美幼女の女神様を幸せにしたいだけなのに執着されていました

きみどり

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女神様のやりたい事

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昼前…人助けをした去り際にぶっ倒れ、フィオレンツァに多大なる心配と迷惑をかけた。

起きるまでそばにいてくれて…ずっと手を握ってくれていたらしい。
フィオレンツァの綺麗な眉はハの字で、瞳はうるうるしていた………目元は赤く腫れ、頬には涙が流れた痕が。

胸がギュンッと締め付けられた。
私はフィオレンツァを幸せにしたいのに…こんなにも不安にさせてしまったなんて…。

それでも優しいフィオレンツァは『わたしが無理をさせてしまったから…』と言ってくれたのだ。
自分の限界を理解していなかった私の責任なのに…きっと気張り過ぎて、必要以上の力を無駄に使ってしまったのだろう。

意識を取り戻したのは夜。
私は見慣れたベッドで目を覚ましたのだ。

ーーー『異空間部屋』のベッドで。

私とフィオレンツァだけが出入りできる、文字通りの異空間に存在する部屋だ。

内装は、白い壁に木製の床や家具というシンプルで落ち着けるものにしている。

私なら収納だけでなく、異空間に部屋を造れるはず…とフィオレンツァが教えてくれたのだ。

その際…今まで当たり前のように使っていたが『異空間魔法を使える人は世界で数人いるかいないかと言われているの。この能力を利用しようとする人がいると危ないから絶対知られないようにね?』とも教えられた。
ひえ…怖い…絶対バレないようにしないと…。

話を戻すが、何故、意識を失った私をフィオレンツァがここに運べたのかというと…魔法使用者が許可した人物なら自由に出入りができるらしい。

私がぶっ倒れた瞬間、異空間魔法がバレないように青年と少年に目眩ましの魔法を放って異空間部屋に入ったという。
なんという素晴らしい判断力…泉全体にも結界を張っていてくれたので周囲からの心配もないだろう。

謝罪と感謝の言葉を伝え、しばらくフィオレンツァを抱き締めていた。

フィオレンツァは甘えるように胸に頬擦りをし、だんだんと表情をゆるめ…やっと安心してくれた。

で、だ。
二人とも気持ちが落ち着いた頃…気合いを入れ『さあ、昼間の分も頑張ってご飯を作らないと!』とベッドから立ち上がろうとした……が、フィオレンツァに止められた。

倒れたのだから今日は絶対安静と言われ、幼子を叱るような上目遣いで注意されたのだった。


ーーーそして、今現在。
木製の匙を差し出され、口を開く。

「シシー、あーんっ」

フィオレンツァお手製のお粥。
感動しながらパクンッと口にすると、彼女の頑張りが窺える味だった。
うん…これは……かなり悪戦苦闘をした事だろう。

米を洗っていないのか、糠の匂いがする。
具や味付けはなく、煮込みすぎて粒が消え、焦げた匂いもし、米糊みたいになってしまっているが…それでも形になっている!
すごいすごいだね、フィオちゃん♡

私にとっては世界一のお粥なの!

料理を全くした事がないフィオレンツァが、私の見よう見まねで頑張って作ってくれたのだ。
ふふ…朝食にお粥を作っていた時『これならわたしでもできそうだわ!』って言っていたもんね。

私が頻繁に『あーん』をするから、フィオレンツァはそれも真似するようになったし…ああん、もうっ…可愛すぎる。
えらいえらいだね、フィオちゃん♡

「美味しいよっ」

「本当…?綺麗な部分だけ掬ったのだけど…シシーみたいに上手に出来なかったから……あのね、お鍋の底が焦げてしまったの…ごめんなさい」

しゅん…と叱られた子犬のように落ち込むフィオレンツァ。

煮込みすぎて鍋の底が焦げ、上澄みだけを掬ってくれたみたいだ。
初めてのお料理、一生懸命頑張ったんだね!
最初は心配で気が気じゃなかったけど、火傷や怪我がなくて本当に良かった。

「大丈夫、鍋は後で綺麗にしようね。初めてなのに凄いよ、フィオちゃん!ありがとうっ」

ふにゃふにゃ笑いながら頭を撫でると、柔らかな笑みを見せて安心してくれた。

「もお…シシーはわたしに甘いのだから…」

「だって嬉しいの」

「もおぉ…」

あ、何今のキュン顔…可愛い。
嬉しそうな、拗ねたような、照れたような…本当、可愛いのはフィオレンツァの方だ。
私の何が可愛かったのかわからないが、フィオレンツァのこんな可愛い表情を引き出したのは自分だと思うと非常に気分が良い。

