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失態
しおりを挟む「え…?」
「まあ…ふふっ」
私たちを見て、うわ言のように呟く青年。
一瞬『フィオレンツァの正体を見抜いたのか…?』と焦ったが、意識が朦朧とした状態では考えにくい。
私と違い、フィオレンツァは平然としている。
本当にバレていたら、鋭い彼女はすぐに気づいているはずだ。
はぁ…杞憂だったみたい…良かった。
ただ…念話で誇らしげに『ふふんっ!わたしのシシーは女神と見紛うくらい可愛いのよ!』と良くわからない事を呟いている。
いや、あの…私の事ではないと思うの…絶対に。
うーん…でも何でいきなり…。
あ、まさか…視界に入ったフィオレンツァが可憐すぎて比喩として言ったの?
うん…あり得る。
幼女だが、フィオレンツァは目を奪われ、見とれてしまうくらい美しい。
寝起きに包容力たっぷりの柔らかな微笑みを見たら、その神聖さに後光が差して見えるだろう。
それをドンピシャで『女神』と表現するとは…素晴らしい感性の持ち主だ。
なんて好感が持てる青年だろう。
フィオレンツァが正しく理解された事が嬉しくて、思わず頬が緩んでしまう。
片手を抱き込んだままの両手にキュッと力が入る。
「痛いところや、違和感があるところはありませんか?」
「……………………」
本当に大丈夫か問いかけると、寝ぼけたように見詰められた。
まだ脳での処理が追い付いていないみたいだ。
あ…配慮が足りなかったかもしれない。
あんなに苦しんでいた青年が、私たちを認識できてるわけない…何者かわからない者に急に話しかけられて混乱したに違いない。
大変な思いをしたのだから、ゆっくり相手のペースに合わせないと。
「ご、ごめん…まだ何が起こったのか把握できてないみたいで…!アレク…オレがわかるか?もう大丈夫だぞ」
反応を待っていただけなのだが…私が困っていると思って少年が気を遣ってくれた。
「…ル、ディ……たしか、俺は……………っ!!」
仲間からの問いかけで脳が刺激され、思考が働き始めたのか、青年はハッとしたように起き上がった。
「わっ…まだ動かない方が…」
「そんな急に動いては身体に悪いわ」
呪いも怪我も治したが、急に動いては身体がびっくりしてしまう。
「痛みが…苦しく、ないっ…?」
だけど…青年の耳には届いておらず、何事もなかったように回復している身体に驚愕していた。
「手が、腕が、動く…って、え…なっ!?」
自身の身体を確かめ、抱き込まれた片手に気づくと…更に驚いたように目を見開き、すっとんきょうな声を上げた。
「あっ…すみません…」
「っ…い、いや…」
そ、そうだ…もう治ったから必要ないんだった!
青年は今までの経緯を知らないし、予想外の連続だろう…ああ、警戒心を煽ってしまったかもしれない。
「あ、あの…体調はいかがですか?」
顔色は赤みが戻ってかなり良くなっているようだし…これ以上不信感を抱かせないため、あまり長居しない方が良いだろう。
「や…そ、その…」
「アレク、この人たちがオレたちを助けてくれたんだ」
「っ!!そ、うだったのか……だが、その…ええと…」
動揺する青年に、少年がそう言ってくれた!
あ、ありがたい…!
