美幼女の女神様を幸せにしたいだけなのに執着されていました

きみどり

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再会

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初めての船旅でわくわくしたフィオレンツァと甲板で海を眺めていると…物凄く見覚えのある黒髪の青年と鉄色(くろがねいろ)の髪の少年が視界に入った。

私は時が止まったようにフリーズし、その次に顔が青くなるのを感じ、汗がぶわっと吹き出す。

ひぃいいいっ!?
な、何であの二人が船にいるのぉおっ!?
どんな巡り合わせっ!?

「まあっ、元気そうで良かったわぁ」

フィオレンツァがほのぼのと呟く。
いや、動じな過ぎでしょフィオちゃん…!!

私のせいで最悪な印象なはず…どうしようっ…ただでさえ嫌われているのに更に怪しまれてなんていたら…!
攻撃をされる事はないと思うけど…もし、詰められたら…上手く受け答えできる自信なんてない。

見つかったら…面倒な事になる可能性がある。
まさか、ここで難所がくるとは…。

ここに来るまで順調だった。
人間に上手く化けて、上手く立ち回れていた。

私はエルフ耳だけ魔法で変え、容姿は特に変えず…ベール付きの帽子を被り、シンプルなワンピースを着て、肩掛けを羽織っている。
フィオレンツァはベースはそのままゴリマッチョに化け、同じような格好をしている。

悪人への牽制のため少し目立つが、あれから難なく魔法結晶石を売り、情報を集め、中流階級が利用する北部行きの客船に乗る事ができたのに…。

「大丈夫よ、シシー。わたしたちは何も悪い事はしていないわ。堂々としていればいいの」

慌てていると、頭に温もりを感じた。
フィオレンツァの優しい手が、安心させるように頭を撫でる。 

「う、うんっ」

「いいこね、シシー」

そ、そうだ。
悪印象だったとしても、私たちは悪い事はしていないし、彼らに害を与えたわけでもない。
気付かれても、普通に過ごしていればいいんだ。

フィオレンツァのおかげでビビり思考から抜け出せたが……人生そんなに上手くいかないらしい。

「あ、あの…!」

「今、シシーって言ったか?」

「ひっ!?」

不意に後ろから声をかけられる。
全く気付かなかった…いや、全く気配がしなかった。

こ、この声は…間違いなく、あの青年と少年…!
ええ…愛称覚えられてたぁ…うそぉ…。

どうしよう…振り向かないと不自然だよね。
まだ心の準備は出来ていないのに…!

「フィ、フィオちゃん…」

「あらあらっ、もう気付かれてしまったわ」

私は助けを求めるように、ニコニコ笑うフィオレンツァの後ろに隠れた。

びくびく隠れながら様子を窺う。
肯定的な反応を示すと…何故か二人は、心底嬉しそうな反応をした。

「やっぱり…声と雰囲気が同じだったので」

「うそ…こんなに早く会えるなんてっ…」

あ、あれ…嫌われて、ない…?
わぁ…正統派イケメンとキュートなイケメンが頬を染めて顔を蕩けさせている…さすが、絵になる。
うん、何故かわからないけど…とりあえず、失礼な去り方をした事を謝らないと。

「あの…いきなり消えてすみませんでした…」

「!…そうね、ごめんなさい」

私がぶっ倒れたせいなのに、フィオレンツァも一緒に謝ってくれた。

「これには事情がありまして…」

「っ!!オレがエルフの事、嫌いって言ったから…?」 

「え…?」

どう伝えれば…と考えながら謝っていると、少年が大袈裟に反応し、急に表情を曇らせた。

「ごめん、なさいっ…」

え…な、泣きそう…?
そんな辛そうに…そもそも何に対して謝っているのだろう。

思わず、状況も忘れて心配になってしまう。
気が付いたら近寄り、フィオレンツァと一緒に背中を撫でていた。

「どうしたの…?大丈夫…?」

「まあっ…何処か痛いの?もしかして船に酔ったのかしら…」

「ちがっ…たすけて、くれたのに…おれい、も、できなくて…おれ、がっ…しつれいな、こと、いったから…」

ひええぇっ!?
私たちは余計な事をしてしまったのか…少年はついに泣き始めてしまった…。
フィオレンツァは困ったように微笑みながら、少年の頭を撫でている。

あわあわしながら青年に視線向けて助けを求めると…彼は申し訳なさそうに笑った。

「ルディは恩人の貴女たちに失礼な事を言ったうえ、気を遣わせてしまった…と気にしていたんだ。そのせいで謝罪もお礼も言えずに…ごめん」

「へ…!?い、いえ…お気になさらないで下さいっ…」

「まあ…そうよ、気にしなくていいのに…」

青年の言葉に目を見開いてしまった。
どうやら二人は、わざわざ謝罪と感謝を伝えに声をかけてくれたという。
な、なんて律儀で誠実な人たちなのっ!?

「だ、だめだっ!…ごめんなさいっ…ありがとう…」

「一番最初に言わなくてはいけない事だった……本当にありがとう…言葉では言い表せないくらい感謝している。貴女たちがいなかったら最悪な死を迎えていたはずだ…ルディを置いて……何かお礼をさせてくれ。何でも言ってくれ」

真剣で、たくさん気持ちが込められた言葉だった。
感謝を求めていたわけではないけど…真っ直ぐ伝えられた言葉に心地よさを感じる。
びくびくしていた自分が恥ずかしい。

「…そのお気持ちだけで、十分です」

「ええ…それだけで嬉しいもの」

別に器大きいアピールをしているわけでない。
ただ、単純に嬉しかっただけ。
この世界でフィオレンツァ以外から初めてもらった温かい言葉…彼女も同じ事を思っているはずだ。

「そういうわけには…!」

「そうだよっ!」

「わっ」

「あらっ」

それでも彼らの熱量は凄まじく、譲れないというように手を握られた。
私は青年に、フィオレンツァは少年に。

わああ…どうしよう…。
フィオレンツァと困った笑みを見合わせていると…そんな和やかな雰囲気を壊す警鐘が鳴った。

「大変だ!船内に隠れて下さいっ!海賊船です!」

見張りの船夫が、そう、声を張り上げていた。
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