「フィオちゃんかわいい」

「いいえ、シシーが可愛いのっ。そんな可愛いお顔でそんな可愛い事言われたら堪らなくなっちゃうわ」

頬っぺたを両手でおさえる仕草に私も堪らなくなる。
はぁ…もうやる事全部可愛い、好き。

「へへへぇ…しあわしぇ…」

お粥だって、フィオレンツァに甘いとかじゃなくて本当に嬉しかっただけだもの。
私のためにこんなに頑張って料理してくれた人…今世ではいなかったのだから仕方ない。

エルフは自然派の菜食主義。
お茶を淹れる、何かを煮る…など、最低限の調理しかしない。
だから…料理やお菓子作りをする私は、それだけでかなり浮いていたと思う。

エルフらしくない行動に当然苦言や注意を受けたが、意外な事に強くは言われず、非難はされなかった。
菜食主義といっても基準がゆるいらしく、卵や乳製品はセーフだったからだと思う。

私の作ったものが思いの外口に合ったのか、甘いものが好きなのかわからないが…良く、何かと理由をつけて焼き菓子を取られたなぁ。
気位が高い故、素直になれないエルフたちに物凄く下手な…いや、壊滅的なおねだりをされたものだ。

エルフはそういった文化だったから期待はしなかったけど…世界中の専業主婦・主夫の気持ちが痛い程わかった。
たまには、誰かが自分のために作ってくれたご飯食べたいよね…って。

「まあっ…ふふ、これからもシシーのためにお料理頑張って覚えるわねっ。今度こそ上手に作るわ!」

「フィオちゃんっ…!うんっ…いっぱい一緒にお料理しようね」

「ええっ!お料理だけではなくて、一緒にたくさんの楽しい事をしましょうねっ」

じいいいんっ…胸が熱くなる。
フィオレンツァは私を幸せにするのが本当に上手だ。

「シシーとやりたい事はたくさんあるのっ!まったり船旅をしたり、釣りをしたり、お祭りを楽しんだり…あっ、北部で雪も見てみたいわ!わたし、南部から出た事がないの」

「くうぅ…フィオちゃんのやりたい事、全部やろう!」

フィオレンツァは声を弾ませて話したが…前世の彼女を取り巻いた闇が窺えた。
おそらく、南部どころか国から…いや、神殿からほとんど出た事がないのかもしれない。
聖女が神殿から出る事があるとしたら…王宮からの呼び出しや何かの行事くらいだろうか。

自由のない環境、意味があるとは思えない規律、徹底されたスケジュール、質素な食事…想像するだけでも息苦しくなる。

どんな危険があるかわからないから、あまり文明と関わりを持ちたくないが…フィオレンツァのためだ。

ーーーよし!
治安の良い栄え国を見つけて、安全に目一杯遊んで貰おう。

どうやって情報を得よう…。
パッと、あの青年と少年が頭に浮かんだが…すぐに考えを取り消す。

もうここにはいないはずだし…いたとしても、どんな顔して聞くというのだろう。
醜態を晒したうえ、少年はエルフが大嫌いな訳で…極めつけにはいきなり目眩ましをして消えたのだ。
恩があるとしても印象は最悪だろうし、正確な情報を教えてくれるとも限らない。

うん……ないと思うけど、見かけたら避けよう。

とりあえず、海辺の町を目指そう。
港は人や物資が行き来する場所…という事は各地の様々な情報が集まりやすい場所でもある。
安心はできないが…物資が豊かな分、ある程度栄えている可能性もあり、おおっぴらに悪事を働く者はいないかもしれない。

魔法で人間に化けて情報を集めよう。

状況次第では、フィオレンツァのやりたい事の一つ『まったり船旅』ができる。

あ、路銀は大丈夫。
私の魔力を固めて作った結晶石を売れば、結構な値がつくらしい。
フィオレンツァが教えてくれたの。

ただ…売る場所や売り方、姿、立ち振舞い…全てに気を遣わないといけない。
誰に見られているかわからない…悪徳商人や危険人物に目を付けられないようにしないと。

さっそく、これからの事をフィオレンツァに相談すると…彼女は瞳を輝かせながら気合いを入れた。

「なら、シシーは人間の少女になって!わたしはそんなシシーのお姉さんになりたいわっ。筋肉隆々の大柄な女性になってシシーを守るのっ!」

大金を所持して襲われないように牽制してくれるらしいが……ゴリマッチョなお姉ちゃんか……その発想はなかった。

さすがフィオちゃん…!
姉妹設定ならいつもの感じでいられるもんね…!

……と思っていると、今度は真剣に悩みだす女神様。

「はっ…!でも、シシーは可愛いから目立ってしまうわ…どうしましょう…わたしのシシーに目を付ける輩がいたら……汚らわしいわ」    

「フィオちゃん…それは身内の欲目が過ぎるよ…」  

最後の『汚らわしいわ』だけ声のトーンが下がった。
フィオレンツァは絶対に譲れない事に対して、その…少々、過激になるタイプなのかもしれない。
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