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腐りきった教国
しおりを挟む客室に漂うピリピリした空気。
会話が外に漏れないように、フィオレンツァが強力な結界で部屋を覆っている。
私とフィオレンツァはベッドに寄り添いながら座り、ソジュンは立ったまま壁に背を預けていた。
フィオレンツァが名前を聞くと、彼はソジュンと答えた。
ええ…私の時は教えてくれなかったのに…。
あまりにもあっさり素直に答えたものだから、状況を忘れて驚いてしまった。
それから、ソジュンはこれまでの経緯を全て説明し、フィオレンツァの怒りのボルテージが静かに上がっていった。
だが、そこはさすがのフィオレンツァ。
怒りを抑え、冷静に次の話を切り出した。
「あなたは何者なの?」
「俺は三年前、教国に捕らわれた奴隷……奴隷のハンターだ」
「…!?」
思いもよらなかった答えに、目を見開いた。
神に仕える組織が呪いに奴隷って、一番のタブーを犯していると言っても過言ではないのでは…?
陰謀があるかと怪しんではいたけど、そこまで腐っているとは思わなかった。
狂気的な信仰心から『聖女フィオレンツァの処刑』という愚かな過ちを犯したのだと、ずっと思っていた。
だけど違った。
なんてっ…なんて凶悪なカルト集団なのっ…!?
私は怒りと恐怖に震えながら、フィオレンツァを守るようにギュッと抱き締めた。
こんな低俗な奴らにフィオレンツァの尊い命が散らされたなんて…苦しかった胸がもっと苦しくなる。
フィオレンツァが、念話で『泣かないで。大丈夫よ、シシー』と優しく言ってくれる。
私を安心させるように、胸の中ですりすり頬擦りをして身を預けてくれた。
逆に気を遣わせてしまった。
私がフィオレンツァにケアされてどうするの…!
「教国は色んな人物を拉致して駒にし、逃げられないように隷属の呪いをかけている…って事かしら」
「ああ、そうだ。俺は、教国から近いダンジョンを攻略し、ダンジョンブレイクを防ぐための要員だ。十九年前の件が余程辛かったみたいだな」
「…攻略できなかったら、あなたは始末されてしまうのね」
「察しがいいな」
教国の被害者二人はとっても冷静で、恐ろしい会話を淡々としている。
あのダンジョンは教国の近くだったのか…今更ながら震えてしまう。
「…教国は何を企んでいるのかしら」
「残念ながら、俺は内部の事は何も知らない」
ソジュンは自嘲気味に笑い、暗に『捨て駒だからな』と言っているようだった。
聖女や大神官の姿は一度も見る事はなく、会った事があるのは下位と思われる神官のみ。
隷属の呪いがあるため、日常生活は自由行動を許されていたが…任務があると拒否権なしで呼び出され、どうにか攻略する生活を三年間送っていたらしい。
「…………………」
心がすり減るばかりで、休まる時などなかったはず。
三年間、ずっと一人で耐えていたのだろう。
ダンジョン攻略前のソジュンの様子を思い出す。
手段を選ばないやり方ではあるが、ソジュンはしっかりと自分を保って生きようとしていた。
最悪な状況下、微かな希望を抱き続ける事はとても疲れるし、辛い。
それに耐えていたこの人は、とても強い人だ。
「俺からもいいか?」
「ええ」
「お前が、俺の呪いを解いてくれたのか?」
「お、おそらく…」
心なしか…瞳にハイライトが戻ったソジュンがこちらを向いた。
完全に聞き手に徹していたから、いきなり話を振られてビビってしまう。
「あ、あの…どうやったか、とかは聞かないで下さい。この事は他言無用でお願いします…内緒にして頂ければ、今回の事はチャラに…」
「もお、シシーったら…優しいのだから」
フィオレンツァが『むうぅ』と可愛くむくれている。
ご、ごめん…フィオちゃん…!
愚行だった事には変わりないが、ソジュンが苦しみから解放されて素直に良かったとは思う。
だから、どうにか穏便に終わらせたい。
「…もちろんだ。墓まで持っていく」
「あ、ありがとうございますっ」
「礼を言うのはこちらだ。ありがとう…お前は一生の恩人だ」
「へ…あ、ええぇ…!?」
よし、この話はおしまい!
と…思ってすぐに、ソジュンが私の前で跪き、何やら話がおかしな方向に…。
「むむぅ…シシーに怖い思いをさせた事を忘れてないかしらっ!?あなた、都合が良すぎるわ!」
更にはフィオレンツァが我慢ならないというようにズバッと指摘をした。
フィオちゃんがこんなに食い下がるなんて…。
深い愛情を感じてとても嬉しいのだが…もう、終わりにしたい。
ほら、彼も命に関わる事情があったわけだし、私たちの事は内緒にしてくれるし……何より、これ以上関わるのは危険なような気がする。
「ああ…その通りだ。彼女を脅迫して利用した罪もしっかり償わせてくれ」
貴方もそんなに重く受け取らないで…スッゴい真摯な雰囲気で向き合わなくていいの…。
「あ、え、や、だから、私たちの事を内緒にしてくれさえすれば…」
「それはそれ、これはこれよ!」
その後…何とか二人を説得できたが、もう外は朝日が昇り始めていた。
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