口から大量の血を吐き出し、私は今世一番の笑みを聖女に向けた。
魔法薬で痛みを遮断しているから痛くないけど、体が重くて意識が遠くなってきたわ。
残念…せっかく愉快な展開になってきたところなのに、最後まで鑑賞できないなんて。

「え…ちがっ……う…そ……い、いやあああああああああああああああーーーっ!?」

聖女は謎の現象と…自ら直接手を汚し、殺人をしてしまった事実を受け止められず…震え、恐怖して発狂した。

彼女の逆ハーレム要員の男たちも恐怖に顔を固め、何が起こったのかわからないという状況に震えている。

騒がしかった周囲も一旦静かになり、次には阿鼻叫喚というほどうるさくなった。

ああ…愉快だわ。
正体のわからない恐怖に怯えて、あれだけ信じていた己の価値観が揺らいでいる。
人間の、強い意思が恐怖で揺らぐ表情…なんて愚かで美しいの。

卒業式ホールにいる者たちは、何故聖女がこんな行動を取ったのかと混乱し、彼女から言い訳にしか聞こえない言い分を聞いて疑心暗鬼になる事でしょう。

それはいづれ、聖女を支持していた者たちへも及ぶ事だろう。

ループの謎はわからないけど、きっとまた同じ場面に戻るはずだわ。
きっと次も、何処にいても奴らと遭遇するはず。

だったら…今度からは私が楽しませてもらう。

ジャンルは、聖女のラブロマンスからサスペンスなんてどうかしら。
回避できないなら、私好みに脚色して楽しんでもいいでしょ?

もう何も気にしない。
私は、私の事しか考えない。

好き勝手やらせてもらうわ♡
倫理なんてもう、どうでもいいの♡
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