だが、まだ様子がおかしい…どうしたのだろう。
フィオレンツァが心配そうに眉を下げたので、余計に心配になってしまう。
「まだ…何処か痛いかしら…?」
「大丈夫ですか…?」
不安そうに尋ねると、青年は何やら気まずそうに視線をそらし…歯切れ悪く言った。
「っ…いや…あなたたちは、何故…その…」
「……は!………あっ…なる、ほど…っ…」
同じく頭に疑問符を浮かべていた少年が、何かを察したように呟き…何故だか顔をぶわっと赤くすると、挙動がぎこちなくなった。
青年は言いづらそうに口にした。
「何故…ふ、服を着ていないんだ…?」
「…………………」
「…………………」
顔を真っ赤にして恥ずかしそうに顔をそらす青年と少年を見て…私とフィオレンツァはまさに『ぽかん…』という風に目を点にした。
そして数秒おいて、自分たちの格好を思い出す。
「そ、そうだった…」
「あらまあっ…!」
私とフィオレンツァは顔を見合わせて声を上げた。
緊迫した中、つい必死で忘れていた。
「わたしたち、水浴びをしていたの…ごめんなさい」
「ご、ごめんなさいっ!すぐに着ます!」
瞬時に魔法で服を着ると、二人は安堵のため息をついた。
「お、お見苦しい姿をお見せしました…すみません…」
「っ…そ、そんな事…な、い…」
「むしろ良いも、…って、いやいや…オレ、何て言おうとした…?」
「水浴び…水浴びをしていたのか……そ、うか……って、俺は何を考えているんだ…」
果てしなく気まずそうな二人…。
気を遣ってもっているのが余計にいたたまれない。
冷静になってみると、自分の行動がかなりヤバかった事に気がつく。
は、恥ずかしすぎる…これは完璧な変質者ではないか。
慎み的な意味でも、マナーや品位はどうやっているんだとかドン引きされてた事間違いなし。
本当に二重の意味で恥ずかしい。
しかも…フィオレンツァの可憐で美しい裸体を晒してしまうなんて。
私のせいだ…私が忘れる前に言っていれば…!
「シシー…ごめんなさい…わたしが急に飛び出したから…!ああ…どうしましょう…可愛いシシーの綺麗な体を晒してしまったわっ…」
「フィ、フィオちゃんっ…そんな事はいいの!私はフィオちゃんが心配でっ…!」
「ううん、わたしはいいのよ…それよりシシーが…」
「な、なぁ…二人とも女の子なんだから自分を大事にした方が…」
二人で落ち込んでいると…少年が控え目に、慰めるように声をかけてくれた。
あ…なんて事だ…更に困らせて気を遣わせてしまうなんて。
お互いに自分の失態を責めて、つい、二人の世界に入ってしまった。
少年はエルフが嫌いと言っていたし…彼らのためにも、これ以上醜態を晒さないためにも、体調の確認だけして早急に立ち去ろう。
「あ、すみません…あの、完全に治ったとは思いますが…体調は…」
「…!ごめん、ずっと聞いてくれていたな……大丈夫だ。何処も痛くないし、苦しくない。それどころか、力が溢れてくる。ここに来る前より体調が良い」
青年は少し困ったように笑い、そう言った。
私はそれを聞いて、やっと心から安心できた。
「良かった…あなたが元気になって」
「ええ、本当に良かったわっ」
自然と笑顔が浮かび、心からの言葉が飛び出した。
だって…私がこの少年だったら、心配で心配で堪らなかったもの。
ひとりぼっちになるかも知れない…って。
「な…」
「え…」
何故か二人は戸惑って返事に困っているようだが……でも、これでやるべき事は果たした。
お別れの時間だ。
フィオレンツァに視線を送ると『うん』と頷いて、私の意図をわかってくている…嬉しい。
えへへ…今日はいっぱい頑張ったフィオちゃんにご馳走作ってあげなきゃ。
木の実たっぷりのパウンドケーキとかぼちゃのシチュー、タルタルソースのかかった唐揚げ、クリームコロッケ…彼女の好きなものをいっぱい。
まずは何が食べたいかリクエストを聞かなくちゃ!
そう、気を緩めながら立ち上がった。
「では、あまり長居するとご迷惑だと思いますので失礼しまーーーえ…?」
「っ!?シシー…!」
わ…あれ…くらくらする…?
別れの挨拶を口にした瞬間…いきなり視界が揺れ、意識が遠のいた。
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