美幼女の女神様を幸せにしたいだけなのに執着されていました

きみどり

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迫り来る脅威

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「ひっ…!?」

突然の出来事に驚いていると、ふわっと体が浮いた。
気が付いたら青年に横抱きにされていたのだ。

「大丈夫。ルディ、こっちだ!」

「ああ…!ちょっとごめんっ!」

「まあっ」

青年はそのまま瞬く間に樽が積み上げられた裏に移動した。
すぐ後ろにはゴリマッチョ姿のフィオレンツァを横抱きにした少年が……ち、力持ちだねぇ…!

「あ、ありがとうございます…」

「いーえ」

お礼を言うと、優しい目で爽やかに返された……わぁ。

「ああ、それと…フィオさん、隠れやすいように小さい姿に戻ってくれないか?」

「ええっ、わかったわ!」

青年のお願いにフィオレンツァが頷く。
いつもの可憐な姿に戻ると、少年の腕にすっぽり納まった。

「ありがとう。ふふっ…力持ちなのねっ」

「あ、い、いや……うんっ」

安心できると判断したのか…フィオレンツァが身を任せながら擦り付くと、少年はドキッとして照れ臭そうに笑った…どちらも可愛い。

それと…私たちは横抱きにされたままとか…色々気になる事はあるが、それをいつまでと聞ける空気ではなかった。

カンカンカンッ。
声を荒げながら警鐘を必死に鳴らし続ける船夫。

「早く!早く船内に避難をっ!」

最初は驚いて困惑していた乗客たちだが…進行方向にドクロマークの船が見えると、途端に悲鳴を上げながら船内に駆け込み始めた。

穏やかだった甲板はあっという間に緊迫した空気へ。
我先にと避難する乗客たちで渋滞してしまい、大混乱のパニック状態に陥っていた。

まだ距離はあるが、明らかにこちらを狙っている。
高そうな大型客船だから、乗客の所持品と物資を奪おうとしているのだろう。

やはり前世の母国と違い、この世界の人は一人一人の危機感の持ち方が違う。
だが…それが余計に、この場の恐怖と不安を掻き立て、更なる混乱を招いているが…。

「どうせ海賊は強奪のために船内をくまなく荒らし回る…状況も把握しづらくなる」

ひ、ひぃいいいいっ…!!
だから様子も窺える甲板に隠れたのねぇえっ!?

今すぐ異空間部屋に入りたいが…ここは人の目が多い。
上手く入れても、目の前の二人に要らぬ心配をかけて危険に晒してしまうかもしれない。
先ほどの様子から、彼らは間違いなく私たちを探す。

どうしようっ…怖いよぉおっ…!!

「こ、こうなったら…船全体に、け、結界を…」

「あらっ、良い考えね!わたしも手伝う!二人で張れば強固なものになるわっ。シシー、手を繋いで?」

「…は?」

「…え?」

片手をフィオレンツァに伸ばし、可愛い両手でギュッと握られた。
あっ…温かい魔力が流れ込んできた。

「シシーは結界の構成をして。わたしは安定するように補助するわ」

「う、うんっ…がんばる!」

大規模な結界は初めてだから自信はないが、私にはフィオレンツァがついている…!

船全体を包み込むイメージで構成を始める。
一気に魔力を放出したため、反動でぐらついたが、そこはフィオレンツァがフォローしてくれた。

「う…」

「シシー、もう少しよっ」

包み込むだけではダメだ。
集中して細部まで丁寧にコントロールして…しっかり強固にしなくては。

「とにかく防御特化にするの…今回は姿消しの要素は捨てて…」

最後にフィオレンツァの魔力と上手く溶け合わせて…あっ、これは簡単にできた。
無事、船全体に結界を張る事に成功した。

「で、できた…」

「凄いわ、シシー!とってもいいこねっ」

「えへへ…フィオちゃん…♡」

「ふふっ…よしよしっ」

可愛い頬に握っていた私の片手を引き寄せると、愛情いっぱいにすりすりして褒めてくれたぁ♡

「こんな大きな結界を簡単に張ってしまうとは…」

「す、凄すぎるっ…」

フィオレンツァに褒められて達成感に浸っていると、二人が信じられないというように驚いていた。

「え…?」

「ふふんっ!わたしのシシーは凄いのよっ!」

「いやいやっ…二人ともだからねっ!?」

自分も含まれているのに、私に対してだけ誇らしげにしてくれるフィオレンツァの愛情は嬉しいが…これは普通の事ではないらしい。

『シシー。この結界の範囲は、常識の範疇(はんちゅう)で凄いって意味だから大丈夫よ。ふふ…あなたの本当の凄さはバレていないわ』

やらかしてしまったと顔色を悪くしていると、すぐに気付いたフィオレンツァが念話で落ち着かせてくれた。

「本当に凄いな…」

安心してホッと息をつくと、間近にある青年の顔をようやく意識した。
感動したような眼差しで見られている…わ、顔が良いね。

そういえば…ずっと横抱きされていた。
気まずさと緊張で、控え目に顔を背けながらやんわりと逃げの体勢に入る。

「あっ…えーと…し、失礼しました…いつまでも離れないですみません」

「!……残念、役得だったのに」

「はは、お上手ですね」

さすがイケメン…お世辞とわかっていても不快感を感じさせないスマートさ。
この人…自然に気遣いができて、穏やかで優しいし、こりゃあモテるだろうなぁ。

「わたしも大丈夫よ。ありがとうっ」

「あ、うんっ…フィオさんたちのためなら、いつでも抱っこするよ!」

「まあっ!ふふっ…優しいのね」

フィオレンツァも便乗して、少年に可憐な微笑みを向けながら地に足をついた。
凄い…あんな至近距離で動じもせずに…さすが私の大好きな女神様…余裕な態度がカッコいい。

少年の返答も『恩人の役に立ちたい』という気持ちが伝わってきて微笑ましい。

でも……思わず気を抜いてしまったが、まだ完全に安心はできない。
樽の隙間から進行方向にいる海賊船の様子を窺う。

「海賊船の動きが止まらない…」

力で押しきれば突破できると思っているのか…長期戦にして粘るつもりなのかな…。
そんなに金品や物質が欲しいのか……それか、長い船旅で女性に飢えているのか。

海賊にどのくらいの力が備わっているかわからない。
猶予はできたが…最悪、魔法の箒で脱出する事を考えないと。
あくまで最終手段…姿消し機能があっても相手に格上がいたらバレない保証はない。
それに…自分たちだけ助かる事になる…ビビりの私はその罪悪感に耐えられるだろうか。

「この結界は姿消しまでしてないが…張られた事は気付いているはず。ふーん…随分自信があるんだな」

「ひうっ!?…そ、ですね…」

様子を窺う私のすぐ頭上から正統派な爽やか声が。
大袈裟にビクッと驚いてしまう。

彼はそれを…私が想像以上に怯えていると判断したのか、冷静に頼もしい言葉をかけてくれた。

「大丈夫…万が一結界が破られても貴女たちは俺が絶対に守る」

「あっ、おいっ!オレ“たち”だろ!」

わ…こ、心強い。
先ほどとはオーラが違う…何て言うか、能ある鷹は爪を隠すタイプなのかも。

…と、思うと同時に、モテるイケメンはこうやってパーソナルスペースを自然に詰めていくのかな…なんて場違いな事が頭に浮かんだ。
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