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癒しの祝福
しおりを挟む少年はハッとして目を見開き、私の顔を見た。
瞳は活力が、頬には赤みが戻って…少年は必死に私たちへ言った。
「ーーー!あ…この人をっ!アレクを、助けてっ…!」
少年の様子がさっきと変わったのだ。
やってしまった…と思ったが…少年は私を拒否せず、勇気を出してくれた。
「ええ…!」
フィオレンツァが花が咲いたような笑顔を浮かべ、頼もしく返事を返した。
「…ありがとうございますっ」
「っ…何であんたがお礼言うの…」
気まずそうな、呆れたようなニュアンスで返されたが…それには柔らかさ含まれており、心根の良さが窺える。
何でわからないが、私たちを受け入れてくれた。
大事な人のため、歩み寄ってくれた事に感動した。
少年は一歩下がり、私たちが治療しやすいようにスペースを開けてくれた。
「フィオちゃん、私はどうすればいいのっ!?」
「この子の手を握りながら『元気になって』とたくさん気持ちを込めて!」
一瞬『それだけ…?』と思ったが、フィオレンツァは意味のない事なんてしない!
「わかった!」
私は、青年の氷のように冷たくなった片手を握ると、少しでも温まるように両手で胸に抱き込んだ。
そして青年、少年、フィオレンツァのために強く気持ちを込めた。
死なないで、生きて。
大事な人のために元気になって。
すると…青年の身体が淡い緑色の光に包まれ、紫色に変色した両腕が元の色に戻り始めていた。
え…こ、これは…どういう事なのだろう。
あれ…ちょっと、クラクラする…力が入らない?
「今だわ!」
戸惑っていると…チャンスというように、隣でフィオレンツァは神聖力と最大治癒魔法を同時に使い、浄化をしながら回復を行った。
「くっ…シシーがっ、頑張ってくれたの、だからっ…わたしも、頑張るわっ…!」
少し辛そうにしながらも、二つの術を抜群のバランスで使い…その効果はすぐに現れた。
青年の身体が、みるみる回復している…!
「っ…す、ごい…本当に、治った…って、オレの怪我まで治ってる…」
さすがフィオレンツァ。
少年が、目の前の奇跡が信じられない、夢でも見ているよう…というように目を丸くして言った。
「ふふ…今は眠っているけど、この子は強いからすぐに起きるはずよ」
「本当かっ!?アレクッ…アレクッ…良かった、本当に良かった…!」
青年に抱き付いて嗚咽を漏らす少年…今までギリギリ押さえていた感情が、緊張の糸が切れた事で、一気に溢れだしたのかもしれない。
謎の疲労感と脱力感に襲われつつも、青年が助かり、少年がひとりぼっちを免れ、ハッピーエンドを迎えて安堵した。
「はぁ…良かったわぁ……シシー、大丈夫?」
「うんっ…フィオちゃんは…?」
「わたしは少し疲れただけだけど…シシー、とても疲れたんじゃない…?」
ジッ…と、可憐な瞳で心配そうに見詰められ、正直に答えるしかなくなる。
「じ、実は何故かクラクラして、力が入らないの…私どうしちゃったの?」
ちょっと不安になって疑問をぶつけると、フィオレンツァは私にだけ聞こえる念話で答えてくれた。
だけど、私はその内容にとても驚く事になる。
『まあ…やっぱり。そのね、わたしが癒しを司る女神だからわかるのだけど…シシーには『癒しの祝福』という特殊能力があるの。あなたが温かい気持ちを込めて対象に触れると、対象の心身を癒し、その人が一番望む力を与えるの。あなたはそれを絶妙なタイミングで無意識にやっていたの。ただ、シシーが嫌がっていたり、シシーの心を無視したものは無効になるわ』
「……………………………へ?」
『例えば…わたしの一回目は女神像を見つけたあなたに初めて頭を撫でてもらった時。二回目はあなたが最後の挨拶をしに来て、わたしに抱き付いてくれた時よ』
フィオレンツァ曰く、一回目は心が癒された事で深い眠りから覚め、初めての温もりを得た。
二回目は私の思いに満たされ、実体化と念話ができるほど力をもらったらしい。
そして…少年が受け入れてくれたのも、私の気持ちと温もりが伝わり、彼の中で勇気が生まれたらしい。
な、なぜ、そんな凄い力が私にっ!?
やだ、え、怖い…どうしよう…。
『この子の場合は、あなたの力が呪いに対して中和薬のような役割を果たしたの。そのおかけで呪いは穢れに変化し、わたしの神聖力で浄化できたの』
「………………………え」
え…呪いを解呪したのではなく、中和したの…?
そんなのアリなんだ…びっくり…驚き過ぎて、もう何がなんだかわからないよ。
というか…フィオレンツァはサラッと言ったが、強力な穢れだったに違いない。
それを『ちょっと疲れた』くらいですぐに浄化できてしまうなんて凄い。
『ふふ…この子はシシーのおかけで『呪い無効』の力を手に入れたわ。これでもう呪いに苦しむ事はない…良かったわ』
む、無効…?
いや、青年が呪いに苦しむ事がなくなったのはとても良い事だが。
そこは耐性では…と、もはやチートと言っても過言ではない能力に震える。
完全に身の丈に合ってないっ!
『シシーには呪いや穢れ、毒は効かないし…あ、でもね?とっても素敵な能力だけど、危ないから誰にも話しちゃダメよ』
はい、もちろん。
私は何度も首を縦に振った。
面倒な人たちに目をつけられて、絶対面倒な事になる。
『ふふ、いいこねシシー』
うん…最後にサラッと凄い事言われて知っちゃったし。
女神のフィオレンツァに効かないのも言わずもがな。
ーーーああ、どうしよう、気をつけないと。
「…………う……」
思いもよらない新事実に衝撃を受けていると、眠っている青年がぴくりと動き、微かに声を上げた。
「アレク!起きたのか…!?」
「る、でぃ……?」
少年はそれに素早く反応し、飛び上がるように顔を上げた。
まだ起きたばかりの脳では状況が把握できないのか、青年は声に反応し、反射的に少年の名前と思われるものを発した。
「あらっ…」
「良かった…」
大丈夫だとは思うが…もう少し経ったら、念のためおかしいところや痛いところがないか確認しないと。
「………………」
それにしても…この人、綺麗な瞳。
クリスタルみたいなアイスブルーをしている。
目も切れ長なのにあまり尖った雰囲気がないというか…落ち着いているというか…何とも正統派のイケメンらしい。
少年もまるで本物の琥珀みたいに綺麗な瞳だし…イケメン補正なのかな…。
つり目で少し生意気そうなのに、こちらも雰囲気がマイルドというか…それがキュートに見えるというか…。
何だろう…この全身から溢れ出る“メインキャラ感”は。
前世の漫画や小説などに出てきそうなルックスだ。
物語の中だと、こういう人たちって“何かを抱えた”強い人たちなんだよね。
読者視点ではドラマチックだけど…その、危険がつきまとう大変な人生を歩んでいるとか。
な、なんて…考えすぎか。
ここはあくまで今の私の現実だが、どうしても前世の異世界転生作品と共通点を繋げてしまう。
根拠なんてないのに…。
駄目だなぁ、こういう考え方が一番危ない。
そんな下らない事を考えていると…青年がこちらに視線を向け、じっと見詰めている事に気がついた。
え、何だろう…どうしたのかな。
頭に疑問符を浮かべながら顔を覗き込むと、彼はまだ覚醒しきっていない、ぼんやりした様子でこう言った。
「………………………女神が、いる」
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