美幼女の女神様を幸せにしたいだけなのに執着されていました

きみどり

文字の大きさ
上 下
10 / 22

迫り来る脅威

しおりを挟む

「ひっ…!?」

突然の出来事に驚いていると、ふわっと体が浮いた。
気が付いたら青年に横抱きにされていたのだ。

「大丈夫。ルディ、こっちだ!」

「ああ…!ちょっとごめんっ!」

「まあっ」

青年はそのまま瞬く間に樽が積み上げられた裏に移動した。
すぐ後ろにはゴリマッチョ姿のフィオレンツァを横抱きにした少年が……ち、力持ちだねぇ…!

「あ、ありがとうございます…」

「いーえ」

お礼を言うと、優しい目で爽やかに返された……わぁ。

「ああ、それと…フィオさん、隠れやすいように小さい姿に戻ってくれないか?」

「ええっ、わかったわ!」

青年のお願いにフィオレンツァが頷く。
いつもの可憐な姿に戻ると、少年の腕にすっぽり納まった。

「ありがとう。ふふっ…力持ちなのねっ」

「あ、い、いや……うんっ」

安心できると判断したのか…フィオレンツァが身を任せながら擦り付くと、少年はドキッとして照れ臭そうに笑った…どちらも可愛い。

それと…私たちは横抱きにされたままとか…色々気になる事はあるが、それをいつまでと聞ける空気ではなかった。

カンカンカンッ。
声を荒げながら警鐘を必死に鳴らし続ける船夫。

「早く!早く船内に避難をっ!」

最初は驚いて困惑していた乗客たちだが…進行方向にドクロマークの船が見えると、途端に悲鳴を上げながら船内に駆け込み始めた。

穏やかだった甲板はあっという間に緊迫した空気へ。
我先にと避難する乗客たちで渋滞してしまい、大混乱のパニック状態に陥っていた。

まだ距離はあるが、明らかにこちらを狙っている。
高そうな大型客船だから、乗客の所持品と物資を奪おうとしているのだろう。

やはり前世の母国と違い、この世界の人は一人一人の危機感の持ち方が違う。
だが…それが余計に、この場の恐怖と不安を掻き立て、更なる混乱を招いているが…。

「どうせ海賊は強奪のために船内をくまなく荒らし回る…状況も把握しづらくなる」

ひ、ひぃいいいいっ…!!
だから様子も窺える甲板に隠れたのねぇえっ!?

今すぐ異空間部屋に入りたいが…ここは人の目が多い。
上手く入れても、目の前の二人に要らぬ心配をかけて危険に晒してしまうかもしれない。
先ほどの様子から、彼らは間違いなく私たちを探す。

どうしようっ…怖いよぉおっ…!!

「こ、こうなったら…船全体に、け、結界を…」

「あらっ、良い考えね!わたしも手伝う!二人で張れば強固なものになるわっ。シシー、手を繋いで?」

「…は?」

「…え?」

片手をフィオレンツァに伸ばし、可愛い両手でギュッと握られた。
あっ…温かい魔力が流れ込んできた。

「シシーは結界の構成をして。わたしは安定するように補助するわ」

「う、うんっ…がんばる!」

大規模な結界は初めてだから自信はないが、私にはフィオレンツァがついている…!

船全体を包み込むイメージで構成を始める。
一気に魔力を放出したため、反動でぐらついたが、そこはフィオレンツァがフォローしてくれた。

「う…」

「シシー、もう少しよっ」

包み込むだけではダメだ。
集中して細部まで丁寧にコントロールして…しっかり強固にしなくては。

「とにかく防御特化にするの…今回は姿消しの要素は捨てて…」

最後にフィオレンツァの魔力と上手く溶け合わせて…あっ、これは簡単にできた。
無事、船全体に結界を張る事に成功した。

「で、できた…」

「凄いわ、シシー!とってもいいこねっ」

「えへへ…フィオちゃん…♡」

「ふふっ…よしよしっ」

可愛い頬に握っていた私の片手を引き寄せると、愛情いっぱいにすりすりして褒めてくれたぁ♡

「こんな大きな結界を簡単に張ってしまうとは…」

「す、凄すぎるっ…」

フィオレンツァに褒められて達成感に浸っていると、二人が信じられないというように驚いていた。

「え…?」

「ふふんっ!わたしのシシーは凄いのよっ!」

「いやいやっ…二人ともだからねっ!?」

自分も含まれているのに、私に対してだけ誇らしげにしてくれるフィオレンツァの愛情は嬉しいが…これは普通の事ではないらしい。

『シシー。この結界の範囲は、常識の範疇(はんちゅう)で凄いって意味だから大丈夫よ。ふふ…あなたの本当の凄さはバレていないわ』

やらかしてしまったと顔色を悪くしていると、すぐに気付いたフィオレンツァが念話で落ち着かせてくれた。

「本当に凄いな…」

安心してホッと息をつくと、間近にある青年の顔をようやく意識した。
感動したような眼差しで見られている…わ、顔が良いね。

そういえば…ずっと横抱きされていた。
気まずさと緊張で、控え目に顔を背けながらやんわりと逃げの体勢に入る。

「あっ…えーと…し、失礼しました…いつまでも離れないですみません」

「!……残念、役得だったのに」

「はは、お上手ですね」

さすがイケメン…お世辞とわかっていても不快感を感じさせないスマートさ。
この人…自然に気遣いができて、穏やかで優しいし、こりゃあモテるだろうなぁ。

「わたしも大丈夫よ。ありがとうっ」

「あ、うんっ…フィオさんたちのためなら、いつでも抱っこするよ!」

「まあっ!ふふっ…優しいのね」

フィオレンツァも便乗して、少年に可憐な微笑みを向けながら地に足をついた。
凄い…あんな至近距離で動じもせずに…さすが私の大好きな女神様…余裕な態度がカッコいい。

少年の返答も『恩人の役に立ちたい』という気持ちが伝わってきて微笑ましい。

でも……思わず気を抜いてしまったが、まだ完全に安心はできない。
樽の隙間から進行方向にいる海賊船の様子を窺う。

「海賊船の動きが止まらない…」

力で押しきれば突破できると思っているのか…長期戦にして粘るつもりなのかな…。
そんなに金品や物質が欲しいのか……それか、長い船旅で女性に飢えているのか。

海賊にどのくらいの力が備わっているかわからない。
猶予はできたが…最悪、魔法の箒で脱出する事を考えないと。
あくまで最終手段…姿消し機能があっても相手に格上がいたらバレない保証はない。
それに…自分たちだけ助かる事になる…ビビりの私はその罪悪感に耐えられるだろうか。

「この結界は姿消しまでしてないが…張られた事は気付いているはず。ふーん…随分自信があるんだな」

「ひうっ!?…そ、ですね…」

様子を窺う私のすぐ頭上から正統派な爽やか声が。
大袈裟にビクッと驚いてしまう。

彼はそれを…私が想像以上に怯えていると判断したのか、冷静に頼もしい言葉をかけてくれた。

「大丈夫…万が一結界が破られても貴女たちは俺が絶対に守る」

「あっ、おいっ!オレ“たち”だろ!」

わ…こ、心強い。
先ほどとはオーラが違う…何て言うか、能ある鷹は爪を隠すタイプなのかも。

…と、思うと同時に、モテるイケメンはこうやってパーソナルスペースを自然に詰めていくのかな…なんて場違いな事が頭に浮かんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

処理中です...