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おねんねしましょうね
しおりを挟む先ほど軽く自己紹介をしてくれた、青年アレクと少年ルディ。
二人は戦う事を生業にしているハンターと呼ばれる人たちらしい。
ダンジョンを攻略したり、モンスターを狩ったり、護衛のような事をしたり…と、まるで前世でいう、漫画やゲームで出てくる職業である。
さすが戦闘職。
警戒しながらも動じず、じっと構える冷静さ…緊急時の対応が一般人とは違う。
対して…大砲の狙いをわざと外して牽制攻撃しながら、間近に迫る海賊船。
客船は旋回して避けようとしているが間に合わない。
こちらの動きが遅いという事もあるが…どうやら性能も向こうの船の方が上らしい。
黒・金・赤の三色で装飾が施された船体は、シックで高級感に溢れているが…恐怖を煽るような、そんな威圧感を放っている。
私はというと、今世で最大のビビりをかましている最中である。
「ひいぃぃぃ…」
「シシー、わたしがいるわ」
縮こまって震える私を、フィオレンツァが小さな体で守るように包んでくれていた。
近づくにつれて、早く結界を解けと言わんばかりの魔法攻撃も加わり…もうとにかく怖い。
魔法があまり得意ではないのか、威力は弱いけど…もうマジもんの殺意を感じる。
抵抗は賊を刺激して攻撃性を増幅するという…もうわかりやすい例である。
「それに……ふふんっ!シシーの結界はそんな可愛い攻撃じゃ破れないわよっ」
そして肝が据わり過ぎているフィオレンツァ。
また私の事で誇らしげにしている。
心なしか…一瞬、背中を向けるメンズ二人から微笑ましいものを見る視線を送られた。
どや顔フィオちゃん可愛いし、褒められて嬉しいけど…今は違う気がする。
「は、あぁぁぁ…」
口から魂が飛び出しそうな息を吐く。
実質半分以上私に向けられたヘイトだと思うと何て胃が痛む事だろう…うん、胃潰瘍になりそう。
でも、結界を張らなかったらもっと酷い目や怖い目にあっていた……うん…私が究極のビビりなだけで、選択自体は間違っていない。
それに正直わかる。
おそらく…フィオレンツァの言う通り、この調子なら大丈夫だろう。
傲慢や油断しているわけでは決してないが…明らかに私たちの力の方が強い。
相手に取って置きの攻撃方法が残っていたとしても、防御に特化した結界が破られる事はない…と思う。
まだ未熟で他の神様より力が弱いといえど、なんたって女神様の協力を得た魔法だ。
このまま逃げ回りながら耐久し、大砲の弾切れや海賊のスタミナ切れを狙えば諦めてくれるかもしれない。
だけども、この攻防が長時間続く事は…私の精神衛生上とても宜しくない。
どうしよう…いくら賊でも、誰かを攻撃…ましてや殺すような覚悟も勇気も私にはないし…。
凄まじい怒りや恨みを買う事になるだろう…。
ーーーよし…おねんねの時間だ。
こうなったら海賊全員を眠らせるしかない。
急に意識を失うのも十分危ないが、完全にあちらが悪いので私の安息のために決行させてもらう。
ただ…倒れたタイミングが悪かったり、海に落ちたり、頭を打ったりしたら死者が出るかもしれない。
これで恨みを買ったら本末転倒…保護魔法も一緒にかけて…いや、念のため治癒魔法も追加しよう。
無傷で健康体なら、酷い結果にはならないだろう!
三種類の魔法を連発して使うには規模が大きいし、治癒魔法はフィオレンツァに協力してもらおう。
「フィオちゃん…!」
私はメンズ二人に聞かれないように音声遮断の結界を張ると、フィオレンツァに弱腰で逃げ腰な作戦を伝えた。
「ふふっ…シシーらしい、良い考えね。もちろん手伝うわっ」
「ありがとうっ…」
微笑みながら二つ返事で返してくれる女神様、マジで女神。
まず、海賊船の全てに保護魔法かける。
客船と同じように範囲を設定すれば、一人一人を一つ一つを認識していなくても簡単にできる。
広範囲の魔法は先ほどの結界で要領を掴めたから、もう大丈夫!
フィオレンツァの素晴らしいアシストに感謝だ。
次に上級睡眠魔法をかける。
覚えていたけど、使う機会がなかった魔法。
攻撃系と違い、精神干渉系は魔力の消費が激しく、操作も難しいから連発はできないけど…集中できればなんて事ない。
魔力が高かったから、割りと色んな魔法の勉強ができた…これだけはエルフに生まれて良かった点だ。
「!…攻撃が止んだ」
「なぁ、アレク…甲板にいる奴らが倒れたように見えたんだけど…」
「そうだな…船から乗り出した奴らが不自然な動きで後ろに倒れた」
二人の反応からして、大成功みたいだ。
最後に、フィオレンツァが上級治癒魔法を涼しい顔で広範囲にかけてくれた。
アレクの時は呪いの影響があったから少し疲れていたが…これが癒しを与える女神の力…カッコいい。
「何が起きたかわからないが…今なら逃げられるな」
アレクの言った通り…海賊船は動きを止めたまま、だんだんと遠くになっていく。
「よ、良かったぁ…」
『頑張ったわね、シシー!とっても偉いわっ!』
フィオレンツァが頭を撫で撫でしてくれながら、念話で褒めてくれた。
これで船旅を続行できる。
私は安心した事で一気に気が抜けて、フィオレンツァとの楽しいひとときを想像していた。
ーーーこの瞬間を、誰かに見られていたとも思わず。
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