美幼女の女神様を幸せにしたいだけなのに執着されていました

きみどり

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不穏な音

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故郷から離れた遠い森で、私たちは仲良く水浴びをしていた。
神秘的で綺麗な泉を見つけたのだ。
もちろん、フィオレンツァの女神様チート能力でチェックが入り、水質や危険生物がいないか確認もした。
モンスターや人の気配はないが、念のため自分たちが使うエリアだけに結界を張って安全も確保したから安心。

「シシー、わたしが髪を洗ってあげるわっ」

「うんっ!ありがとう、フィオちゃんっ」

フィオレンツァが洗いやすいよう浅瀬に座り込む。

楽しそうに水浴びをするフィオレンツァを見て、このほのぼのした幸せに笑みが溢れる。


フィオレンツァと絆を深く結んだ日、私は予定を早めてすぐに出発した。

集落に戻り、長老にだけ挨拶をし、荷物をまとめて異空間に収納すると、女神像前で待っていたフィオレンツァを連れて。

急いで戻ってくると、フィオレンツァは不安そんな表情を和らげて笑ってくれた。
本当は私について行きたかったのに、我慢して待っていてくれたのだ…めちゃくちゃ抱き締めた。
もう…置いていくわけないのに。

それから…フィオレンツァの許可を取り、大事な大事な女神像も異空間に収納し、魔法の箒で空へ飛び立った。

前世のファンタジー小説の魔法使いに憧れた私が、箒に魔法を練り込んでこっそり作ったアイテムだ。

やっぱり魔法と言えば、魔法の箒!
安全は確認済み…これを作るまで、材料から術式まで大変だった。

乗り心地もしっかり考えた。
おまたが痛くならないように、低反発クッションを巻いて固定しているの。

だけど、フィオレンツァには『ほ、箒…?箒で飛ぶの…?シシーは発想豊かなのね』と戸惑ったように驚かれた。

どうやら…前世のファンタジー小説と違い、この世界に『魔法の箒で空を飛ぶ』という常識はないらしい…。
念のため、箒に姿消しの魔法を組み込んでおいて良かった。

ーーー目立たないようにしないと。

私は町や村で暮らしたり、必要以上に人に関わって生きるつもりはない。
そして、前世のフィオレンツァを迫害した国には絶対関わりたくない。

ただでさえエルフというだけで目立って危ないのに…前世の知恵を使い、更に注目を浴びるのは危険だ。
いつ誰の目に留まるかわからない…利用されるのはごめんだ。

聞くと、フィオレンツァが女神に生まれ変わってまだ十九年しか経っていないらしい。
こんな短い間で、世界が変わるわけがない。

また、きっと…フィオレンツァを脅かし、傷つける。

だったら、何処か安全で静かな場所を見つけて、二人で仲良く暮らす!

最初は…後々、私が寿命を終え、フィオレンツァをひとりぼっちにさせてしまうと悩んだが…彼女は『シシーが亡くなったら、あなたの魂についていくわ』と笑顔で言った。

嬉しい半面『それは私のためにフィオレンツァが命を絶つ…?』と表情を暗くすると、それを察したフィオレンツァは慈愛に満ちた表情を浮かべた。

ーーー『大丈夫、あなたについて行くだけよ。シシーのいない世界なんて…ひとりぼっちじゃなくても嫌だもの』

私はその言葉を聞いた瞬間フリーズ。
数秒後、だらしなく顔をゆるませてにやけてしまった。

え、えへへ…思い出したらまた顔がにやけて…。
死んでもフィオちゃんがついて来てくれる…嬉しい、死ぬ事が怖くなくなった。

しかも、私とフィオレンツァが生まれ変わった年が同じとか…もう運命だよね?

「あら…?まあ、ふふ…そんな可愛いお顔をしてどうしたの?」

「ふ…へへ…しあわしぇ…」

「わたしも幸せよっ」

ふわっと可憐に微笑むフィオレンツァ。
ばしゃんと音を立てて甘えるように抱き付くと、優しい手が頭を撫で撫でしてくれた。

「あらあら、よしよし」

「フィオちゃん…だいすき」

「わたしの可愛いシシー…わたしも大好きよ」

本当の幼女みたいな可愛い一面もあれば、急にママやお姉ちゃんみたいな一面が飛び出すフィオレンツァ。

少女が幼女に甘えている絵面はなかなかだが…仕方ない、この甘い包容力には誰も敵わない。

しかし…私とフィオレンツァの楽しいひとときに水を差す足音が聞こえてきた。

「!……………誰か来たわ」

何やら騒がしい声、焦ったような足音、大きな音を立てる茂み。
こちらに近づいて来ている…!

「っ…ひ…」

臆病な私は必要以上に怖くなってしまった。
小さく悲鳴を上げると、フィオレンツァがギュッと強く抱き締めてくれた。

「大丈夫よ、シシーはわたしが守るわ」

「フィオちゃん…」

落ち着いた、毅然した声が耳元で響く。

さすが元聖女様…色んな修羅場を潜ってきたのかもしれない、肝が据わっている。
そしてこの安心感と頼もしさ…カッコいい。

結界でこちらの姿は見えず、声や音は聞こえない。
焦らず、じっとして様子を窺う。

しばらくすると…何を言っているか明瞭に聞こえた。

「おい、しっかりしろっ!」

「…いっ……はぁ…はぁ…」

切羽詰まったような声、乱れた息ーーーそして、血の匂いに混ざった妙な匂い。

中傷を負ったボロボロな少年が、血まみれで苦しそうな青年を背負っている。
見ただけでもわかる…青年はかなりの重症だ。

「……なんて事…あの子、呪われているわっ…」

青年の紫に変色した両腕を見て、フィオレンツァが重い言葉を発した。
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