22 / 22
名前を呼んで
しおりを挟む北部に到着すると、港町を少し回ってから、寝台列車に乗り込んで当てのない旅へ。
ここまで全部、アレクがガイドをしてくれた。
道案内、値段交渉もお手のもの…。
ボディーガードしてくれるおかげで、フィオレンツァがゴリマッチョ姿で危険人物たちを牽制する必要もなくなったし…もう、何から何まで“おんぶにだっこ”だった。
私が目立つ事を恐れている事もお見通しで、一等車ではなく二等車の部屋をとってくれた。
そこそこの部屋と言っていたが…私から見たら十分良い部屋で、フィオレンツァとの二人部屋。
隣にはアレクとルディの部屋…環境が良いうえ、めちゃくちゃ安心できる。
私はのびのびと部屋で寛いでいた。
「まあ…凄いわっ…これが雪野原…!町並みも素敵だったけど、自然の風景はいっそう神秘的……雪って本当に綺麗ねっ!」
「そうだねぇ♡」
そしてそして、キラキラわくわくした様子で、ずーっと窓に張り付いているフィオレンツァ。
窓から見える景色は綺麗で、フィオレンツァは最上級に可愛い。
幸せって、きっとこういう事なんだろうなぁ…。
ただ…一つ気になるのが、船の客室にいつの間に置かれていたソジュンの短い手紙。
『俺が必要な時は名前を呼んでくれ。いつでも駆けつける』
これはどういう事なのだろう…。
確か、彼は一度行った事がある場所にワープできる能力があると言っていた。
実際に目の当たりにしたし…これは間違いない。
それは、もしかして…人も対象とか…?
一度会った事がある人物なら、その人物の元へワープできる的な…。
でも、何で名前を……そもそもどうやって名前を呼ばれた事を把握するのだろうか。
名前を呼ぶと、私がワープの目的地として感知される…とかなのか?
「ソジュンさん…やっぱり言葉足らずだなぁ…」
「……あら…彼がまた何かしたの?」
「!フィ、フィオちゃん…」
さっきまではしゃいでいたフィオレンツァは、何とも言えない圧を醸し出し、声のトーンを露骨に落とした。
ま、まずい…軽率に名前を出してしまった!
フィオレンツァはソジュンを許したわけではないのに…!
手紙を発見した時も即刻燃やそうとしていたし…。
「ち、違うのっ…!ソジュンさんの手紙が…」
「呼んだか?」
「えっ……ひ、ひいぃっ!?」
どうにかフィオレンツァを宥めようとした瞬間…この場にいないはず声がした。
声の方を向くと…当たり前のようにソジュンが立っていた。
「ソ、ソジュンさんっ…!?」
「ああ、どうした?」
ソジュンは私と視線が合うとゆっくり跪き、穏やかに緩んだ瞳で見上げてきた。
え、な、なんでっ!?
しかも、言い方も何処か優しいっ…!?
相変わらず淡々としているが…冷たさがなくなり、柔らかさを感じる。
「まあ…何をしに来たのかしら?」
ソジュンの行動に戸惑っていると、フィオレンツァがつーん…と厳しめの声を出した。
そ、そうだ…今この状態は火に油。
最悪なタイミングでソジュンは現れたのだ。
恐らく…私が名前を呼んでしまったから…。
「怒るな…恩人に名前を二回呼ばれたから来ただけだ」
ピリピリするか…と思ったが、対するソジュンは困ったように笑い、穏やかに返してくれた。
うん…やはり言葉は足りないけど、フィオレンツァへの誠意をしっかり感じる。
それをフィオレンツァも感じたのか、不本意という顔をしながらも口を閉じた。
「あっ…あの…名前を呼ばれると感知できる能力もあるんですか…?」
「いや、名前を呼ばれて感知できるのはお前だけだ」
「え…?それは、どういう…?」
「…お前は知らなくて良い」
ソジュンは小さく微笑みをもらすと、私の片手を優しく取り、ちゅっ…と手の甲に口をつけた。
「ひゃっ!?」
今の流れで何故…と私の脳内に宇宙が広がる。
こんな事されたの初めてだから……どうしよう…。
予想もしていなかった行為に、ただただ驚いて固まってしまう。
「なっ…あなたっ!シシーに何をするのっ!?」
「恩人に敬愛を示しただけだが?」
「むぅううう…!シシーの手を離しなさい!」
動揺と混乱で何も返せないでいると、フィオレンツァの過保護が炸裂していた。
ぎゅっ…とフィオレンツァに片手を抱き込まれる。
「わたしのシシーにっ…わたしもした事がなかったのにっ…もうっ!ちゅっ、ちゅっ!ちゅっ!ちゅーっ!」
「酷いな」
手の甲をハンカチでゴシゴシと拭われて、上書きするように何度もちゅっ、ちゅっ…と女神様からの愛情を片手に受けた。
「わっ…フィ、フィオちゃん…♡」
きゅんっ。
美幼女の溺愛ムーブのおかげで、だんだんと気持ちが落ち着いてくる。
「フィオちゃんったら…♡もおっ♡」
「!ふふっ、わたしの可愛いシシー♡大好きよ♡」
ぽーっとしちゃう。
状況も忘れてフィオレンツァにメロメロになってしまった…。
「ふぅ……あなたの能力は、愛する者に名前を呼ばれると感知してワープできるものでしょう?」
「…良くわかったな」
「シシーに伝えなかった事は褒めてあげるけど…あなた、自分がシシーに何をしたか忘れたわけではないでしょうね?」
「!…ああ、忘れていない。しっかり償うさ」
気付けば、二人でこそこそ何かを話している。
話の内容が気になるところだが…とりあえずは落ち着いて会話できているみたいなので一安心。
10
お気に入りに追加
41
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】結婚初夜。離縁されたらおしまいなのに、夫が来る前に寝落ちしてしまいました
Kei.S
恋愛
結婚で王宮から逃げ出すことに成功した第五王女のシーラ。もし離縁されたら腹違いのお姉様たちに虐げられる生活に逆戻り……な状況で、夫が来る前にうっかり寝落ちしてしまった結婚初夜のお話
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。


甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
義兄の執愛
真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。
教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。
悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる