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成り行きで
しおりを挟むあれ以来、危険な事は起こっていない。
天候にも恵まれ、非常に穏やかで安定した船旅となっていた。
フィオレンツァとほのぼの楽しく過ごしている。
ーーーただ…私の想像とはだいぶ違う展開になっていた。
海賊の脅威から脱した後、フィオレンツァを連れてこそこそとその場を去ろうとした……がっ!!
『俺たちが嫌いでなければ、待って欲しいな』
困り笑いのアレクに気付かれ、食事に誘われ…そこから成り行きで行動を共にする事になってしまったのだ。
ルディがたくさんお喋りしてくれて、アレクが絶妙なタイミングで膨らませてくれる。
凄い…わかりやすいし、面白い。
興味を誘い、引き込む話術…話すの上手いんだなぁ。
自然に距離を縮めるのも上手く、嫌悪感を感じさせない。
船内のレストランで料理を奢ってもらいながら会話を楽しみ…次の日は朝昼晩の食事からお茶まで奢ってもらい、丸一日ボディーガードしてくれた。
最初は焦ってお金は払うと遠慮していたし、せっかくの船旅で申し訳ないと断っていたのだが…とても押しが強かった。
それに…フィオレンツァが嬉しそうだったから好意に甘える事にしたのだ。
奢られる事に戸惑いつつ、念話で『こんな風に遊ぶのは初めてっ』とはしゃいでいて可愛かった。
実際、私も楽しかった…でも、心配になってしまう。
こんな存在感がある人たちと一緒にいて目立っていないか…と。
未だに緊張して、私は相づちばかり……会話はほぼフィオレンツァが繋げてくれている。
「シシーさん、それだけで良いのか?」
「は、はい…」
今日も午後のお茶を奢ってもらい、ストレートティーをちょびちょび飲みながら、ミルクパンに苺ジャムとバターを塗って食べていた。
少しは遠慮しなければ…と、一番安いものを注文したのに…逆に気を遣ってわざわざ声をかけてくれる中身もイケメンなアレク。
隣でコーヒーカップを握る姿がなんと絵になる事か。
「ふっ…追加で食べたくなったらいくらでも注文してくれ」
テーブルの向かい側でケーキを楽しむフィオレンツァとルディにチラッと視線を送り、柔らかに微笑まれた。
ほら、美味しそうだよ…と言うみたいに。
「あ、ありがとうございます…」
相手をあまり気負わせない言い方に、細やかな心遣いを感じる。
何だかくすぐったいというか…慣れない感覚に戸惑ってしまう。
それに好意をただ受け取るだけの自分が情けないというか…ほんの少し居たたまれなくなる。
フィオレンツァも私の意図を汲んで合わせてくれようとしたのだが…楽しそうにオススメしてくれるルディのため、生クリーム乗せホットショコラとオレンジピール入りのシフォンケーキを注文していた。
「へへっ…フィオさん、凄く美味しそうに食べるねっ」
「ん~」
そんでもって瞳をキラキラさせながら食べるフィオレンツァと、それを見てニコニコしているルディ……可愛いが過ぎる。
ちなみにフィオレンツァはゴリマッチョ姿です。
ゴリマッチョでも可愛いのです。
「木の実たっぷりなのも好きだけど、オレンジの皮って加工するとこんなに美味しいのねっ」
「…?オレンジピールを知らないのか?」
「ーーー!」
アレクが素朴な疑問をフィオレンツァに投げ掛けた。
し、しまった…フィオレンツァは私の作ったもの以外、質素な食べ物しか知らない!
女神でも全員が全知全能ってわけではないって言っていたし、元聖女の感覚は他とはちょっと違う!
誤魔化さなければっ…もし、不審に思われて…何処からフィオレンツァの正体がバレるかわからない!
「私たち、今まで森から出た事なかったので世間知らずなところが…」
「!…そうか。無粋な事を聞いた…ごめん」
「い、いえっ…!」
「いや…ハンターがどんな職業か聞いてきた時、疑問に思っていたが…あの時気付くべきだった」
そういえば…客船に結界を張った後、自己紹介してくれたアレクに聞き直していた。
どうやら、違和感なく誤魔化せたようだが…アレクに重く受け止められてしまった。
何故だか…失言をしたというように後悔している。
排他的なエルフは縄張りから出ない…つまりは一生を生まれた場所で過ごす。
エルフなのは知られているし…もしかしたら、かなりの訳ありだと思われているかもしれない。
森から追放されたとでも思っているのだろうか…。
そんな深刻な問題はないのだけど、ルディも心配そうな顔でそわそわしている。
聞きたいけど聞けない…みたいな様子で。
違う、違うの。
確かに…辛かった。
価値観の違いに苦しんだのは本当だが…壮絶な過去があるわけではない。
『シシー…わたし……ごめんなさい…』
念話でもフィオレンツァの反省した声が聞こえてきて…お顔ももれなくしゅんとしている。
事情を知らない二人からすれば、それはまるで…この場の空気を肯定しているように見えるだろう。
フィオちゃん…今、絶対誤解されたよ…。
もう空気が一気にお通夜である。
とりあえず、話題を変えないといけない。
暗い顔をしているアレクの意識を別に移すため、控え目ながら服の裾を引っ張った。
うわぁ…やむを得ないとはいえ、気持ち悪いって引かれてないかなぁ…。
「だから…あの、情勢とかに疎いので、教えて欲しいです…」
「っ……ああ、いくらでも」
びくびくしながら見上げると、そこには先ほどよりも柔らかに微笑むアレクが…。
息を飲んだ音が聞こえて一瞬ビビったけど、先ほどより顔色も良くなっているように感じるし…とにかく、良かった。
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