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休まらない

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「え…難易度Sのダンジョン…?」

「そうだ」

氷魔法でアシストしようとしたら、想像した以上に威力が強かったのか…うっかり倒してしまった私。

予想外の出来事に、何が起こったのか理解するのにしばらく時間を要した。
この彼の手を煩わせたボスモンスターを、私が。
この強そうな彼を差し置いて、何故か私が。
あり得ないと思うのは当然だと思うの。

最終的には『彼とは相性が悪過ぎただけで、もしかしたらそんなに強くなかったのかも…』と無理やり納得したのだが…!

ボスモンスターから出た素材と戦利品と言わんばかりに現れたアイテムを回収し、ダンジョンから出た後…爆弾が落とされた。

「お前は難易度Sのダンジョンをいとも容易く攻略したんだ」

「え…えぇ…」

消滅していくゲートを眺めていたら…ずっと黙っていた彼が、ダンジョンの難易度を教えてくれたのだった。
し、知りたくなかった…。

「このダンジョンはS級ハンターからも敬遠されて、ダンジョンブレイク間近だったんだ」

「…!」

それは…ダンジョンブレイク間近まで放置されていたって事…?
彼が攻略しようとしなかったら、あの恐ろしい毒を持ったトカゲたちが外に…考えただけでゾッとする。
モンスターの脅威以外に、毒による生態系への被害がかなり出るだろう。

ダンジョンが発生した当時、魔力濃度から測定された難易度はA…高いが、攻略できない事もない。
ハンターたちはランクを上げようと血気盛んに挑んだらしい。

だが…足を踏み入れてみればそこは猛毒の世界。
耐性のない者は一分も経たずにダウンしてしまう。

攻撃に気を付けさえすればモンスターは倒せる…しかし、とても適応できる環境ではない。
ボスモンスターどころか、入口付近で攻略を断念するハンターが続出し、難易度はSに上がってしまった。

それを聞いたら、どうして私が攻略できてしまったのか余計にわからなくなる。

「お前は本当に何者だ?」

「な、何者でもないです…!私も、自分がどうして攻略できたのか聞きたいくらいなのでっ…」

正体を疑うような低い声に、ビビりながら焦る。
これ以上この人に目を付けられたら危ない気がする…!
倒してしまったけど怪しい者ではないんです!という気持ちを込めて必死に訴える。

 「…嘘はついてない、か……何処までも規格外なエルフだな………はぁ……脅して巻き込んだのはこちらだ。これ以上の追及はしない」

しばらく感情の読めない鋭い瞳に見詰められ…彼は呆れとも諦めとも取れる言葉を漏らした。
これ以上追及しても答えが出ないと判断してくれたらしい…。

「…帰るぞ」

そう言いながら彼が私の肩に手を置くと、景色が見覚えのある甲板に変わる。

か、帰って来れた…!

ダンジョンに行く前と変わらない綺麗な夜の海。
どのくらい時間が経ったのかな…ダンジョン内では生きた心地がしなかったらとても長く感じた。

とにもかくにも、夜が明ける前に無傷で帰って来れて本当に良かった。

「あ、あのっ…私はもうーーーえ?」

用済みなのかどうかを確認しようと声をかけ、彼に視線を向けると…戦闘で緩んでいたのか、風で首元に巻いていた布が吹き飛んだ。

「ーーー!」

私は思わず絶句してしまった。
だって…まるで細い首輪をつけたように、首が紫色に変色していたから。

ま、ままままさかっ、ど、どどどど毒っ!?
え、え、結界は問題なかったはずだけど…実は問題あったのっ!?

ーーーはっ!

そ、そういえば…フィオちゃんが、私には呪いや毒が効かないと言っていた…!
結界に欠陥があっても気付かないわけだ…!

いくら脅されて無理やり付き合わされたとしてもこれはないっ…!
どうしよう、私のせいで……あっ…げ、解毒っ…そう解毒しないと!
今すぐ解毒魔法をっ…いや、『癒しの祝福』の力を使った方がいいかもしれない…。

「どうした…?顔を青くして…もう何も、し、な……………は?」

自分のせいだ…と、パニックに陥った私は冷静さを欠いていて、深く考えずに行動に出た。
ずいっと彼に近づくと…首に両手を伸ばし、できるだけ優しく触れた。

そして…謝罪の気持ちと死なないでという気持ちを込めて『癒しの祝福』を使った。
全力で力を注いでいると…次第に首は、元の色を取り戻し始めた。

「え……な…これはっ…!?」

「はぁ…はぁ…だ、だいじょ、ぶ、で、」

どのくらいで止めたらいいのかわからず、彼に確認しようとした時……後ろから可憐だが…酷く冷たい声がした。


「あなた…わたしのシシーに何をしたの?」
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