美幼女の女神様を幸せにしたいだけなのに執着されていました

きみどり

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私の女神様

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彼女は混乱する私を優しく落ち着かせ、自分が何者であるかを丁寧に話してくれた。

ーーーフィオレンツァ、癒しを与える花の女神。

かつて聖女だった前世を持つ女神。
強力な癒しの力を持つ彼女は、人々のために辛い日々を過ごし、心を殺し、身を粉にして尽くしていたのだが…それは仇として返された。

新たに聖女を名乗る少女が現れ、周囲は新聖女に心酔し、聖女フィオレンツァに無実の罪を着せて火刑に処したらしい。
一番辛く、長く苦しむ刑に。

私の、大事な女神様に…大事な家族になんて事を。
聞いているだけで苦しかった。
酷い悲しみに胸を締め付けられ、強い怒りが込み上げてきて…気が付いたらボロボロと涙を流していた。

女神フィオレンツァは、そんな私へ慈愛の溢れた瞳を向け、優しく頭を撫でてくれた。

『あなたは、本当にわたしを大切に思ってくれているのね。ありがとう…あなたの優しい気持ちで、前世のわたしは十分に報われたわ』

ーーーあなたに出会うために、私は女神になったのかもしれない。

そう…その悲劇を不憫に思った創造神が、彼女の魂を優しく包み、花の女神に転生させたのだった。

せめて…偉業を称える意味を込めて、前世の姿を模した女神像を何者にも脅かされないように森の奥深くに置いたのだ。

エルフの森深くなら…静かで、彼女に干渉する者も、傷つける愚か者はいないから。

彼女は長い深い眠りつき…ある少女の、頭を撫でる優しい手と、言葉で目を覚ました。

『女神さまっ!きれいになったよ!ひとりぼっちでたえてつらかったね…えらかったね。いいこいいこっーーーって、あっ…ご、ごめんなさい、つい……私は、なんてばちあたりなことを…!』

女神像を見つけ、初めて掃除して達成感に満ち溢れた私の言葉でーーーああ…もうっ、恥ずかしい…あんなのを聞かれていたなんて。

それから、ずっと私を見守ってくれていたらしい。

「……十年間、ずっとそばで聞いてくれていたんですね」 

「ええ、チェチーリアがいつも頑張っていたのをわたしは知っているわ…いつも霊体で抱き締めていた。あなたが辛い時…何度声を届けたいと、ちゃんと抱き締めてあげたいと思ったか……まだ念話や実体化が出来なかったの」

「女神様…」

そうだったんだ…嬉しい。
本当にずっと、そばで寄り添ってくれていたんだ。

「さっき…あなたが抱き締めてくれた瞬間、心に暖かいものが流れ込んできて…そしたら、出来るようになっていたのよ。あなたの気持ちのこもった言葉と行動は、いつもわたしに力をくれるわ」

え…なんて奇跡的なタイミングなの。
偶然なのはわかっているが、私が彼女の力になっているみたいでとても嬉しい。

「わたしの事を、わたしのためだけに考えてくれる人…チェチーリアが初めてなの。いつも癒しと、安らぎを与えてくれたわ」
 
「っ…女神、さま…」

ぎゅんっ…と、また胸が締め付けられる。
彼女は穏やかな笑みを浮かべているが、内容は重い。

今まで…それはきっと、前世の事だろう。
自分を犠牲にして頑張ってきた彼女を…周りは聖女として当然だと決めつけ、気にも止めなかったのに違いない。
彼女だって、心を持った人間だったのに。
苦しいし、疲れるし、辛かったはず。

ーーー私がフィオレンツァを幸せにしたい。

そんな言葉が、何の迷いもなく当たり前のように浮かんだ。
早速、フィオレンツァ幸せ計画を立てなければ…と思考を巡らせていると、彼女が甘えるようにお腹へ抱き付いてきた。

「チェチーリア…ううん、シシー?私たちは家族なんだから“女神様”はおかしいわ」

少し拗ねたニュアンスでそう言われた。
それに、シシー…シシーって愛称で呼んでくれた。
しかも上目遣い…可愛い、好き。

確かに…これから家族として一緒にいるのに“女神様”はおかしい。
名前が呼べて嬉しいが…恐れ多さから、やっぱりちょっと緊張してしまう。

「は、はいっ…フィ、オレンツァ様…」

「もう…“様”もいらないわ。敬語もなしよっ」

「え、でも…そんな、急には…心の準備がっ…」

「わたしたちは対等な存在なのっ。わたしはあなただけの女神になるのに…あなたはわたしの特別なのに…」

可愛らしいジト目で見られて、うっ…となる。
私に選択肢などない。

「わ、わかりまし、わかった…フィ、フィオレンツァ…」

「むー…距離が何だか遠いわ。わたしはシシーって呼んでるのに」

「あ、え、じゃ、じゃあっ、フィオちゃん…!」

どうにでもなれ…と、自分が呼びたい呼び方をした。
ひ、引かれたかな…?

「っ!!フィオちゃん…フィオちゃんかぁ……ふふ、あなたからの愛情と温もりを感じる素敵な呼び名ねっ」

「ーーーっ」

か、かわわわ、かわいいいいいいいいぃ。
フィオレンツァは心底嬉しそうに頬染め、可憐な瞳を緩め、ふんわり微笑んだ。
もう…メロメロになっちゃう。

おそらく今日初めて見た…甘さを含んだ、愛らしい幼い表情だった。

「あっ…そうだわ!実体化してようやくシシーのお供えものが食べれられるのっ」

「…!いっぱい食べてっ!全部フィオちゃんのためだけに作ったのっ!」

「まあ、ふふっ…シシーったら…本当にわたしを喜ばせるのが上手なんだからっ」

お供えしたパウンドケーキを差し出すと、目を輝かせて幸せそうに食べる絶世の美幼女。

「っ…お、美味しいっ…とっても美味しいっ。こんな美味しい食べ物、初めて食べたわ…」

「これからもいっぱい作ってあげる」

小さい両手で大事そうにパウンドケーキを持ち、小さいお口で少し食べずらそうに頑張って食べている。
本当に、とても美味しそうに。
なんて心が満たされる、幸せな光景だろう。


ちなみに…フィオレンツァの姿が幼いのは、女神としてまだまだ若く、未熟だかららしい。

「シシーは…女神像のわたしの方がいい…?」

「ううん、そんな事ない…今のフィオちゃん凄く可愛い…ずっとこの姿でもいい……でも、どんな姿でも好き…」

「シ、シシーったら……もう、ありがとう…シシーもとっても可愛いわ。大好きよ」

照れながらも、幸せそうな笑顔を溢すフィオレンツァ。

今世、エルフに転生して初めて良かった思った。
寿命が長いから、たくさんフィオレンツァのそばにいられる。
この笑顔、絶対守ってみせる。
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